バッテリー価格の下落傾向は今後も続くのか?

Dr Alex Holland
Battery for electric vehicles.
IDTechExの最新調査レポート「リチウムイオン電池市場 2025-2035年:技術、有力企業、用途、展望、予測」では、リチウムイオン電池セル市場は2035年までに4000億米ドル以上に達すると予測しています。 本記事では、IDTechExのリサーチディレクターであるDr Alex Holland が、バッテリーコストの低下と、これがリチウムイオン電池市場に長期的にどのような影響を与えるかについて取り上げています。
 
リチウムイオン電池のコストを構成する原材料価格
 
リチウム、ニッケル、コバルト、グラファイトなどの原材料費は、リチウムイオン電池のコスト全体の構成において極めて重要な役目を担っています。これらの原材料はバッテリーセルとバッテリー生産の中核となる要素であり、その市場動向がバッテリーの価格動向に直接影響を与えます。2022年、リチウムは需要の堅調な伸びによって空前の価格高騰が起きました。一方、ニッケルとコバルトもサプライチェーンが逼迫し、それがコスト高騰の一因となりました。同年において、NMC811電池のコストのうち、リチウム、ニッケル、コバルトの原材料のみで60ドル/kWhにまで高騰していた可能性があります。しかし、2023年に価格が下落したことで、2024年のこれら原材料のコストはわずか20ドル/kWh程度にとどまっています。
 
NMC811の正極活物質の価格はその基礎をなす原材料費の下落に伴い2022年以降下落傾向にある。 Source: IDTechEx
 
市場の競争
 
需給関係はバッテリー価格を左右する極めて重要な要素です。例えば、LFP系リチウムイオン電池は、NMC系のバッテリーケミストリーと比べて比較的低コストであることから広く使用されていますが、2022年に中国を中心に需要が急増したことで、LFP正極の価格はその基礎をなすリチウムと原材料価格に基づき、予想よりも速いペースで上昇しました。その結果、中国のLFP正極の生産能力が急拡大し、2023年から2024年にかけての設備過剰状態を招くことになりました。その後、LFP正極の価格は5ドル/kgまで下落し、生産業者の利益を圧迫しています。また、業界全体でより広く見られる傾向として、LFPの生産における競争の熾烈さも浮き彫りになっています。
 
当然のことながら、価格が低いというのは消費者にとって有益なことですが、市場シェアの拡大や業界への参入を目指している企業にとっては厳しい環境が生まれることになります。生産規模を拡大しようとしている新興企業はより低いプライスポイントを基準に競争することになりますが、サプライチェーン全体でも同様の課題が見られます。この典型的な例が、スケールメリットや人件費削減、良好なサプライチェーンの恩恵を受けられる中国やアジア以外に生産拠点を設立しようとしている企業やベンチャーです。ノースボルトなどの企業は生産規模を急拡大させることに苦戦しています。一方、欧州や北米の電気自動車(EV)メーカーは、低コストのLFP電池を使用することである程度成り立っている安価なEVが中国から流入してくることに対して今なお懸念を抱いています。
 
政策と技術革新
 
課題が待ち受けているとはいえ、リチウムイオン市場の中・長期的見通しが明るいことに変わりはなく、かなりの成長機会がサプライチェーン全体に広がっています。EVと再生可能エネルギーの導入は、どちらもリチウムイオン電池技術に依存するところが大きいため、その双方に対して幅広い政策支援が続いています。米インフレ抑制法や欧州の排出基準(EPS)といった政策や規制により、中国以外では安定したEV需要の創出が続くことになります。一方、再生可能エネルギーの導入拡大は、エネルギー貯蔵システムやバッテリー貯蔵システムの導入を引き続き後押ししていくことになるでしょう。
 
政策支援以外では、技術革新によってバッテリーの性能向上が続いています。全固体電池、シリコン負極、セル設計最適化の進歩や、より高度なバッテリーマネジメントシステムにより、安全性、エネルギー密度、充電速度、寿命の向上が図られたバッテリーが実現する可能性があります。実現すれば、コストと価格を現在のLFPよりもさらに引き下げるのは厳しいとしても、バッテリー式EVや定置型エネルギー貯蔵システムの価値提案をさらに高めることにはなります。政策と技術的進歩が組み合わされば、安定した需要の創出、サプライチェーンと原材料要件の多様化や、エネルギー密度と性能の高いバッテリー製品のコスト引き下げにもつながります。
 
まとめ
 
バッテリー価格は、原材料の価格や入手性から受ける影響がますます大きくなっていますが、需給関係が価格を決定する上で非常に重要なことに変わりはありません。バッテリー価格が低いというのは消費者にとって有益なことではあるものの、新たな投資を抑制することや、新規参入者にとって厳しい環境を作り出すことにもなりかねません。欧州や北米のバッテリー業界はこの問題をより切実に感じています。とはいえ、EVと再生可能エネルギーに対する幅広い政策支援やバッテリー技術の継続的な改良の恩恵を受けて、世界のリチウムイオン電池市場の見通しが明るいことに変わりはありません。
 
リチウムイオン電池市場の最新動向把握に、IDTechExの調査レポート「リチウムイオン電池市場 2025-2035年:技術、有力企業、用途、展望、予測」をご活用ください。

About IDTechEx

IDTechExの調査レポートは、
・アイディーテックエックス株式会社 (IDTechEx日本法人) が販売しています。
・IDTechExからの直接販売により、お客様へ各種メリットを提供しています。
・ご希望の方に、サンプルページ 送付します。
・その他、調査レポートに関する、質問、購入に関する問い合わせは、
 下記担当まで。見積書、請求書も発行します。
 
問合せ先
アイディーテックエックス株式会社
東京都千代田区丸の内1-6-2 新丸の内センタービル21階
担当:村越美和子  m.murakoshi@idtechex.com
電話 : 03-3216-7209
 
IDTechExは、調査、コンサルタント、サブスクリプションを通して、戦略的なビジネス上の意思決定をサポートし、先進技術からの収益を支援しています。IDTechExの調査およびコンサルティングの詳細については、IDTechExの日本法人、アイディーテックエックス株式会社まで、お問い合わせください。