バッテリー正極の革新が約束するより環境に優しいバッテリー
2024年6月25日
Dr Alex Holland
リチウムイオン電池の性能向上とコスト削減は、ここ10~15年間、リチウムイオン電池業界にとって最大の関心事でした。リチウムイオン電池の生産と展開が環境や社会に与える影響は、サプライチェーンの集中化に関する懸念もあり、ますます厳しい監視の対象になっています。これは、IDTechExが 調査レポートの中で予測している世界のリチウムイオン電池の需要が2023年から2034年にかけて16.7%の年平均成長率で増大することを考えると特に重要です。
例えば欧州では、近々導入されるバッテリーパスポートにより、炭素強度の要件が強化され、リチウム、コバルト、ニッケルといったバッテリー内に含まれるクリティカルマテリアルの量とその原産地に関する表示が義務付けられることになります。この規制により、業界がより持続可能な慣行を取り入れる必要性が浮き彫りになっているのです。
正極材のイノベーション
これまで、リチウムイオン電池技術における大きな進歩といえば、商用化されてから10年以上経つ正極材であるNMC(ニッケル・マンガン・コバルト酸化物)とNCA(ニッケル・コバルト・アルミニウム酸化物)の最適化が中心でした。これらの正極は、リチウムイオン電池内のコバルト源であると同時に、セルのコストを決定する重要な要因でもあるため、特に注目されてきた分野です。2022年のような材料価格の高騰期には、正極のコストがNMCセルの製造コストの60%以上を占めることもあり得るとIDTechExは予測しています。これまでコバルトの使用は、コンゴ民主共和国からの調達が問題視されてきたことから特に綿密に精査されてきましたが、リチウム、ニッケルなどの他の材料やグラファイト負極の生産への影響についてもよく検討する必要があります。
Cathode comparisons. Source: IDTechEx
これまで、NMC・NCA系正極のコバルト含有量は着実に減少しており、それに伴ってニッケル含有量が増加し、エネルギー密度も向上しています。企業は現在、超高ニッケル層状酸化物の商用化を進めています。これは、ニッケル含有量が90%に迫るもので(90%を上回るものも)あり、粒子構造・設計の他、被膜、電解質添加剤の変更によって実現されています。電解質、セル、バッテリーパックの設計を最適化することも、より安価なLFP電池の性能を最大化する上で不可欠でした。LMFP(リン酸マンガン鉄リチウム)はLFP開発における次の進化の象徴です。マンガンを正極に入れることで平均電圧の向上を実現し、エネルギー密度が10~20%高まる可能性があります。その結果としてLMFP電池はバッテリー1kWh当たりに必要な材料の総量を削減でき、バッテリー生産による影響を最小限に抑える重要な手段となります。また、Li-Mnを豊富に含む高電圧のLNMO(リチウム・ニッケル・マンガン酸化物)と最近導入されたDRX(不規則岩塩型)正極は、高ニッケル層状酸化物の高エネルギー密度とLFPの低コストのバランスが取れた選択肢となっています。このような進歩により、コバルトとニッケルへの依存度を最小限にとどめ、材料に関連する環境への懸念をある程度解消することも可能です。
正極の製造におけるイノベーション
材料のイノベーションだけでなく、正極の新しい製造・合成方法も商用化の初期段階にあります。これらの手法には生産時間の短縮や水とエネルギーの消費量削減を約束し、より低コストの前駆物質を使用できるようになる利点も加わっています。また、特に厳しい環境認可要件が存在する地域では、ますます厳しい監視の対象になりつつある硫酸塩廃棄物を排除することもできます。
代替合成法が関心を集めているものの、共沈法や固相合成法を用いた従来の方法が世界の正極生産の主流であることに変わりはありません。とはいえ、主に北米に拠点を置く数社は、代替の正極製造方法への移行を先駆けて進めています。その例としては、6Kエナジー、ナノ・ワン・マテリアルズ、Sylvatexなどが挙げられます。ダイレクトリサイクルをはじめとするバッテリーリサイクルルートは、正極の製造コストを引き下げ、関連する環境への影響を低減する別のルートとなります。
見通し
正極材の進歩だけでは次の変革的バッテリー技術の到来を告げることにはなりませんが、リチウムイオン電池の性能、コスト、環境フットプリントを最適化する上でその進歩は極めて重要です。環境問題に対応しつつ、需要の増大に応えるためには、材料においても製造工程においても継続的なイノベーションが不可欠となるでしょう。
更に詳しくは、IDTechExの調査レポート 『先進的リチウムイオン電池技術 2024-2034年』で、ご確認ください。リンク先からサンプルページがダウンロードできます。
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