脱炭素化が切り開くガス分離膜の新市場

脱炭素化が切り開くガス分離膜の新市場

Dr Richard Collins
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脱炭素化は、産業セクター全体の主要な市場ドライバーです。どのロードマップでも、技術的な対応可能性のスペクトルにまたがるソリューションの組み合わせが進化しており、それぞれに支持者と批判者がいます。このような戦略には、さまざまな科学的および工学的なペインポイントが存在するのは避けられません。そのような課題で幾度となく出てくるものが効率的なガス分離です。IDTechExが問いたいのは、そこに膜技術の市場機会は生まれるのか?ということです。
 
ガス分離膜の商業的利用は新しいものではなく、1980年代から2000年代初頭にかけて大きく成長しました。既存の膜はすべてのガス分離アプリケーションに適しているわけではありませんが、適切なユースケース(適切な原料、スケール、純度要件を含む)であれば、他の分離技術に勝ることができます。
 
市場は現在、新たな成長段階に入りつつあります。その原動力となっているのは、主に再生可能エネルギーと脱炭素化用途といった主要な市場要因と、こうしたニーズに対応する技術の進歩です。IDTechExはこの度、新しい調査レポートとして、『ガス分離膜 2023-2033年』は発行しました。この調査レポートは進化を続けるこの業界の重要な技術ロードマップ、企業動向、市場展望を提供しています。
 
高分子膜を使用することを他の分離技術(深冷や圧力スイング吸着など)と比較した場合のメリットとデメリットは用途によって異なりますが、低エネルギーなプロセスであるという膜の魅力や、選択性と透過性のトレードオフの限界、実際の環境での寿命などを中心とするものがほとんどでした。既存の高分子膜以外にも、研究は幅広く進められており、極めて有望な材料の多くは商業的な支持を獲得し始めています。また、そういった材料は、商業勢力図を塗り替えるのにも一役買うことになるでしょう。
 
ガス分離膜はすでに、窒素製造、水素回収、天然ガス処理、蒸気回収など、複数の用途で商業的に採用されています。ここでは、3つの大きな可能性を秘めた分野を取り上げます: バイオガス改良、炭素回収、水素です。
 
バイオガスアップグレード
 
バイオガスにはメタンと二酸化炭素が多く含まれています。バイオガスはそのまま使用されるものが大部分ですが、重要性を増しているプロセスでは、CO2を分離(そして汚染物質を除去)し、天然ガスインフラで使用できるほどに高純度メタンを生成します。この生成物はバイオメタンや再生可能天然ガス(RNG)と呼ばれます。バイオメタンを得る方法はこれだけではありませんが、これが最も一般的な方法です。
 
RNGは新しい産業ではありませんが、今後10年間で大きな成長が見込まれます。EUが2030年までにバイオメタン生産量を10倍以上の35bcm(350億m3)に増やすことを目標するなどの政府による推進があり、また、シェル、BP、トタルエナジーズなどの大手企業による産業活動もあります。アップグレードに必要なCO2/CH4分離技術として、いくつかのソリューションが市場で見られますが、すでに普及が進んでいるうえ、大きなシェアを獲得しつつあるのが分離膜です。このソリューションは、比較的小規模な消化ガスプロジェクトに最適ですが、この用途以外でも世界中で幅広く導入されています。膜材料のうち、市場への参入を目論んでいるものがいくつかありますが、膜単体で分離プロセスで使用する場合や、ハイブリッドシステムの一部として深冷装置と併用する場合など、いずれの用途においても、既存の中空糸高分子膜で多くの場合は事足りてしまいます。
 
実績のあるユースケース、サプライチェーン、市場の急速な成長という条件が揃った場合に、この分野は今後10年間のガス分離膜にとって重要となります。
 
Overview of the opportunities (gray) for use of separation membranes in renewable energy and decarbonization applications.
出典: IDTechEx調査レポート - 『ガス分離膜 2023-2033年』
 
炭素回収: 膜分離では太刀打ちできない...。今のところ
 
CCUSは、あらゆる産業の脱炭素化ロードマップの中心的部分です。その中核は分離の課題であり、そのため膜が使えるかどうかという問題が生じます。
 
膜はすでに天然ガス産業の分離プロセスに使用されていますが、支配的な技術ではありません。この分野は膜にとって良い市場であり続けるでしょうし、FPSO市場が成長し、石油増進回収(EOR)としての二酸化炭素有効利用に目が向けられているなか、CCUSの展望においても重要な部分となっています。しかし、本記事では、燃焼後における炭素の点源回収に焦点を当てていきます。
 
燃焼後の炭素回収では、主にCO2/N2を分離します。煙道ガスが一般的に大気圧で、二酸化炭素濃度が比較的低いことなど、考慮すべき困難な事項が多くあります。このため、既存の膜ではコスト効率のよい二酸化炭素回収が非常に難しくなります。アミン吸収法は最もよく採用されるプロセスですが、別の化学・物理的吸収法や、吸着・深冷プロセスとの競争が激化しています。
 
このような技術的状況が、既存の高分子膜の市場シェアの獲得を阻んでいます。とはいえ、韓国のロッテケミカルなどによるパイロットスタディもいくつか見られます。むしろ、多くの企業は新しい膜材料やハイブリッドプロセスに目を向けています。薄膜複合(TFC)膜や混合マトリックス膜(MMM)などの高分子複合膜は、多くの研究者の関心を集め、特に薄膜複合膜については、MTR社などの主導により透過性が向上したことで普及が進んでいます。高分子系の固定サイトキャリア(FSC)膜や無機性の二相膜など、別の輸送機構を備えた膜もあります。ハイブリッドプロセスは、膜接触器の内部に使用するか、別の分離プロセスと併用するような、完全一体型の膜システムを伴う可能性があります。
 
こういったプロジェクトの多くは依然として実験室レベルにとどまっていますが、なかには注目度の高いパイロットスタディへと進んでいるものもあります。大規模展開や発展し続ける競争環境で技術的実現性や採算性に関しては、分からない点がまだ多くあります。これが大成功を遂げることがあるとしても、それには長い年月が必要であるとIDTechExは予測しています。
 
 
水素
 
ネット・ゼロの未来における水素の役割の規模については、さまざまな議論があります。推進派は、大規模なグリーン水素インフラを構想しています。その一方で批評家たちは、大掛かりな計画を進める前に現在の水素市場を整理する必要があること、水素輸送や、とりわけ排出削減の困難なセクター以外でのユースケースについても的確に指摘しています。これを理解することは、市場の可能性を評価するうえで不可欠となります。しかし、IDTechExの分析では、多くのガス分離膜の参入企業が主要なターゲット市場として水素用途を挙げています。
 
水素産業におけるガス分離膜には、回収、製造、パイプラインまたは運送業者による輸送という主に4つのユースケースがあります。膜はすでにアンモニアパージガスなど、水素ガス回収に使用されています。これらは改良、拡大ができますが、劇的な変化を遂げるということはなさそうです。水素製造における役割は主にブルー水素(化石燃料からの製造と二酸化炭素回収の組み合わせ)に集中しています。そのため、この場合の見通しも前述と同様です。PBI系膜など、ブルー水素向けの材料開発が行われていますが、最も注目を集めているのはハイブリッドアプローチであり、その一番わかりやすい事例がエア・リキードのポール・ジェローム施設です。
 
輸送に関して、提唱されている膜の役割は使用時のガス分離にあります。それは、専用パイプラインの末端で水素を改質することや、既存のネットワークを使用できるように天然ガスから分離すること、もしくは運送業者から水素を回収すること(アンモニア分解後など)などです。これらすべてのユースケースにある課題は、PEM燃料電池(主流技術)と接続する場合に非常に高純度でなくてはならないことですが、既存の高分子膜では達成できないものです。このことからも、やはり業界は、エボニックとリンデの間で行われている研究や選択性の高い別の膜のようなハイブリッドプロセスに目を向ける必要があります。最も注目すべき代替材料はパラジウム系膜です。これは以前より知られている材料で課題も多く抱えてはいますが、進化を続けており、水素輸送と製造の両方において商用化実証実験が進んだ段階にきています。
 
IDTechExは先端材料と脱炭素アプリケーションに関する公平な技術市場分析を長年提供してきた。
調査レポート 『ガス分離膜 2023-2033年』 で、詳しい解説をご確認ください。
 
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