デスクトップ量子コンピューターの展望

Futuristic CPU. Quantum processor in the global computer network. 3d illustration of digital cyber space
量子コンピューターは、古典的なコンピューターでは何兆年もかかるような問題に取り組む可能性を秘めています。ほとんどの量子コンピューターは、ハードウェアを-200℃以下という極低温に冷却することを前提として設計されています。しかし近年、デスクトップ型量子コンピューターの技術が進歩し始めています。
 
量子コンピューターはクール
 
量子コンピューティングは、重ね合わせと量子もつれという亜原子レベルの現象を利用します。量子スケールで1と0の情報ビットを作成することで、計算能力は指数関数的に向上しますが、ノイズの影響を受けやすいです。複数のノイズ源が計算精度を低下させたり、量子情報が完全に破壊することさえあります。
 
最も厄介なのは、熱ノイズです。一般的に熱ノイズを低減する手法は、ハードウェアを極低温にまで冷却することです。例えば、超電導量子コンピューターに必要な専用の真空ポンプとクライオスタットを必要とします。この装置は高価で、ヘリウムに依存し、多くのスペース、水、電力を必要とします。これまで、量子コンピューターの冷却に必要なインフラが、デスクトップ型量子コンピューター開発の障害となってきました。ところが、新しい量子コンピューティングの手法として、フォトニックやダイヤモンド結晶欠陥を利用する新しい設計が登場してきました。これらの技術が室温で動作する可能性があれば、量子コンピューターへのアクセスが大幅に改善され、最終的に対応可能な市場の拡大につながると考えられます。
 
フォトニック量子ビットは常温でも耐えられる
 
フォトニックプラットフォームの量子コンピューティングでは、光を使用して量子ビットを構成し、各光子の状態(分極/スクイーズド)または光子ビームの量子状態(量子モード)を利用します。光子は熱ノイズに強いという特性があり、今日複数の企業が、冷却を必要としない初期段階のフォトニック量子プロセッサー(QuiXなど)を製造しています。量子コンピューティング用のスケーラブルで汎用性の高いフォトニックハードウェアの実現にはまだ遠いものの、特定用途向けのデバイスがすでにいくつか実現されています。ORCAの機械学習や生成的モデリングに適したタイムビンボソンサンプリングが可能なマシンが一例です。
 
フォトニック量子ビット  Source: IDTechEx
 
しかし、フォトニクスは量子コンピューティングのアプローチとして課題がないわけではありません。量子アルゴリズムの解を読み取るために光子を検出するには、依然として極低温にまで冷却したセンサーが必要な場合があります。言い換えると、量子ビットは室温に対応していても、それを検出する技術が室温に対応していません。また、より高度なシステムに必要な量子もつれ光源を実現するには、専用の量子ドットや半導体ナノ構造などを開発する必要があります。さらに、光子は、常温の影響を受けにくいものの、導波路から漏れやすいという問題があります。
 
とはいえ、フォトニック量子コンピューティングへの投資は増加傾向にあり、2022年には5億ドルを超えました。現在、より優れた光子源やノイズが少ないアーキテクチャを実現するための要件の多くを満たす取り組みが行われており、スケーラブルな汎用量子コンピューティングは実現可能であるという楽観的な見方が強まっています。この分野では、既存の高速通信用光ファイバーの活用や、暗号技術やサイバーセキュリティへのフォトニクスの応用に対する政府の関心の高まりを利用しようとする動きが見られます。
 
ダイヤモンド格子は量子ビットをノイズから保護する特性がある
 
人工ダイヤモンドは、従来、量子センシングの分野への応用が期待されてきました。しかし、ここ数年、室温での利用、さらにはデスクトップ型量子コンピューターでの利用が研究されるようになってきました。特定の欠陥を持つダイヤモンドを使用すると、2つの状態を持つ量子系、すなわち量子ビットを構成することができます。例えば、窒素空孔中心(NV中心)は、1と0の状態を表すことができるスピン状態を有しています。NV中心の誘導放出の周波数はこのスピン状態によって決まるため、市販の蛍光顕微鏡を使用してアルゴリズムの結果を読み取ることができます。この量子ビットは、本質的に、ダイヤモンド内の炭素原子で構成される格子によって環境のノイズ源から隔離されているため、室温量子コンピューティングを実現するための有力な候補と考えられています。
 
Diamond defect qubits. Source: IDTechEx
 
実際、複数の企業が、デスクトップサイズのダイヤモンド結晶欠陥量子コンピューターをすでに発売しています。スーパーコンピューティングセンターや宇宙航空関連企業が、Quantum BrillianceやXeedQなどのダイヤモンド結晶欠陥技術に資金を投入しています。しかし、ダイヤモンド結晶欠陥技術で実証された量子ビットの数は、まだ1桁にすぎません。さまざまな商業的価値を生み出し、誤り訂正技術実現のための要件を満たすには、数百万とは言わないまでも、何千もの量子ビットが必要であることは明らかです。開発企業数社は、今後数年のうちに数百ものダイヤモンド結晶欠陥量子ビットの実証実験を計画していますが、依然として研究すべきことが山積みです。特に、人工ダイヤモンド製造プロセスの最適化に関しては、まだまだ研究の余地が多く残されています。
 
誇大広告vs. 現実
 
室温で動作するデスクトップ量子コンピューターを作ることは理論的には可能だが、今日、量子コンピュータ・ハードウェアの開発者の多くは、航空宇宙、金融、化学分野などの産業用途にシステムを提供することに注力しています。この中には、フォトニック量子コンピューティングやダイヤモンド結晶欠陥量子コンピューターのリーダーの多くも含まれています。量子コンピューターが最初に解決する最高価値の問題は、クラウドアクセスモデルによって達成されるというのが一般的な意見です。
 
しかし、一般市場向けの常温ソリューションの将来性を否定すべきではなく、フォトニック技術は今年のCESでも紹介されました。製薬分野や宇宙航空分野のほかにも、手ごろな価格のモバイルソリューション(主に、エッジAI、画像処理、リアルタイムの物流最適化ソリューション)によって恩恵を受ける潜在ユーザーが多数存在します。自動運転車のメーカーやスーパーマーケットのチェーンは、すでにこの量子コンピューティングの応用について検討しています。さらに、過酷な宇宙環境での高性能コンピューティング(衛星に搭載された天文観測装置からの画像の処理など)の需要もあります。
 
見通し
 
デスクトップ型量子コンピューターが広く一般に普及する可能性はあるものの、少なくとも今後20年間は、依然として従来のハードウェアソリューションが主流となるでしょう。その一方で、室温量子コンピューターは量子コンピューティングを世に広める役割を果たし、これにより研究が促進され、非常に強力かつ数多くの量子ビットを扱えるデバイスがクラウドに導入されるようになるでしょう。フォトニックやダイヤモンドが、超伝導、イオントラップ、中性原子、フォトニック、さらにはシリコンベースの技術と競合している現段階では、どの技術が市場で主流になるかはいまだ不透明です。しかし、IDTechExの調査では、長期的な商業的成功の可能性が高いのは、より本質的にスケーラブルなソリューションであり、デスクトップに適したモダリティが大きな競争力を持つ可能性があると考えています。量子コンピューターの市場規模は、技術の進歩とともに急速に拡大し、2043年までに3000システム以上が設置されると予測されています。
 
さらに詳しくは、IDTechExの調査レポート 『量子コンピューティング 2023-2043年』で、ご確認下さい。
 
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