EV市場、材料費にもかかわらず永久磁石に注力
2022年12月1日
Dr James Edmondson
ここ数年世界的に混乱が続き、あらゆるものが高騰しています。特に、電気自動車(EV)用モーターに使用されるレアアース(希土類)材料はその傾向が顕著です。ネオジム磁石の価格は、2013年から2020年にかけてほぼ一定の水準を保っていましたが、2022年2月のピーク時にはこれまでの平均価格の3.8倍にまで急騰しました。2022年10月時点において価格はやや落ち着いてはいるものの、それでも2013年から2020年の価格と比較すると、2.4倍の水準にあります。自動車メーカーの中にはレアアースを使わない代替モーター技術を有する企業もありますが、市場自体にはこのような大きな方向転換は見られません。それはどうしてでしょうか?
2022年のピーク時、ネオジム磁石の価格は2013年から2020年の平均価格の3.8倍に。 Source: IDTechEx - 『電気自動車用電気モーター 2022年-2032年』
モーター技術の選択肢は?
IDTechExは、電気自動車用モーター市場について、様々なモーター技術の分析、ベンチマーク、需要予測を含む広範な調査を実施し、調査レポート 『電気自動車用電気モーター 2022年-2032年』を発行しています。 電気自動車市場で従来使用されている主なモーターは、PM(永久磁石)モーター、誘導モーター、巻線型モーターの3種類です。材料の観点から見ると、いずれの種類においても標準的に銅線を巻き付けた固定子を使用しており、違いは回転子の構造にあります。PM(永久磁石)モーターは、その名称が示すように磁石を回転子に使用したものですが、一般的にはレアアースを材料としています。レアアースの中では、フェライト系磁石がやや伸びているものの、最大シェアを占めているのはネオジム磁石です。誘導モーターは、回転子に銅製のかご形導体か巻線を使用し、非同期で回転するという原理により動作します。最後は巻線型モーターですが、この種類でも回転子に銅の巻線が使用されていますが、巻線に電流を流して直接励磁する方式が用いられています。
この他にもモーターにはスイッチトリラクタンスモーターなどの種類があり、乗用車により適したものにするための開発が進められていますが、現状では前述の3つの選択肢が市場の主流となっています。
EV市場で何が起こっているか?
PMモーターは、その出力密度やトルク密度、効率の高さから、EV市場で最も多く使用されている電気モーターです。2021年には、PMモーターが電気自動車市場の84%を占めました。誘導モーターは、以前にテスラ車で使用されていたものの、モーター停止時の引きずり損失が極めて低いため、主に補助駆動モーターとしての使用に留まっています。巻線型モーターについては、永久磁石を使用しない主駆動モーターが必要な場合の一般的な選択肢となっています。巻線型は、ルノーが使用してきましたが、最近ではBMWが第5世代駆動装置に採用しています。
高コストなレアアースのコスト上昇を受けて、レアアースを使用しない電気モーターに関心が寄せられています。前述のとおり、BMWとルノーは巻線型モーターを使用し、メルセデスはEQCシリーズに誘導モーターを採用しています。マーレのような有名モーターサプライヤーや、Advanced Electric Machinesのような小規模な企業も、磁石を使用しない代替品に注力しています。こうした関心に反して、2022年上半期のPMモーターの市場シェアは、2021年の84%を超えて86%にまで上昇しています。
PMモーターのシェアは2022年にわずかに増加。 Source: IDTechEx
なぜ市場はレアアースの使用をやめていないのか?
2022年の現時点まで、PMモーターが選択肢として主流であり続けている理由はいくつかあります。第一の理由は、中国国内の電気自動車市場が優位にあることです。中国の電気自動車市場は世界最大ですが、レアアース供給の大部分を担っているのも中国であるため、ネオジム磁石のコストが他の地域ほど懸念されていないのです。もう1つの理由として可能性があるのが、自動車開発に要する時間です。2022年に販売される車両プラットフォームは、既存のモーター供給契約に基づき、数年かけて開発が進められてきたものです。磁石を使用しないモーターの市場に対する関心が高まってから、実際に自動車に搭載されるようになるまでにはタイムラグが生じます。代替モーター技術にも経験と開発が必要です。自動車メーカーはPMモーターに満足しているため、技術を切り替えるには、高い信頼性と同等以上の性能に加えて、制御電子回路の大幅な変更(モーターに搭載されている場合を除く)を必要としないことを証明する必要があります。
電気モーター市場見通し
レアアースなど多くの材料のコストが高騰しているにもかかわらず、EV市場のほとんどにおいて、特にEV市場に占める割合が最大の中国では、短中期的にPMモーターが使用され続けるとIDTechExは予測しています。欧州では、ルノー、BMW、メルセデスがすでに実証しているように、磁石を使用しない技術の採用拡大が見込まれます。数年内には、次世代の車両プラットフォームに磁石を使用しないモーターを搭載するという発表がいくつか見られるものと思われます。IDTechExの調査レポート『電気自動車用電気モーター 2022年-2032年』では、電気自動車で使用されている電気モーターの種類だけでなく、アキシャルフラックスモーターやインホイールモーターといった新たな選択肢についても深く掘り下げています。また、中国、欧州、米国の乗用車、バス、トラック、バン、二輪車をはじめ、複数のEV市場について考察するとともに、今後10年間のモーターの需要予測も提示しています。モーターで使用される材料についても取り上げ、磁石に使用されるレアアースのほか、モーターの巻線に使用される銅やアルミニウムに関する2032年までの材料需要予測も示しています。
電気モーター市場、技術動向をさらに詳しく理解するために、IDTechExの調査レポート『電気自動車用電気モーター 2022年-2032年』をご活用ください。
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