EVは防火材料の次なる大きな機会となる
2022年11月9日
Dr James Edmondson

電気自動車(EV)の火災発生は、総数だけでなく、走行距離あたりでも内燃機関自動車に比べると少ないです。バッテリーパックの発火頻度は低いものの、発火した場合に乗員を保護し、バッテリーパックから延焼するまでの時間を可能な限り延ばすことが極めて重要です。そのための鍵は、防火材料を適切に選択し、バッテリーパック内に適切に配置することにあります。乗用車に限らず、バス、トラック、バン、スクーター、オートバイなどのセグメントにわたって急成長を遂げているEV市場は、より安全なバッテリーパックを実現化するための絶好の機会を材料サプライヤーに提供します。
IDTechExの新しい調査レポート『電気自動車バッテリー用防火材料 2023-2033年』では、バッテリーの設計、安全規制におけるトレンドと、それらが防火材料にどう影響するかを分析しています。本レポートでは、材料に対する直接のベンチマーク評価と、EV用バッテリーパック内で使用した場合のベンチマーク評価を行っています。セラミックブランケット、セラミックシートその他の不織布、マイカ、エアロゲル、コーティング(発泡性防火塗料等)、封止材、発泡封止材、圧縮パッド、相変化材料などの材料について取り上げています。また、材料と車両のカテゴリー別の10年間の市場予測も提供しています。
電池の設計と進化の多様性
EV市場では、バッテリーの種類がいずれのレベルにおいてもまだ一本化されていないため、考慮すべきなのはセル形式のみです。2021年においては、角型セルが自動車市場の約55%を占め、残りを円筒形とパウチ型が二分しています。熱管理技術についてもメーカーごとにさまざまで、セルの下に冷却板を敷くことが最も一般的ですが、側壁冷却式や空冷式のバッテリーもかなりの割合で採用されています。また、多くのメーカーは、セル・ツー・パックへと移行しつつあります。この設計手法は、モジュール式のハウジング(と、それに伴う多くの材料)を廃止したものであり、エネルギー密度の向上は図れるものの、熱暴走による熱伝播を防ぐことが一層困難になる恐れがあります。IDTechExの調査レポート『電気自動車バッテリー用防火材料 2023-2033年』では、材料需要の判断の一助となるよう、防火材料の選択と配置に大きく影響する設計手法の選択肢についても解説しています。

多くの材料がEV用バッテリーの防火対策に利用可能。 Source: IDTechEx - 『電気自動車バッテリー用防火材料 2023-2033年』
セラミックブランケットはセルの上側と蓋の下側を保護するもので、バッテリーパックからの延焼を遅らせるための選択肢として一般的に用いられてきました。近年では、防火性と優れた電気的絶縁性を活かし、多くのメーカーが厚手のマイカシートを採用しています。エアロゲルは目新しい材料ではありませんが、EV用バッテリーに採用するには生産量が限られており、中国以外では採用されていません。しかし、大手プレーヤーのアスペン・エアロジェルズは、GMとバッテリーパック「アルティアム」の供給契約を結び、その技術を米国へと移転しています。円筒形セルのバッテリーパックには発泡封止材が採用されることが増えており、テスラなどがこれにより軽量な断熱材と構造を提供しています。パウチ型のセルについては、セルの膨らみに対応する圧縮パッドの使用が一般的であり、多くのメーカーが、この機能を防火性と組み合わせて多機能なソリューションを提供するようになっています。前述の材料以外にも、熱暴走の伝播を防いだり、火災を封じ込めたりすることで、バッテリーパックの安全に役立つ材料が多数あります。バッテリーの設計手法の多様さが、多くの防火材料とそのサプライヤーに機会を提供しています。実際、IDTechExの予測では、EV用バッテリーにおける防火材料の年間需要が、2033年までに2022年と比較して13倍に増加する見込みです。
安全規制の動向
中国では、熱暴走に特化した規制が早くから導入されており、事態発生後5分間はバッテリーパックの火や煙が周囲に広がらないようにすることが特に厳しく求められています。この基準は、2021年初頭から義務付けられているもので、他の地域ではこれと同様の規制はまだ正式に適用されてはいないものの、メーカー各社は、先手を打って全体的な安全性を向上させようと、この規制やより厳格な要求事項を設計に取り込み始めています。
インドのEV市場は、安全性において大きな変化を示しました。2022年、電動スクーターの火災事故が複数発生し、多くのリコールが出された。 関係当局は現在、現行の基準に対し、マイクロモビリティセグメントにおけるEV用バッテリーの安全性により重点を置くような調整(2022年10月施行)を行っています。承認されたセルの使用だけでなく、セルの配置間隔など、バッテリー設計の特徴についても明記されています。世界各地で安全性をますます重視する規制が導入されるようになったことは、安全性や、その実現を支援する材料を重視する動きが、あらゆる車両セグメントにおいてより一層活発になることを意味します。とは言え、こうした材料の選定方法や利用方法は、車両のカテゴリーやバッテリーの設計によって異なります。自動車以外の車両セグメントも重要ではあるものの、IDTechExの調査 では、バッテリーが比較的大きく、台数も膨大なことから、10年後にはEV乗用車がEV向け防火材料市場の90%以上を占めることになる見込みです。
さらに詳しEV向け防火材料の可能性については、IDTechExの調査レポート『電気自動車バッテリー用防火材料 2023-2033年』で、ご確認ください。
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