技術革新は希土類磁石市場の成長をどのように後押ししているのか

技術革新は希土類磁石市場の成長をどのように後押ししているのか
世界の希土類磁石(レア・アースマグネット)の生産量は、2036年までに年間 33万トンを超える見込みで、アメリカとヨーロッパが主要な成長地域として注目されている
 
希土類磁石に対する輸出規制や関税脅威による激動の一年を経て、欧米各地では生産の国内回帰の動きが加速しています。電気自動車、産業オートメーション、家電製品、風力エネルギーの分野でクリティカルマテリアルとされている希土類磁石は、2025年には世界の生産量の90%を中国が占める見込みです。供給の先行きが不透明な中でも、希土類磁石の年間需要は今後10年でほぼ倍増すると見られており、希土類磁石市場が発展を遂げるための土台は整っています。
 
中国以外での希土類磁石の生産拡大は、希土類の分離、精製、磁石製造技術の成長機会をもたらしています。IDTechExの調査レポート「希土類磁石(レア・アースマグネット) 2026-2036年:技術、供給、市場、予測」では、北米、ヨーロッパ、アジアで新たなサプライチェーンが形成される中、2036年までに世界の希土類磁石の生産量が33万トンを超えると予測されています。
 
新たな磁石生産能力を支えるには、技術革新が鍵となります。磁石の完成品としての高い性能特性を維持しながら、多様な原料への適応性や経済的な操業の実現が強く重視されつつあります。
 
 
アジア、ヨーロッパ、アメリカでの世界の希土類磁石の生産能力予測。出典:IDTechEx
 
希土類磁石生産の主要な成長市場として注目されるアメリカとヨーロッパ
 
アメリカとヨーロッパは、将来的に中国以外の希土類磁石生産の中心拠点になるべく取り組みを進めています。アメリカは既に世界の希土類酸化物の11%を生産しており、下流の精製能力や磁石生産能力の拡大に向けた取り組みを進めています。ヨーロッパは、先頭に立って分離・精製・リサイクルを推進することで、成熟した希土類採掘プロジェクトの不足部分を補おうとしています。一方アジアは、ベトナム、マレーシア、日本、韓国に成熟した希土類供給体制が確立されていることから、欧米よりも緩やかな成長にとどまると見られています。
 
IDTechExでは、アメリカの磁石生産能力が2036年までに5.9倍に拡大すると予測しています。希土類磁石の生産拡大を加速させることになるのが、希土類磁石生産国内最大手のMPマテリアルズとアメリカ防総省との大規模な官民パートナーシップです。このパートナーシップにおいて、MPマテリアルズは磁石製造施設を新たに建設し、2030年までに最大生産能力を年間1万トンにまで拡大させる見通しです。
 
一方ヨーロッパでは、域内に希土類磁石生産の中流工程が構築されつつあり、それに伴い生産量も拡大していくと見られています。欧州重要原材料法(CRMA)の施行を受けて、2030年までに域内需要の40%の希土類を域内で加工するという目標を達成すべく取り組みが進められていることから、域内の磁石生産能力は2036年までに3.1倍に増大する見通しです。それを後押しするように、域内では磁石の重要な前駆物質を供給するための希土類分離能力が急拡大しています。2025年には、ソルベイがフランスのラ・ロシェルにある年間4000トン規模の工場の操業を再開しています。また、カレステールが年間1400トン規模の商業用工場の建設に着手しており、2026年末までに稼働開始予定です。
 
希土類分離の鍵となる溶媒抽出技術と液体クロマトグラフィー技術
 
希土類磁石の生産能力拡大に伴い、汎用性が高くスケーラブルな希土類分離技術に成長機会がもたらされます。2025年を見ると、世界の希土類精鉱の酸化物分離プロセスでは88%を中国が占めており、続く上位の生産国と比較しても重量ベース生産量の差は桁違いです。中国以外で中流工程の加工能力を拡大するには、溶媒抽出法や液体クロマトグラフィー法などの希土類分離技術が鍵を握ることになるでしょう。
 
 
溶媒抽出法や液体クロマトグラフィー法による希土類分離技術の評価。出典:IDTechEx
 
市場のリーディング企業と新興企業は、高額な設備投資と運用コストが求められるにもかかわらず、処理能力の高い業界標準の希土類分離技術として溶媒抽出法を採用する動きを見せています。溶媒抽出法では、化学添加剤を使用して希土類を選択的かつ逐次に有機溶媒に抽出し、水相に戻して分離・回収します。溶媒抽出法は大規模かつ高効率処理が可能で、一次・二次原料に適した希土類分離技術であるため、選鉱業界で広く採用されています。溶媒抽出技術は多額の投資と大量のエネルギー消費を必要とする上に運用コストも高いのですが、希土類磁石の前駆物質を生産するための成熟した分離技術であることに変わりはありません。
 
液体クロマトグラフィー技術は、多様な原料に対応することで中流工程市場に革新的な変化をもたらす可能性を秘めています。液体クロマトグラフィーは一種の固液分離技術であり、固定相(通常はシリカやイオン交換樹脂材料で構成)を用いて希土類塩溶液を高純度に分画します(99.95%以上)。液体クロマトグラフィー技術は広範囲な原料に対応できる上、モジュール化設計が可能でスケーラビリティに優れており、従来の溶媒抽出技術と比較して設備投資も抑えられます。また、低濃度原料からでも高価値重希土類の回収が可能なため、新興企業にとっては、鉱山尾鉱やリサイクル廃棄物など従来は難処理とされていた原料からも収益が得られる手段になり得ます。
 
グレインエンジニアリングによるネオジム磁石の性能向上とコスト低減
 
上流技術が希土類の生産量増加に重点を置いているのに対し、下流である磁石メーカーは磁石の性能を最適化し、重希土類の使用量を最小限に抑える技術を必要としています。材料コストはネオジム磁石の総生産コストの55%以上を占めており、耐熱性と飽和保磁力の向上を目的として使用する重希土類(ジスプロシウムとテルビウム)の価格はそれぞれ250ドル/kg、880ドル/kgを上回ります。
 
そこで、高い性能特性を維持しながら重希土類の使用量を抑えるための鍵となるのが、NdFeB合金が持つ微細構造のグレインエンジニアリングです。粒界拡散法は、重希土類を粒界近傍に集中配置させることで全体的な磁気強度を損なうことなく飽和保磁力(減磁耐性)を高める方法です。粒界拡散法によってネオジム(NdFeB)磁石に必要な重希土類の使用量を70%以上削減できるため、コスト低減と前駆物質の調達リスクを回避できます。将来的には、軽希土類などの金属源を使用した粒界拡散法を用いることで、重希土類の使用量を段階的に削減しながら完全フリーにしていくことが可能となり、さらには重要な希土類であるネオジムとプラセオジムの使用量削減にもつながる可能性があります。
 
2036年までの希土類磁石技術の展望
 
アメリカとヨーロッパで希土類磁石の生産拡大が成功するかどうかは、分離プロセスと磁石製造プロセスでの技術革新にかかっています。溶媒抽出技術は短中期的に中流工程の分離能力を高めるとされており、今後10年間に新たに生まれるリサイクル廃棄物原料にも十分対応可能です。重希土類の需要削減につながるネオジム磁石製造の技術革新も確実に市場に影響を及ぼします。ジスプロシウムとテルビウムの国内供給が潤沢でない地域の新興磁石メーカーにとっても有利な展開となります。
 
希土類磁石技術のイノベーション以外で市場にとって今後の課題となるのが、サプライチェーンの新たな生産能力をサプライヤーや製品の需要先と結び付けることです。この先、新たに構築される希土類磁石のサプライチェーンを堅持かつ保護するには、業界関係者間の強力なパートナーシップとリスクの分担が不可欠になるでしょう。
 
IDTechExは、電動モビリティ、風力エネルギー、ロボティクス分野での需要増加に伴い、希土類磁石の世界的な生産量が急増し、2036年には年間収益が92億ドル規模に達すると予測しています。IDTechExのレポート「希土類磁石(レア・アースマグネット) 2026-2036年:技術、供給、市場、予測」では、希土類技術の分離、金属化、磁石生産、リサイクルにおける機会を包括的に分析し、希土類磁石市場における有力企業の展望を詳細に評価しています。また、地域、用途、材料に分類した重量(トン)と収益(ドル)別の希土類磁石の供給・需要・リサイクルに関する詳細な10年間予測も掲載しています。
 
さらに詳しくはIDTechExの最新調査レポート「希土類磁石(レア・アースマグネット) 2026-2036年:技術、供給、市場、予測」 でご確認ください。該当ページからサンプルページがダウンロードできます。IDTechExのその他レポートは、こちら でご覧いただけます。

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