インキャビンセンシングとSDV:CES 2025からの分析
2025年3月10日
EUのADDW(先進運転注意喚起)などの規制枠組みの施行が迫る中、自動車メーカー各社で、インキャビンセンシング技術をSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)アーキテクチャに組み入れる動きが活発になっています。その変化はCES 2025でも顕著に表れており、新たな収益源の開発やユーザーエクスペリエンス向上を目的に自動車メーカー各社が既存機器(赤外線カメラやRGBカメラなど)を活用する中で自動車業界の重要な転機となっているのです。IDTechExは調査レポート「インキャビンセンシング 2025-2035年:技術、機会、市場」で、この融合がスマートモビリティの未来にどのような影響を与えるのか分析しています。
インキャビンセンシング: コンプライアンスと収益化
IDTechExは、CES 2025でインキャビンセンシングを専門とする複数のティア1・ティア2サプライヤーに注目しました。顕著なトレンドとして見受けられたのが、規制要件への対応や新しいソフトウェア主導型機能の実現にセンサー機器を戦略的に活用するというものです。自動車メーカー各社は、パーソナライゼーションと安全性を強化するAI駆動型機能を組み込むことでインキャビンセンシングシステムの収益化に注力しており、これらの機能を、競争が激化する自動車市場の重要な差別化要素と位置付けています。
規制状況とSAEレベル。出典: IDTechEx -「インキャビンセンシング 2025-2035年:技術、機会、市場」例えば、ドライバーモニタリングシステム(DMS)の基盤となる近赤外線(NIR)カメラモジュールやRGBカメラモジュールの普及は、単なる規制対応という枠を超えてさらに拡大しつつあります。こうしたカメラシステムは、これまで運転者の眠気や注意散漫を検知するのに使用されてきましたが、現在では運転者の個人認証や、車室内の各種設定のパーソナライズ化、適応型ユーザーエクスペリエンスにも活用されています。IDTechExの調査レポートでも取り上げていますが、AIを活用した顔認証システムは、シームレスなユーザーの切り替えや車両のセキュリティ強化など、スマートカー機能の進化において重要な役割を担おうとしています。
拡大する乗員モニタリングシステム(OMS)の役割
ドライバーモニタリング以外にも、乗員モニタリングシステム(OMS)に車室内のインテリジェンスを高めるポテンシャルがあると自動車メーカーが認識し始め、注目を集めるようになりました。しかし、主に規制によって義務化されているDMSとは異なり、現行のセンシング技術特有の制約があるが故に、OMSはより複雑な課題を抱えています。CES 2025を通じて知り得たのは、NIRとRGBを組み合わせたカメラシステムをOMSに応用することの高いポテンシャルです。これは低コストかつ技術的に成熟したソリューションとなるものの、NIR光を遮る物理的障害物に対応できないため、例えば2列目や3列目に取り付けられているチャイルドシートがこれらシステムの大きな障壁となることがあるのです。このような制約から、これを補完するようなセンシング手段が別途必要になることが浮き彫りになっています。
インキャビンセンシングでのレーダーの出現: ビジネスチャンスと課題
カメラを用いたOMSの欠点を解消しようと、CES 2025ではインキャビンレーダーソリューションに関する出展が以前よりも大幅に増えていました。これらのレーダーモジュールは主に60GHz付近で動作し、ドップラー効果を利用して心拍数や呼吸速度などの生理学的信号を検出します。この高度な技術により、健康や安全の継続的なモニタリングが可能となり、インキャビンセンシングに新たな次元を迎えています。これは特に後部座席に子どもが放置されているのを検知するのに非常に役立つ機能です。テスラがモデルYにインキャビンレーダーを搭載しています。
そのレーダー技術は非常に優れてはいるものの、コスト面で大きな課題を抱えています。2025年現在、インキャビンレーダーモジュールの価格は単体で35ドルを超えているのですが、コスト意識の高い自動車分野においてインキャビンレーダーの導入拡大が進まない要因はそのプライスポイントにあります。IDTechExの調査では生産量増加に伴い1台あたりの価格は下がる見込みではありますが、プライスポイントを20ドルと設定しているサプライヤーもあります。こうした流れから、レーダーを用いたセンシング技術は、まずは中・高級車市場で普及が進み、その後に他へと拡大するとIDTechExは予測しています。
SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル):インキャビンセンシング進化の牽引力
現在我々が目にしているSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)へのシフトは、その進歩を実現する上で極めて重要です。集中型コンピューティングアーキテクチャが標準となりつつあることから、購入後にインキャビンセンシング機能を強化することを目的にソフトウェアのOTA(Over The Air「無線通信を経由して」)アップデートを導入する自動車メーカーが増えてきています。この手法は、センサー機器のライフサイクルを延ばすだけでなく、サブスクリプション型の安全機能やAIによって強化されたパーソナライゼーションサービスなど、新たな収益化の道も切り開きます。
また、IDTechExの調査結果からは、車内のリアルタイムデータ処理の最適化におけるエッジAIの重要性が高まっていることが明らかになっています。AI駆動型分析をインキャビンセンシングモジュールに直接組み込むことで、自動車メーカーは、遅延の最小化やデータセキュリティの強化、リアルタイムの感情認識・ストレス検出機能を実現することが可能です。こうした機能は、より安全でより直感的な運転体験を提供するという業界の大きな目標と同じ方向性を持つものであると言えます。
結論:インキャビンセンシングの未来と収益化戦略
IDTechExのレポート「インキャビンセンシング 2025-2035年:技術、機会、市場」でも取り上げているように、従来は規制対応目的であったインキャビンセンシングの導入が、今や中核的価値提案のための導入へと変化しつつあり、自動車業界はパラダイムシフトの幕開けを迎えています。CES 2025では、自動車メーカー各社による高度なAI駆動型機能の導入を目的とした既存センサーエコシステムの活用、ならびにユーザーエンゲージメントと車両差別化戦略の再定義への取り組みが紹介されていました。
法規制対応がDMS導入の推進要因であり続ける一方で、OMSとレーダーセンシングを融合させることで将来のビジョンが広がります。そのビジョンとは、リアルタイムで車が乗員をモニタリングするだけでなく、乗員に合わせて適応するというものです。コスト面での障壁が下がり、SDA(ソフトウェア・デファインド・アーキテクチャ)技術の成熟が進むとともに、今後10年でインキャビンセンシングのイノベーションが大きく加速し、最終的にはユーザーの車との関わり方が一変することになるはずです。
IDTechExの調査レポート「インキャビンセンシング 2025-2035年:技術、機会、市場」では、この分野を形成する技術、機会、商業戦略に関する包括的な分析をご覧いただけます。
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