韓国のデータセンター火災で高まるバッテリー安全性向上の必要性

韓国のデータセンター火災で高まるバッテリー安全性向上の必要性
9月26日(金曜日)午後8時20分、ソウルから85マイル離れた大田(テジョン)市で発生したデータセンター火災により、韓国国内の数百のオンライン行政サービスが停止しました。火災はバッテリーの爆発によるものとされていますが、その爆発によって200個近いリチウムイオン電池パックが設置される室内で制御不能な熱暴走状態が引き起こされたと見られています。
 
この事故は非常に深刻な結果を招いていますが、同様の事故がBESS(バッテリーエネルギー貯蔵システム)業界で多発しています。導入容量1GWh当たりのバッテリー火災発生率は減少傾向ですが、データセンターや電気自動車などの用途で導入件数が増加しているため、すべてのバッテリー導入件数を合計すると、バッテリー火災の合計件数は依然として相当の数に上ります。
 
2020年以降、より厳格な安全規制が導入されてきましたが、今回の事故は、世界的にリチウムイオン電池導入が進む中で、バッテリーの安全性をさらに高める必要があることを浮き彫りにしています。
 
リチウムイオン電池の熱暴走とは何か?
 
熱暴走とは、バッテリーパック内の発熱がさらなる発熱を引き起こし温度が上昇し続けることで、極度の劣化や揮発性ガス・液体から発火する現象を言います。熱暴走は数秒でバッテリーセルから別のバッテリーセルへ、数分でパックから別のパックへと広がる恐れがあります。
 
大田市のデータセンターのように、数百個のパックと数千個のセルが設置されている大規模なケースでは、熱暴走の結果は壊滅的なものとなり得ます。安全面で重大な影響を及ぼすだけでなく、所有者にとっては財政面でも深刻な損失となり、さらにデータセンターが提供するサービスの中断やセキュリティにも影響を及ぼします。
 
韓国でのバッテリー火災
 
韓国消防庁によると、2025年上半期には296件のバッテリー火災が国内で発生しており、23人の死傷者と224億ウォンの被害が出ているということです。この中には、電気自動車や家電製品のバッテリー、二次電池、一次電池による火災が含まれており、それらのバッテリーケミストリーも実にさまざまです。2025年後半も同じようなペースで推移していくと、2024年の年間合計件数543件(2023年の359件から増加)よりもさらに増加すると考えられます。
 
事故増加の主な要因は、電気自動車や定置型エネルギー貯蔵システムなどのバッテリー導入が拡大したことにあります。韓国で起きた、近年で最悪のバッテリー火災事故の1つは、一次リチウム電池製造業者のアリセルが所有する工場で発生した火災です。2024年6月24日に華城(ファソン)市で発生したバッテリー故障を原因とする火災により、当時工場で勤務していた100人の労働者のうち、23人が亡くなりました。この事故を受け、アリセルは厳しい捜査を受けることになり、結果的にCEOの辞任と起訴につながりました。
 
この火災状況から、工場では業界安全基準が整備されていなかったことが伺えます。この出来事によって、バッテリー火災の危険性だけでなく、このような大事故が否定的な捉え方を生み出すことが浮き彫りにされました。韓国ではこれまでもバッテリー火災関連の問題を数多く抱えてきました。2018年に相次いで発生したバッテリー火災は、製品の出荷凍結だけでなく、当時のBESS業界の大停滞も招いており、EPRI(米国電力研究所)が世界中のBESS関連バッテリー火災事例を追跡するためのバッテリー火災データベースを構築する間接的なきっかけにもなったほどです。
 
規制強化とデータセンターの拡大
 
AI時代に入り、クラウド型サービスやインターネット系サービスへの依存度が高まる中、データセンターの電力需要も増大しています。データセンターでは、再生可能な電源としてバッテリーエネルギー貯蔵システムの導入が広がり始めています。BESSをソーラーパネルなどの再生可能エネルギー源と組み合わせることで、グリーン電力を供給できると同時に、化石燃料の系統電源が提供するようなピーク電力の安定化も実現できます。
 
データセンターは、世界的に見ても消費量の最も大きいエネルギー消費源の1つです。2025年の総電力消費量は約75GWとされており、今後10年以内に3倍以上に増加すると予測されています。そのため、データセンターは持続可能性の向上と二酸化炭素排出量削減の主な対象となっています。IDTechExの調査レポート「データセンターの持続可能性 2025-2035年」でも詳細をご覧いただけますが、データセンターは、電力負荷の安全かつ確実な管理、系統電力のピークカットによる電力消費コストの節減、さらにはUPS(無停電電源装置)の確保に迫られています。これはディーゼル発電機ではなく、BESSなどのクリーンエネルギー技術によって実現可能です。
 
しかし、BESSの熱管理や熱暴走防止に関する安全規制は依然として不十分であり、地域ごとに断片的な規制しか存在していません。
 
アメリカは最も厳格な規制の枠組み(具体的にはUL規格)を導入していますが、これら自体には拘束力がなく、その対象もNFPAコードを適用する加盟州に限られます。ヨーロッパでは新品のエネルギー貯蔵システムに対してCEマーキングが義務付けられていますが、CEマーキングは自己宣言によるものであり、第三者機関の認証を受けたとは見なされないため、アメリカでは適用できません。
 
中国はEV用バッテリーパックに対する規制には改善を加えていますが、BESS関連の規制については後れを取っています。先ごろ国家標準規格GB38031-2025が可決され、2026年7月に施行が予定されています。これは世界初の「無発火・無爆発」を定めた規格であり、EVバッテリーパックの発火リスクをゼロにするために厳しい安全基準を満たすことが義務付けられました。大手バッテリーサプライヤー(CATL、BYDなど)は、EV用バッテリーパックとBESS用バッテリーパックの両市場をターゲットにしているため、BESS用バッテリーパックもこの規制から連鎖的に影響を受ける可能性があります。しかし、BESSの安全性については世界的に認められた統一安全基準が存在せず、データセンターでのバッテリーの安全性をより高い信頼度で確保できるようにするには、さらなる規制と統一規格の策定が必要です。
 
データセンターのバッテリー蓄電安全性向上のための解決策
 
バッテリーの安全性を向上させるための方法はいくつかありますが、大規模な導入と成功を実現するためには規制による支援が必要です:
 
1. 熱管理の向上
IDTechExの調査レポート「BESSの熱管理、防火、防爆 2026-2036年」でも取り上げていますが、液冷システムやエアロゾル消火剤などの能動的熱管理技術と受動的防火材料を採用することは、バッテリーの発火・爆発のリスクを下げる上で重要な戦略です。劣化したセルから熱を効果的に逃がすだけでなく、耐熱性を高めたパック、セル、筐体の設計(セラミック、マイカ、発泡断熱材といった耐熱性材料の使用など)も取り入れることで、まずは熱暴走の発生自体を防ぎ、次にセルとパックの間で熱暴走が伝播するのを防ぐことができます。また、このアプローチは、データセンターのサーバーラックなど高出力が求められるコンピューティングが導入されている場所にも用いられています。詳しくはIDTechExの調査レポート「データセンターの熱管理 2026-2036年」をご覧ください。
 
 
受動的・能動的なBESS熱管理・防火技術。出典:IDTechEx
 
2. 診断とモニタリングの向上
これもまたバッテリー火災を防ぐ上で重要な役割を担っています。これにはセルの診断とセンサーによるバッテリーパックのモニタリングが含まれます。AIによって強化されたモデリングや機械学習手法を用いることで、バッテリーモジュールのSOH(State Of Health:健康状態)を正確に追跡してバッテリーセルの劣化を推定できるため、過熱状態を引き起こし、バッテリー火災の誘因となる不具合の発生を未然に防げます。詳しくはIDTechExの調査レポート「AI活用バッテリー技術 2025-2035年」でご覧いただけますが、バッテリーパックにガスセンサーや圧力センサー、水分センサー、湿度センサーを組み込むことで、今よりももっと早い時点で熱暴走の警告を発することが可能になります。熱暴走が発生すると、バッテリーセルで発生した可燃性ガスがバッテリーパック筐体内に流れ込みます。可燃性ガスが充満したことを検知すると、バッテリーの発火前(最大25分前)に熱暴走の発生を検知できます。詳しくはIDTechExの調査レポート「先進バッテリーパックセンサーと遠隔モニタリング 2026-2036年」をご覧ください。
 
 
リチウムイオン電池の劣化モード。出典:IDTechEx
 
3. エネルギー貯蔵の代替技術
もう1つのアプローチは、エネルギー貯蔵の代替技術の活用です。エネルギー密度が高く、サイクル寿命や電力密度も相応なことから、リチウムイオン電池は多様な業界で広く普及していますが、特定の業界では代替技術が存在します。例えば、BESSについては、データセンター向けリチウムイオン電池の代替としてレドックスフロー電池(RFB)を使用できます。バナジウムRFBは一般的にリチウムイオン電池よりも高価ではあるものの、サイクル寿命が長く、均等化貯蔵原価は低くなります。さらに最も重要なのは不燃性電解液が用いられている点です。レドックスフロー電池は主に長期エネルギー貯蔵システム(IDTechExの定義では、貯蔵時間が6時間を超えるシステム)の一形態として開発されていますが、不燃性電解液が大きな強みとなり、リチウムイオンBESSよりも安全性が高いことから、データセンターでも使用できる可能性があります。RFBは、ピークシェービング、UPS、計算負荷の変動の管理など、データセンター内の重要な用途においてリチウムイオンBESSと同じ役割を果たせる可能性があるのです。IDTechExの調査レポート「レドックスフロー電池市場 2026-2036年」でも詳しく解説していますが、多くの企業がRFB技術の開発を進めており、世界全体の導入容量では中国企業のRongke Power(大連融科儲能技術発展)がリードしています。同様のソリューションとしては、全固体電池を使用するという方法もあります。全固体電池は電解液を使用しないため、本質的に安全性が高いと考えられているからです。全固体電池は最初に中国で実用化が実現する見通しですが、高価であることがBESSでの導入の妨げとなる可能性があります。詳しくはIDTechExの調査レポート「全固体電池 2026-2036年」で解説しています。
 
結論と展望
 
リチウムイオン電池は、電解液が可燃性であることから本質的に安全な技術ではありません。しかし、大規模なバッテリー火災については、適切な管理や診断の向上、将来的な設計面での進歩、あるいは代替技術の導入によって防ぐことができます。中国国家標準GB38031-2025は正しい方向への一歩となりますが、対象が電気自動車に限定されており、BESS関連の規制では後れを取っています。
 
効果的で世界的に採用された安全基準があって初めて、特定の解決策を実際に適用し、大田市のような大規模な災害を防ぐことが可能になるとIDTechExは分析しています。また、熱暴走の根本原因に関する透明性の向上も必要であり、それにはAIによる診断技術や高度なセンサーの活用が有効であると考えられます。しかし、BESS開発企業からしてみれば、利害の衝突が避けられないことから、進んで根本原因を公開しようとはしないかもしれません。根本原因が製品の欠陥や第三者サプライヤーの部品の不具合によるものであることが明らかになった場合、事業に悪影響が出る恐れがあるからです。
 
その一方でBESS開発企業は、能動的な冷却・消火システムから受動的な防火・難燃性材料に至るまで、BESSの熱管理・防火・防爆に対する総合的なアプローチを追求し続けることになるでしょう。IDTechExのレポート「BESSの熱管理、防火、防爆 2026-2036年」では、材料・化学品関連の有力企業が開発した技術やサブシステム、主要BESSメーカーによる導入、材料・技術の成長に関する10年間の市場予測について、広範かつ詳細に解説しています。
 
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