マテリアルズ・インフォマティクスがバッテリー開発に革命をもたらす
2025年1月29日
Daniel Parr

バッテリー業界は、エネルギー密度や持続可能性への要望の高まりに対応するため、新しいバッテリーケミストリーや材料を開発する必要に迫られています。従来の材料探索プロセスは物理法則に基づく試行錯誤を伴い、コストも時間も要します。機械学習手法、特に電解質、電極、集電体、パッケージング材料の発見を目的とするマテリアルズ・インフォマティクスは、バッテリー開発プロセスを加速させる可能性があります。バッテリーのマテリアルズ・インフォマティクスの詳細については、IDTechExの調査レポート「AI活用バッテリー技術 2025-2035年:技術、イノベーション、機会」で、ご確認ください。
マテリアルズ・インフォマティクスとは、データサイエンスを用いて特定のユースケース向けの材料を選別・発見する機械学習の一分野のことです。数十年前から存在している技術であり、バイオインフォマティクスに代わるものとして製薬業界に革命をもたらしています。マテリアルズ・インフォマティクスを応用するには、エージェントをトレーニングするための候補材料のデータベースが必要です。候補材料は一連の記述子(化学元素、格子構造、密度、粘度、電子密度など)によって一つ一つ完全に定義されます。これらの記述子は、材料の有効性に関する結論を導き出せるように、ターゲットとする用途と一致している必要があります。バッテリー材料の場合、記述子の例としては酸化還元電位、拡散係数、密度、結合解離エネルギー、誘電特性、粘度などがあります。完全で適切に記述されたトレーニングデータベースがなければ、マテリアルズ・インフォマティクスを応用しても不適合が生じることになります。アンダーフィッティング(学習不足)とは、予測エージェントのトレーニングが不足し、記述子とプロパティの間のマッピングが限定的な状態を指します。オーバーフィッティング(過学習)とは、問題の複雑さに対してエージェントのトレーニングが過剰になり、初期トレーニングセット以外での予測能力が限定的な状態を指します。特にマテリアルズ・インフォマティクスでは、他の機械学習分野と比べてトレーニングセットのサイズに限りがある場合があり、オーバーフィッティングはよく発生します。

バーチャルスクリーニングとデノボ設計の各プロセスフロー図解。出典: IDTechEx
マテリアルズ・インフォマティクスの中でも発展しているユースケースがバーチャルスクリーニングです。これは、候補材料のデータベースがすでに生成され、プロパティを予測し、可能性の低い材料を除外することで、さらなる検証が必要な材料の数を減らすのにエージェントが用いられています。連続的なプロパティ値をまず予測するには回帰法を、離散的な値には分類法を用います。その後、これらの値はn次元空間(nはプロパティ/記述子の数)にマッピングされ、スコアリングエージェントによってさらに高性能材料と低性能材料に分類されます。
新たに台頭してきているデノボ設計は、生成AIを活用してまったく新しい材料を設計するマテリアルズ・インフォマティクスです。スコアリングエージェントと生成エージェントが連携して理論上の材料を採点し、最終的に特定の用途に対して最も可能性の高い候補を選出します。このプロセスは以下のステップに分けることができます。
- 生成エージェントが材料を提案
- スコアリングエージェントが材料の性能を評価(バーチャルスクリーニングと同様)
- スコアリングエージェントが材料に重みを付け、この重み付けを生成エージェントに返す
- 生成エージェントが以前の材料の重み付けを用いて新しい材料を提案し、材料の生成方法を決定
- これらのステップを適切な候補が見つかるまで繰り返す
どの手法も、それぞれ課題を抱えています。バーチャルスクリーニングは既知の材料を選別するのにしか使用できないため、探索できる総領域は限られています。また、新しいバッテリーケミストリーの場合、既知の材料のデータベースにはデータが少ないため、スクリーニングエージェントの予測能力は限られてしまいます。一方、デノボ設計は比較的未成熟であり、一定の成功を収めているとはいえ、その成功のほとんどは商業段階ではなく研究段階です。完全に新規の材料には既存のサプライチェーンもないため、スケールメリットの恩恵を受けられず、合成コストが高くなります。
一般的に、十分に確立されているバッテリーケミストリーではデノボ設計よりもバーチャルスクリーニング手法が優位になるのに対し、あまり確立されていないバッテリーケミストリーではデノボ設計が必要とされるのではないかとIDTechExは予測しています。マテリアルズ・インフォマティクス分野大手のシュレーディンガーでは、現在の顧客ベースでは、およそ50:50の割合でそれぞれを採用しているようです。とはいえ、新しいバッテリーケミストリーの主流化が進み、デノボ設計がより多くの成果を上げるようになれば、デノボ設計がバッテリー材料開発におけるメインのマテリアルズ・インフォマティクス手法になりそうです。リチウム金属のような新しいバッテリーケミストリーの普及が進めば特に、今後10年間でマテリアルズ・インフォマティクスがバッテリー開発に欠かせない要素になるとIDTechExは予測しています。
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