2023年のミリ波開発: 今後の展開と課題

5Gが正式に商用化されて3年、展開の多くは主に5Gミッドバンドに集中していますが、5Gミリ波技術の開発も進んでいます。24~100GHzの高周波数帯で動作する5G向けミリ波は、従来の無線技術に比べてデータ転送速度が速く、低遅延で、帯域幅も広いという特性を持っています。
 
しかしながら、5G向けミリ波の展開には、伝搬距離が短い、干渉を受けやすいなど、物理的特性以外の課題があります。最大の課題はそのコストや展開に見合うだけの説得力のあるビジネスユースケースが見当たらないことです。この技術はデータ転送速度の向上と低遅延を実現するものの、そのメリットは、展開を進めるための多額の投資に見合うほどのものでないかもしれません。そのため、入念に検討したうえで、極めて大きな効果と投資へのリターンをもたらすユースケースを見つけ出し、優先順位を付ける必要があります。
 
IDTechExの本記事は、中国、日本、韓国、米国、EUなどの主要国でのミリ波技術の現在の展開状況やアプリケーションに焦点を当てています。ミリ波が活用されている特定分野の分析を提供し、ミリ波のアプリケーション発展と残された課題を取り上げます。これらの内容は、IDTechExの最新5G調査レポート『5G市場 2023-2033年 : 技術、トレンド、予測、有力企業』に基づいています
 
米国:
米国は、いち早くミリ波を消費者に提供しています。ベライゾン、AT&T、T-モバイルの3社は、いずれも密集した都市部のホット・ゾーンや構内ネットワークでネットワーク容量と速度を改善するべくミリ波サービスを商用化していますが、その中でも先を行き、その性能を大きく謳っているのがベライゾンです。米国でのミリ波技術は都市部以外にも展開されており、地方でミリ波技術を固定無線アクセスに利用している事業者も見られます。また、米国では民生用ミリ波機器の開発で著しい進展が見られ、スマートフォンなどでこの技術に対応しているものがあります。
ところが、2021年初頭にミッドバンド(中周波数帯域)が事業者に開放されたことで、米国の通信事業者間での展開戦略に変化が起きています。事業者は即座に方針を転換し、5G展開でミッドバンドを優先するようになったのです。ベライゾンさえもミッドバンドに関心を向け始めました。このように関心が移行し、米国の5G開発におけるミッドバンドの重要性が浮き彫りになり、ミッドバンド展開への流れは今後数年は続くと見られます。
 
中国:
中国の5G技術の導入は着実に進み、2022年末時点、すでにモバイルユーザーの約3分の1が5Gを利用し、これは前年比10.6%増です。中国での5G普及率は、2024年には50%を超えると予測されています。注目すべきは、中国では多くの場合、5G展開にミッドバンド技術が利用されていることです。ミッドバンドは速度とカバレッジ(通信範囲)のバランスが取れた技術であり、広く展開するうえでより現実的な選択肢となっています。IDTechExの調べでは、ミッドバンド5Gのグローバル展開をリードしているのは中国であり、その市場シェアは68%を超えています。一方、ミリ波については、今後展開していくための土台作りに2019年からいくつかの実証実験が行われてはいるものの、国内ではまだ商用化には至っていないようです。
中国は現在、密集したネットワークのホットスポットに焦点を当てながら、ミリ波用にFR2(26Ghz)のみを利用したスタンドアロン構成のネットワーク試験を行っています。しかしながら、ミリ波のユースケースが工業系企業のユースケースにまで広がること、なかでも工場にも広がることは間違いありません。実際、中国の5G戦略は工業用ユースケースに継続して焦点を当てており、その戦略はこの先も続きそうです。
 
韓国:
韓国は、5G(ミッドバンド)の商用サービスを開始した最初の国であり、政府が早くから事業者にミリ波帯を開放しているにもかかわらず、ミリ波の展開があまり進んでいません。政府が28GHz帯を割り当てた際、各事業者に1万5,000局の基地局を建設するよう求めましたが、設置率は10%をわずかに上回る程度です。このような開発の停滞状況を受け、韓国科学技術情報通信部は2022年11月18日、事業者のKTとLGユープラスへの28GHz帯域の割当取消しを発表しました。さらに、SKTの28GHz帯ミリ波の使用期間をわずか6か月にまで短縮しました。5月末までに28GHz帯5G基地局1万5,000局の建設を達成できない事業者に対し、28GHz帯の免許を取り消す予定だということです。これは、ミリ波帯5Gインフラの国内展開を促進することに政府が重点を置いていることの表れと言えます。
 
日本:
日本の大手通信事業者であるNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天は、5Gネットワークにミリ波28GHz帯を導入し、すでに2万局以上の基地局を設置しています。しかし、注目すべきは、ミッドバンドが依然として極めて広いカバレッジを提供できる主要な周波数帯である一方で、ミリ波は通信トラフィック量の多い地域でネットワーク容量を増強するのに使用できるという点です。
 
欧州:
欧州では最近、いくつかの国でミリ波の周波数が利用できるようになりましたが、5G開発でのミリ波技術の採用は5地域の中で最も遅れています。またこの地域は、民生用ミリ波機器の普及率も最も低く、今のところ1%を下回っています。欧州諸国では、イタリアが固定無線アクセス用にミリ波を推進し、消費者への5G提供で先陣を切っています。進展は他の国々でも見られ、テレフォニカはミリ波帯5Gをバルセロナで開催された展示会MWC 2023で紹介しました。例えば、ドイツでは、ミリ波サービスを消費者に提供しているものの、26GHz帯はプライベートネットワーク専用となっています。ドイツテレコムは最近、展示会MWC 2023で将来的に大容量・低遅延のユースケースを実現する、5G構内ネットワーク向けスタンドアロン型ミリ波技術を導入する予定だと発表し、エンタープライズ5Gのコネクティビティで高い上りリンク容量と低遅延に対する明らかな需要があることを強調しました。
 
まとめると、IDTechExがミリ波帯5Gの使用について現時点で知り得ているのは、主に次の3ユースケースです。(1)屋内/屋外の混雑したネットワークホット・ゾーン、(2)固定無線アクセス、(3)屋内エンタープライズ用途。
スタジアムや交通拠点、混雑エリアなどのホットスポットでは、屋内と屋外の両ユーザーに高帯域の接続が必要です。これが、5Gの商用化が進んだ国でのミリ波展開に共通する形です。しかし、このようなコネクティビティ向上を収益につなげることは、依然として事業者の課題です。消費者の4Gから5Gへの乗り換えで生まれる収益を増やすことは困難となっており、イベント用にミリ波帯5Gパスを販売できるかどうかも疑問が残っています。また、ユーザーがそれぞれ対応機種を所有する必要があり、機器のエコシステムも多くの国でまだ万全ではありません。結局は、消費者がイベント参加の度に機器を買い替えることをいとわないようにするため、5Gによる格別な体験を提供する必要があるのです。
家庭や企業に無線インターネットアクセスを提供する固定無線アクセス(FWA)は、光ファイバーに比べて早く、安く提供できるうえ、融通性にも優れています。エリクソンとDigital Nasional Berhad(DNB)は、昨年マレーシアで送受信間の見通しがきく状況で11.2km(ミリ波使用)の距離を最大1Gbpsで接続するという記録を達成しました。そのためFWAは、遠隔地や地方など、光ファイバー敷設が困難な場所で理想的なソリューションとして、通信事業者各社が推進しています。例えば、インドの通信事業者のリライアンス・ジオは、最終的に1億回線を自社のFWAに接続することを目指しています。しかし、現在のボトルネックは顧客構内設備(CPE)のコストにあります。現在は1台当たり200~300ドルほどかかり、ターゲットとする新興市場での消費者にとって手の届かないものとなっています。
 
工場などの屋内エンタープライズ環境にミリ波プライベートネットワークを導入するという話は誰もが耳にしたことがあるでしょう。IDTechExが業界トップ企業数社に直接取材したところ、ミリ波技術が選ばれるのは、映像や写真をすばやくアップロードし、高解像度カメラを搭載した生産ラインのロボットなどの基幹業務用途くらいしかないだろうとのことでした。さらに、ミリ波には送受信間が見通せるオープンな環境が必要となります。IDTechExの知る限り、ミリ波と比較した場合、5G技術を導入する多くのスマートファクトリーにとって最も望ましい選択肢はサブ6GHzです。そのような環境でエンタープライズネットワーク導入におけるサブ6GHzとミリ波の割合は、少なくとも今後5、6年は、約80~90%対約10~20%になると予測されています。
 
The growth of mmWave infrastructure (incl. street macro and small cells), Source: IDTechEx: 『5G市場 2023-2033年 : 技術、トレンド、予測、有力企業』
 
ミリ波技術の大規模展開を実現するには、価格が高い機器、エコシステムが限定されている、有力な用途がないという課題に取り組む必要があります。一方で、規制に関する懸念事項や周波数帯の利用可能性、他の無線技術との競合などが、その成長と成功に影響を与える可能性があります。価格を下げること、機器のエコシステムを拡張すること、魅力的な用途に向けて研究開発に投資することに重点的に取り組み続ける必要があります。
 
IDTechExの最新5G調査レポート『5G市場 2023-2033年 : 技術、トレンド、予測、有力企業』では、5Gミリ波産業の次の項目の包括的な分析を提供しています。
  • Pain point analysis,
  • Supply chain study
  • Key player analysis
  • Key regional 5G rollout strategy (U.S., China, South Korea, Japan, Europe)
  • 10-year market forecasts
  • Device challenges (all sections include technology benchmarking and market player analysis)
1. Low-loss materials
2. Power amplifiers
3. Filter technologies
4. Radio frequency modules
5. Phased array antenna modules
  • Thermal management
 
5G市場に関する動向を詳しく理解するために、IDTechExの調査レポート『5G市場 2023-2033年 : 技術、トレンド、予測、有力企業』をご活用ください。
 
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