新たな形状がもたらすMEMSジャイロスコープの進化
2025年9月9日
Mika Takahashi
慣性計測装置(IMU)は、現代のナビゲーションシステム物理層の中核となっています。IDTechExの調査レポート「次世代MEMS 2026-2036年:市場、技術、有力企業」では、ハイエンドIMU市場は世界全体で38億ドル規模に達していると述べられています。
IMUは、業界から求められる多様で厳しい性能要件に対応するため、日々進化を遂げています。IDTechExの調査では、特にセンサー進化の原動力となる「高性能化」と「小型化」の二大要素に焦点を当てています。
単純な慣性センサーは、直線運動であれば加速度計、回転運動であればジャイロスコープを使用して1軸方向の動きを検出します。3つの直角に交わる加速度計と3つのジャイロスコープを組み合わせた6軸IMUは、単体でXYZ平面に沿った動きを検出できます。.
理論上、原点がわかっていれば、6軸IMUだけでベクトル座標を無限に表すことができますが、センサーは必ずしも完璧ではなく、固有の重力勾配雑音やセンサーの不安定さ、ドリフトが複合的な要因となり、時間の経過とともに精度が低下していきます。このズレを補正するため、現代の慣性航法装置(INS)では全球測位衛星システム(GNSS)の信号を利用して定期的に位置更新を行い、GNSSデータとIMUセンサーのデータを定期的に組み合わせることで、有用な航法上の測定値を得ています。多くの場合、IMUの品質や「グレード」は時間の経過とともにどの程度の誤差が蓄積していくかを表します。

ドリフトなどのセンサー誤差の蓄積により、物体が移動した実際の経路とIMUが計算する経路に差が生じる。GNSS信号による補正がなければ、この測定値は使えない。出典:IDTechEx
消費者向けから航空宇宙向けまで多岐にわたるグレード
IMUの性能は、業界標準 として確立されたグレードは特にありませんが、一般的には性能に基づいて分類されています。ここで言う性能とは、精度(センサー値と実際の値の差)とドリフト(時間の経過とともに発生するセンサー値のズレ)を指します。GNSSによって性能低下の補正が可能ではありますが、特定の用途では安定したGNSS信号を得られない場合でも、システムが長時間動作できることが望ましいとされています。
IMUの利用用途は、民間航空機の正確な長期航法からスマートフォンのジェスチャー認識まで多岐にわたります。この2つの用途では、同じIMUでも性能と CSWaP(サイズ、重量、電力、コスト)の要件が大きく異なります。IMUの最適化には、CSWaPの最小化と適切な性能の選定を両立させる必要があるのです。
IMUの弱点であるジャイロスコープ
加速度計とジャイロスコープは、さまざまな下位技術が利用できます。
MEMS(微小電子機械システム)は、シリコン基板上に微小スケールで製造されたシステムです。加速度計は、いずれの性能グレードの場合も多くはMEMSを用いたものです。一方ジャイロスコープは、多くのMEMSジャイロスコープの性能が比較的低いため、多くの選択肢があります。選択肢として挙げられるキーテクノロジーは以下のとおりです。
- MEMSジャイロスコープ:一般的に最も安価で最小サイズのジャイロスコープですが、性能は向上しつつあります。コリオリ力を利用した製品が多く、2本の「櫛歯」を振動させ、そこに外部から回転が加わるとコリオリ力によって加速度が生じます。この変位量を測定することで角回転を推測するのです。ただし、コリオリ力によって生じた変位は非常に小さいため、正確に測定するのは困難です。より先進的なMEMSジャイロスコープでは、例えば音叉型4重質量ジャイロスコープのように、より複雑な形状をとっています。IDTechExは、マイクロ半球共振ジャイロスコープ(mHRG)など新たに登場したMEMSジャイロスコープについて「次世代MEMS 2026-2036年:市場、技術、有力企業」の中で詳しく取り上げています。
- リングレーザージャイロスコープ(RLG):RLGはサニャック効果を利用しており、光を「リング状」光路の2方向(右回りと左回り)に分割して入射します。光は経路を1周すると出口から出て干渉を受けます。外部から回転力が加わらなければ、光は同じ距離を進むため同期して出口に到達します。ところが外部から回転力が加わると、光の進む距離にわずかな差が生まれます。その結果として生じる干渉を測定し、角度回転を割り出します。「ロックイン」(それぞれ逆方向に進むレーザー速度が低周波時にほぼ同じになる現象)を回避するため、機械的圧電モーターを使用して定常振動(後に角速度の計算から除外可能)を発生させる「ディザリング」がしばしば用いられます。RLGは安定性に優れていてドリフトも少ないのですが、高度な設計と複雑な製造工程のために非常に高価です。
- 光ファイバージャイロスコープ(FOG):光ファイバージャイロスコープ(FOG)はRLGと非常によく似た物理的原理を利用しています。異なるのは、閉ループの空洞の代わりに光ファイバーケーブルのコイルにレーザー光を通す点です。このコイルは長さが100メートルから3キロメートルまで対応可能で、なおかつ高電圧光源を必要としないことから、RLGと比べていくつか利点があります。コイル長さを変更することで、目標とするFOGの精度を得られます(例:コイル長さを2倍にするとARWは半減)。完全なソリッド構造であるFOGは、RLGで使用されるような高精度ミラーやガス充填レーザー管、ディザリング用アセンブリを必要としないため、多くの場合RLGよりも生産コストが安価です(ただし、MEMSと比較するとはるかに高価)。
- 半球共振ジャイロスコープ(HRG):HRGはコリオリ力を利用した高性能な振動型ジャイロスコープです。代表的な構造は、半球形の石英ガラス製シェルを駆動させ、そのシェルを取り囲む第2の石英ガラス構造上に蒸着された電極が生み出す静電力によって曲げ共振を発生させます。静電力によってシェルの縁に定在波が発生しますが、コリオリ力によって、ジャイロが軸を中心に回転していてもその定在波はシェルの縁の回転と同じようには回転しません。この2つの振動モードが縮退し、そこに生じる位相遅延を測定することで角変位を割り出すことができるのです。HRGは極めて高性能であり、宇宙分野での利用が広がっていますが、非常に高価で製造工程も複雑です。IDTechExの調べでは、HRGを製造している企業はごく少数に限られています。

半球共振ジャイロスコープ(マイクロスケールとマクロスケール)基本原理の概観。この設計では、非常に高いQ値を実現でき、不具合がほとんど発生しない、非常に高い精度で製造された半球が必要。出典:IDTechEx
HRGの設計をMEMSスケールに
ジャイロスコープ技術における最も興味深いトレンドの1つに、高性能MEMS設計の追求が挙げられます。MEMSの持つCSWaPの利点をそのままに、RLG、FOG、HRGの持つ戦術グレードやナビゲーショングレードの性能を実現しようというものです。さまざまな新しい形状の研究が進められていますが、中でも最も有望なのが、HRGをMEMSスケールに小型化し、マクロスケールのHRGと同じ物理的原理を活用するというものです。半球形シェルの縁の定在波を利用することで、ジャイロスコープの大幅な性能向上が実現可能になります。
IDTechExが μHRGs と定義するジャイロスコープ最大の課題は、不具合が発生せず、Q値の高い、ウエハースケールの半球を製造することです。調査レポート「次世代MEMS 2026-2036年:市場、技術、有力企業」では、マイクロ半球を製造するための主な手法としてマイクロガラス吹き、ブローランプ吹き、3Dプリンティング(PμSL)、薄膜成膜を取り上げ、それぞれの利点、課題、工程、材料を解説しています。初期の成果からはバイアス不安定性とARW(角度ランダムウォーク)に有望な改善が見受けられますが、MEMSの製造がラボレベルから量産化に進むまでには長い道のりがあります。
ハイエンド ジャイロスコープの用途は?
これまでハイエンドのジャイロスコープとIMUは、センサーが高価であることから、高性能な防衛用途や航空宇宙用途での利用に限られてきました。安価で高品質のMEMSジャイロスコープにより、慣性センサーを搭載した自動運転車(現在は慣性センサーと非慣性センサーを併用)が実現する可能性があります。一般的な自動車の価格が約3~7万ドルであることを考えると、価格帯が1~10万ドルのIMUには全く手が届きませんが、MEMSの利用により劇的なコスト削減が実現できれば、GNSSからの信号が得られない場合でも短時間に限り自動運転車を誘導できるセンサーが生まれるもしれません。
IDTechExは、ハイエンドIMU市場の大部分は、急成長する防衛産業に主に牽引され、2036年までに65億ドルに達すると予測しています。「次世代MEMS 2026-2036年:市場、技術、有力企業」では、FOG、RLG、HRG、MEMSジャイロスコープ(既存型および先進型)別に分類した情報を提供しています。
さらに詳しくは、IDTechExの調査レポート「次世代MEMS 2026-2036年:市場、技術、有力企業」でご確認ください。該当ページからサンプルページがダウンロードできます。
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