量子ドット: 変化・拡大する用途の状況
2019年8月28日

量子ドット (QD) は、ディスプレイ分野でのサクセスストーリーです。添付の図は、2019年にこれまでにリリースされた様々なQDディスプレイ製品を示しています。量子ドットが現在用いられている方式は、フィルムタイプ(エンハンスメントフィルム)のものです。このフィルムのバリューチェーンは確立されています。この技術は、27インチから98インチまでの大型ディスプレイ(TV)に採用することが可能です。障壁となる要件の緩和、QDコストの低下、コーティングの歩留まり向上のおかげでもたらされた、QDエンハンスメントフィルムのコスト改善により、370ドル(55インチ)から3,000ドル(82-90インチ)までの幅広い価格が実現しました。高輝度QDが輝度向上フィルムの冗長化に役立つ場合、QDエンハンスメントフィルムの実装にかかる正味コストがほぼゼロになる可能性があるとさえ主張し始めている人もいます。
しかしながら、このテクノロジーは急速な変貌を遂げつつあります。 当社調査レポート「量子ドット材料と技術 2019-2029年:動向、市場、主要企業」の中で分析したように、ディスプレイ用QDの技術ロードマップ上には、QD on Glass、LCDまたはOLED(インクジェットまたはフォトパターニング)に使われるインピクセル(カラーフィルター)QD、自発光QLEDなどがあります。またQDは、照明、近赤外線/短波長赤外線QD-Siハイブリッド光センサー、農業用色変換フィルム、セキュリティタグなど、ディスプレイを超えた用途を見いだしつつあります。
本記事では、複数の主要用途について簡単にご紹介します。この分析は、当社調査レポート 「量子ドット材料と技術 2019-2029年:動向、市場、主要企業」からの抜粋です。 同レポートには、詳細な技術分析とロードマップを掲載しているほか、11の用途別に、数量・金額ベースでの市場予測を行っています。この業界の全主要企業の概要も掲載しています。また、既存の材料と新しい材料の選択肢、各材料の課題、材料イノベーション、開発機会に関する重要な評価も行っています。

2019年に発売されたQDで高性能化したディスプレイの例。すべて、サプライヤーはナノシスです。QDディスプレイは、モニターサイズから98インチまで、幅広い範囲を扱っています。 出展: IDTechEx
ディズプレイ用途量子ドット: ロードマップ
QDがディスプレイに用いられる方法は変化しつつあります。QDフィルムをQD on Glassの実装へと進化させようと模索する動きもあります。QD on Glassでは、QDが導光板上に直接コーティングされ、一方の面に薄膜封止されます。これによってロールtoロール(R2R)のフィルムメーカーが犠牲となり、バリューチェーンが再構成されます。追加の基板が不要になり、QD層自体を薄くすることができるようになることから、ソリューションの薄型化がもたらされます。皆がこの内部ソリューションを採用するわけではありませんが。
次なる進化は、ピクセル内カラーコンバータ(QDカラーフィルターやQDCFと呼ばれることが多い)としてQDを用いることです。赤と緑のQDは、インクジェットによって、またはフォトリソグラフィによりパターニングしたQDフォトレジストを介してサブピクセルに利用することができます。これには、色の純度と薄膜層を確保するために高い青色吸光度が必要となります。また、樹脂への高い負荷レベルでの適切な分散が必要となります。
QDはまた、このプロセスも乗り越えねばなりません。フォトレジストの場合、量子収量、半値全幅や発光波長の変化がほとんどないか皆無であるため、QDはソフトベーク、エッチング、ハードベークなどを耐え抜く必要があります。インクジェットの場合、QDはプリント可能なインクの中に配合されるはずです。この時、ブラックマトリックス内に適切に印刷される必要があり、(ほとんどが熱による)硬化プロセスを耐えねばなりません。ここでの進歩は目覚ましいものがあります。材料のサプライヤーは、QDのサプライヤーと密に協力し、優れたQDフォトレジストとインクジェットインクを開発しています。これは相当に進んだ段階にあります。 さらに詳しくは「量子ドット材料と技術 2019-2029年:動向、市場、主要企業」を参照ください。
QDCFは、LCDとOLEDの双方に用いることができます。前者の場合、システムレベルの課題が存在しています。特にIn−Cell型偏光子の必要性は、技術開発と新しいプロセスへの適応を必要とする大きな課題となっています。後者の場合、赤と緑のQDは、常に用いられている(パターン化されていない)青色OLED(現在は蛍光ですが、TADFやハイパーTADFが商業化された場合、効率を上げるためにいずれTADFに変更される可能性があります)の上にインクジェット印刷されます。ここで印刷を用いることにより、標準カラーフィルターを使用するWOLEDの性能とコストを超えるような高品質で大型のQD-OLEDハイブリッドディスプレイを実現する費用対効果の高いプロセスが生まれる可能性があります。印刷を用いることは、塗布型の放射QLEDの究極の目標に向けた重要な戦略的な学習にもなるでしょう。
QLED: 究極のディスプレイか?
実際、QLEDは長らく研究開発の主要なテーマになっています。QLEDにより、薄くフレキシブルで、高コントラスト、高効率、広色域のディスプレイを実現させることができます。しかしながら、その過程にはまだ多くの課題があります。そのため、フルカラーの商用製品を目にするまでには後数年かかるでしょう。目標とする波長で高効率な青色を得るためには、QD用の毒性のない新しい化学物質が必要となる可能性があります。緑と赤のInP QDには、内部のCTEミスマッチをなくすために、シェルの被覆の改善と傾斜合金化が必要となる可能性があります。適切な荷電平衡を確保するには、十分な深さの価電子帯を持つ適切な有機 HTLが必要となります。ETLは、プリント可能な金属酸化物ナノ粒子がベースになると思われることから、最適化が必要になるでしょう。そして当然ながら、すべての生産プロセスとスケールアッププロセスの設計・構築も行われることになります。
現在、ほとんどのディスプレイ企業が積極的に動いています。その成果があらゆる面(青色EQE、輝度、妥当なnitでの寿命など)を急速に向上させています。これは、広範なイノベーションと開発の機会であり、注目すべき領域です。さらに詳しくはさらに詳しくは「量子ドット材料と技術 2019-2029年:動向、市場、主要企業」を参照ください。
硫化鉛QDは、広範囲の波長にわたって調整ができるため、NIR(近赤外線)やSWIR(短波赤外線)の検出が可能になります。興味深いことに、これらをシリコンROIC(読み出し集積回路)に統合し、QD-Si NIR/SWIRハイブリッドイメージセンサーをつくることができます。これによって高解像度・小画素・シリコンベースのNIR/SWIRセンサーへの道が開かれ、GaAsセンサーとSi ROICの異種混成は必要がなくなる可能性があります。
第一世代の製品が既に市場に出ています。某大手家電メーカーも、この分野に意欲的でした。同社は積極的に買収を手がけていたほか、英国のQDサプライヤーに生産規模の拡大を委託するのではないかと見られていました。しかし、最近になって同社が撤退したと報じられました。
この技術が約束するものは、依然として有力です。その課題についても注目に値します。安定性が大きな争点となっています。QDレベルまたはデバイスレベルで、何らかの封止が必要となります。光安定性は、さらに重大な問題となっています。現在、センサーは低照度の屋内条件には対応できるものの、自動車などの屋外利用には、さらなる開発やブレークスルーが必要となります。
また、製品の最適化も必要になるでしょう。バッチ間の一貫性の高いQDの供給が必要になります。QDフィルムはキャスト成形し、おそらくはパターン化する必要があるでしょう。硬化は、(コンパクトすぎるために歩留まりが低下することではなく、)安定したキャリア輸送を確保する上で重要になる可能性があります。これには、in situまたはex situのリガンド交換が必要となる可能性があります。こういう状況であっても依然としてエキサイティングな領域であることには変わりなく、今後の開発・改善のためのロードマップにも期待できます。さらに詳しくは「量子ドット材料と技術 2019-2029年:動向、市場、主要企業」を参照ください。
照明
照明は、規模が大きく有望な用途です。適切な波長にある狭帯域の高効率な赤色は、効率を損なわずにCRIを高めることができるため、主に赤色のQDに焦点が当てられてきました。
課題は、LEDに近い条件に耐えるのに十分な熱・湿度・光安定性を備えたQDを開発することでした。このことは、QDを取り付けの簡単なソリューションにする上でも非常に役立つはずです。このことは、蛍光体などの他のカラーコンバータと一緒に使い、既存のツールと手順を用いて処理できるようにすることを意味します。
現在、初期の製品が既に市場に出ています。これらはおそらくCd系であり、シリカシェルの工程を用いることで安定化が施されています。低照度条件のInPやリモート・オンチップの蛍光体に対する十分な安定性が実証されているものもありますが、まだ商品化には至っていません。
オンチップ型のものは、ディスプレイでも役立ちます。現在LEDディスプレイで使用されている蛍光体を置き換えることができるためです。ここでの課題も、適度な湿度・熱・光安定性を確保することです。ディスプレイでは、緑と赤の両方のQDが必要となる場合があります。さらに詳しくは「量子ドット材料と技術 2019-2029年:動向、市場、主要企業」を参照ください。

QDの各種用途の成熟度レベルを示している。 出展: IDTechEx Research
その他(光線療法、太陽光、農業用フィルム、セキュリティタグ付け、etc)
他にも多くの開発途上の用途があります。QDを農業用の色変換フィルムとして売り出しているところもあります。ここでの狙いは、成長を促進させて収穫高が上がるように、フィルムによって太陽のスペクトルを調整することです。この用途では、狭帯域エミッタと広帯域エミッタのどちらが最適かという議論がされています。しかしその答えは、植物固有のものとなり、汎用的で万能な解決法はなさそうです。第一世代の製品は、発売までもう少しという段階です。これらは、広帯域のCIS QDがベースとなる可能性があります。これらのRoIと価値提案を数値として実証するために、複数の実地試験が実施されています。
特に日光の照射が強い場合に、QDの安定性の課題がこれまでと同様に残ります。QDは、フィルム内の層の間に配置されることになりますが、それでも、封止用の層が別途必要になるかもしれません。ここでの競合品には、染料系フィルムやマゼンタ色などのLEDライトがあります。前者はより低コストである可能性がありますが、そのスペクトルは粒子サイズではなく化学に関係するものです。さらに詳しくは「量子ドット材料と技術 2019-2029年:動向、市場、主要企業」を参照ください。
もう一つの用途は、セキュリティのタグ付けに関するものです。企業は、石油製品などの液体に極微量添加し、液体レベルのセキュリティタガント(追跡用添加物)として機能する広帯域グラフェンやカーボンQDを開発しています。光線療法でのQDの使用を提案しているところもあります。この目的は、QDを使用して色スペクトルを修正し、特定の医療用のニーズを満たすことです。この技術は、快適で、持ち運び可能であり、ウェアラブルな光線療法ソリューションへとつながる可能性があります。他にはQD太陽電池に関する研究もあります。しかしながら、大きなブレークスルーが起こらない限り、中期的には依然として実現困難な価値提案である状況は変わりません。
QDの市場は変化しつつあります。ディスプレイでの利用は、急速に進化しています。これらの変遷により、材質のイノベーションの機会の多くが実現可能となります。ディスプレイ以外の開発中の用途が他にも多くあります。このことにより、今後数年間は市場の勢いが維持されるでしょう。
IDTechExの調査レポート「量子ドット材料と技術 2019-2029年:動向、市場、主要企業」では、詳細な技術分析とロードマップを掲載しているほか、11の用途別に、数量・金額ベースでの市場予測を行っています。この業界の全主要企業の概要も掲載しています。また、既存の材料と新しい材料の選択肢、各材料の課題、材料イノベーション、開発機会に関する重要な評価も行っています。
IDTechExの調査レポートは、IDTechEx日本法人 アイディーテックエックス株式会社から購入できます。
ご希望の方にサンプルページ をお送りします。その他、調査レポートに関する質問、購入に関するお問い合わせは下記までご連絡ください。見積書、請求書も発行します。
IDTechEx調査レポート「量子ドット材料と技術 2019-2029年:動向、市場、主要企業」を購入すると30分のアナリストタイムが提供されます。直接アナリストにレポートに関する質問が可能です。
問合せ先
アイディーテックエックス株式会社
東京都千代田区丸の内1-6-2 新丸の内センタービル21階
担当:村越美和子 m.murakoshi@idtechex.com
電話 : 03-3216-7209