量子ドット: ディスプレイ、照明、センサーの新技術

量子ドット: ディスプレイ、照明、センサーの新技術

Dr Khasha Ghaffarzadeh
量子ドット: ディスプレイ、照明、センサーの新技術
量子ドット(QD)はナノテクノロジーが商業的に成功した事例の一つで、現在、既にディスプレイに応用されています。注目すべきなのは、量子ドット技術とその応用分野が急速に広がっていることです。この記事では量子ドット技術のイノベーションと実用化の最前線を取り上げます。技術分析を含めて、市場動向、フォーキャストはこちらを確認ください。www.IDTechEx.com/QD

ディスプレイ、照明

量子ドットはディスプレイの世界では新しい話ではありません。量子ドット技術を利用することで液晶ディスプレイ(LCD)の色域を広げることができ、高品質な有機ELディスプレイ(OLED)に対するコスト的な優位性を保ちつつ、LCDの性能面での競争力を高めることが可能となります。量子ドットの利用はテレビなど大型ディスプレイの消費者市場において、興味深い市場ダイナミクスを生み出しています。
 
この用途では量子ドットは主に量子ドットフィルム(QDEF)として実用化されています。量子ドットフィルムは樹脂に埋め込まれた量子ドットの層を2層のバリア層でコーティングして挟み込んだ形をしており、LCDのスタック構造の1つとして挿入されます。
 
これに関連して生まれた技術にはさまざまなトレンドを見て取ることができます。まず、量子ドット材料成分はCdベースのものからCdフリーへと進化しました。これは法的な要求によるもので、InPベース量子ドットのQY(量子収率)やFWHM(半値全幅)、安定性、コストの改善により、技術的にはほぼ完成しています。この材料変更ではInP量子ドットのQYが年を追うごとに向上したことで、収率の低下は最小限となっています。しかしFWHMに関しては改善しているもののまだ若干性能的には見劣りします。現在FWHMは商用の実験段階では35nmの実証に成功しており、量産では37nmから38nm程度になると予測されています。さらに詳しい材料レベルのトレンドは 『量子ドット 材料とテクノロジー 2019年₋2029年 : トレンド、マーケット、プレイヤー』をご覧ください。
 
一方、量子ドットの安定性は改善しておりバリア層の要件は1E-3~1E-4 g/day/sqmから1E-1~1E-2に緩和されています。これによりバリアレイヤーのコストや複雑さが大幅に改善しており、全体の実装コストの低減に貢献しています。QYの向上は輝度の改善につながり、同じ発光を得るために必要な単位面積当たりの量子ドットの量を減らすことができます。サプライヤー各社はバリューチェーンを社内で完結させること、そして基板の数を減らすことを目的にガラスへの直接堆積も実験的に検討しています。全体コストを削減すれば、量子ドットLCDが高級品のカテゴリーを脱することが可能になります。さらに詳しい量子ドットの進化、技術、技術ロードマップ、トレンド、マーケットフォーキャストは 『量子ドット 材料とテクノロジー 2019年₋2029年 : トレンド、マーケット、プレイヤー』をご覧ください。
 
QDEFは短期的には成長していくでしょうが、長期的には過去の技術になっていくと考えられます。最初の足掛かりはLCDとOLED両方のディスプレイに使用できる量子ドットカラーフィルター(QDCF)です。LCDディスプレイでは、QDCFが従来のカラーフィルターを置き換え、効率を改善しつつ広い色域を確保することができます。しかしながら材料やシステムレベルでの技術的なハードルは高いものがあります。材料に関してはパターニングや青色の吸収、空気安定性など克服すべき課題が数多くあります。現在大型ディスプレイ用のQDCFをインクジェットで形成するためのインクの開発が多くの企業で行われています。また高濃度(重量%)の量子ドットをフォトレジストに適切に分散し、高解像度のQDCFを実現する試みも行われています。LCDのシステムレベルでは偏光板をセルに内蔵することが必要になる可能性がありますが、一方QDCFによる再発光の光は指向性がないため、デバイスに入っていく光を反射する反射板の追加が必要かもしれません。背景光による量子ドットの励起も抑制しなくてはなりません。
 
最近のサムスンに関するニュースによるとOLED上のQDCFも興味深いものがあります。基本的な考え方としては高品質の大面積ディスプレイの製造を可能にしようとするものです。青色のOLEDを全面に堆積してバックライトとし、QDCFをインクジェットで印刷して赤と緑の発光素子を形成します。このハイブリッドのアプローチはFMM(ファインメタルマスク)で製造されるRGB OLEDの大面積化に対する制限を取り払い、多層構造になっているWOLEDのコストの問題を解決する可能性を秘めています。
 
しかしながら青色OLEDはEQE(外部量子効率)の低い蛍光材料であるため、効率の問題が残ります。また青色発光材料は寿命や輝度の点でも問題を抱えています。この後者2つの課題に関しては青色発光材料を2層にして駆動電圧を分割することで部分的に対処することになるだろうと考えられます。これはWOLEDで既に利用されているテクニックです。またハイブリッドのQD-OLEDの技術が成熟する頃には、次世代の青色発光材料が実用化されているという可能性もあります。興味深いことにQDCF-OLEDで検討されたプロセスや材料は無駄にはならず、長期的には究極と言える完全印刷の自発光型量子ドットディスプレイ(QLED)への足掛かりとして利用されることになるでしょう。 QDCF in LCDsやOLEDsの技術ロードマップ、タイムライン、プレイヤー、市場フォーキャストは 『量子ドット 材料とテクノロジー 2019年₋2029年 : トレンド、マーケット、プレイヤー』をご覧ください。
 
ディスプレイのロードマップにはオンチップ量子ドットもあります。これはQDEFやQDCFを追加することなくLCDで広い色域を実現するものです。ここではLED光源の近くに設置した場合の熱や光のストレスに量子ドットが耐えられるようにすることが課題となります。保護層や適切なリガンドの選択、コアのシェル構造最適化などこの問題への対処にはさまざまな方法が検討されており、良好な結果が出ています。
 
オンチップの量子ドットは照明用途で特に有望です。これはFWHMの狭い赤色ダウンコンバーターを使用する場合に効率の改善ができるためで、このことにより量子ドットは高効率とともに高いCRI(演色性)を得ることが可能になります。ここでも課題はやはり安定性でした。最近では市販製品の発表や量子ドットのサプライヤーが大手の照明製造業者に買収されるという動きが起こっています。こうした製品にはCdをベースとした赤色量子ドットが含まれていると私たちは考えており、そうであるとするとカドミウムに関連した毒性の問題を抱えていることになります。InPをベースとする量子ドットは、20W/cm2といった中程度の出力のLEDに対しても十分な安定性を発揮できていません。
 
一般的に言って量子ドットの安定性が改善すれば、さまざまな種類や用途のLED照明に量子ドットを利用する道が開けます。照明としては量子ドットを使ってスペクトルをカスタマイズすることも検討されています。これができれば、例えば園芸用途向けに植物が光合成を行う波長に合ったスペクトルを持つ照明を実現することができす。量子ドットの照明用途については『量子ドット 材料とテクノロジー 2019年₋2029年 : トレンド、マーケット、プレイヤー』をご覧ください。
 
ただしディスプレイでの量子ドットの最終的な目標はQLEDです。これは極めて広い色域を持つ自発光(したがって100%のコントラストを実現できる)、薄型(フレキシブル)、高効率などの特徴を持つ究極のディスプレイです。しかしQLEDまでにはまだまだ長い道のりが待っています。CdフリーのQLEDのEQEは実験室レベルでもCdを用いた量子ドットより低く、PhOLED(燐光OLED)にははるかに及ばない極めて低いレベルです。さらに深刻なのは低い輝度レベルでさえ寿命が数時間から数十時間程度だということです。QLEDスタックのデバイス構造や最適材料はまだ完全には確立していません。プロセス技術もまだ初歩のレベルで、展示会で小さなサンプルが展示されている程度ですが、それでも関心は高く今後も目の離せない分野です。
 
当然ながら量子ドットにもディスプレイ分野において競争相手となるテクノロジ―が存在します。韓国のディスプレイメーカーが採用しているナノセルディスプレイもフィルター技術によって広い色域を実現しています。この技術は従来の色フィルターの透過スペクトルが重なっている部分の波長の光を吸収する特別な材料をフィルターに入れたものと私たちは見ています。次世代のOLEDも見逃すことはできません。特にハイパーフルオレッセンスを用いたTADF(熱活性化遅延蛍光)では発光スペクトルの幅(FWHM)が狭いうえに、高いEQEが得られており有望です。ただしこの技術はまだ開発段階にあり、量産までには紆余曲折も予想されます。蛍光物質も改善が進んでいます。特にKSF赤色蛍光体は、既に量子ドットよりもシャープなスペクトルを実現しています。また、緑色で狭いスペクトル幅を持つ材料の発表も近いといううわさも広がっています。さらにに詳しい技術トレンドやオプションについては『量子ドット 材料とテクノロジー 2019年₋2029年 : トレンド、マーケット、プレイヤー』で詳しく解説しています。

フォトセンサー

量子ドットは光の吸収特性を変化させることができ、特にドットサイズや成分により変更が可能である点が重要です。さらに量子ドットは液体から形成することが可能であるため、シリコンのCMOS読み出しIC(ROIC)に集積することも容易です。
 
量子ドットの強みは高解像度の赤外吸収が可能な点で、特に量子ドット材料にPbSなどを用いた短波長赤外(SWIR)の受光素子には有利です。量子ドットはディップ成形やスピンコーティングなどの手法でCMOS ROICの上に堆積することができ、センサーとしては光導電性材料とフォトダイオードのどちらとも組み合わせることが可能です。
 
初期的な結果によれば、量子ドットはInGaAsを用いたセンサーよりも高い検出感度(Jones)を得ることができています。またCMOC集積回路に直接形成することが可能なため、ボンディングにより作製されるGaAsオンシリコンのCMOS回路よりも高い解像度を実現する可能性も秘めています。
 
しかしながらこれの実現には、するべきことがたくさんあります。高密度で低抵抗の量子ドット薄膜を形成するにはリガンドの交換メカニズムの開発が必要です。膜の堆積技術を改善し、均一性や制御性、再現性を確保することも求められます。パターニング技術に加え、SWIRを透過することができる上部電極など、デバイスで使用される他の部材にどの材料を選択するかや、フォトダイオードのHTL/ETLの配置などにもまだ答えがありません。安定性にも改善の余地があります。検討されている主な量子ドット材料は鉛ベースであるため健康や安全への懸念も出てきていますが、鉛フリーの材料の特性はまだ十分ではありません。 さらに詳しくは『量子ドット 材料とテクノロジー 2019年₋2029年 : トレンド、マーケット、プレイヤー』をご覧ください。
 
量子ドットを可視光のフォトダイオードに利用し、高解像度のグローバルシャッタを作ることもできます。これまでのグローバルシャッタセンサーの解像度は一般的に低いものでした。これは1列ごとに配置されたADC(アナログ-デジタル変換器)がデータを読み出すまで各ピクセルの信号を保持しなくてはならず、大容量のコンデンサが必要になるためです。各ピクセルにADCを割り当てることができれば、この大容量のコンデンサは必要なくなりますが、そのような構成では大きな面積が必要で消費電力も大きくなります(多数のADCを作り込むためにバックCMOSをボンディングで付けるという興味深い製品も発表されていますが、実装は容易ではありません)。容量を確保しつつピクセルごとに受光素子を設けるためには、各ピクセルのサイズが大きくなり、解像度が低下することになります。
 
量子ドットを使えば受光素子と読み出し回路を分離することができるため、この問題は解決します。受光素子はROICの上に形成された量子ドット層となり、個別に電圧制御されるため、グローバルシャッタのように開閉が可能となります。この方法であればより大きなストレージ容量を持つコンデンサを作り込むスペースをシリコン素子に確保することが可能になります。大容量のコンデンサを作り込むことができるということは、ダイナミックレンジを広くとることができるということに注目してください。これは信号を蓄積するコンデンサの容量が大きくなれば、より強い光に対する信号を飽和せずにため込むことができるようになるためです。QD-CMOSグローバルシャッタを可能にした試作品が既に発表されています。さらに詳しくは『量子ドット 材料とテクノロジー 2019年₋2029年 : トレンド、マーケット、プレイヤー』をご覧ください。
 
量子ドットはここでも競争相手がいます。有機半導体(OSC)も溶液を用いてROICの上に形成することができ、高解像度のグローバルシャッタを持つイメージセンサーが実現可能です。OSCは多様な材料が存在し、光の吸収特性もさまざまに調整することができます。しかしながら一般的にOCSではSWIRより長波長の光の吸収は困難です。さらに詳しい量子ドットの技術については 『量子ドット 材料とテクノロジー 2019年₋2029年 : トレンド、マーケット、プレイヤー』をご覧ください。
 
この調査レポートでは詳細な技術分析、テクノロジーロードマップ&タイムライン、業界におけるキープレーヤーの詳細、アプリケーション別のフォーキャストを提供します。この1冊で量子ドットを取り巻く状況を把握することができます。
 
Top image: Wikipedia
 
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