量子技術の選択:半導体光検出器か超伝導光検出器か

Comparison of single photon detector technology
光の最小単位である光量子を操り、測定することは、光量子コンピューティングと量子通信という有望な先進技術の基盤となっていますが、信頼性の高いスケーラブルな光検出器ソリューションを用いなければ、その可能性を十分に発揮することはできません。また、スケーラブルで高性能な単一光子検出器ソリューションを創出することで、他にも生体撮像、LiDAR、ガス検知、量子イメージングなど収益性の高い用途への応用が可能となります。
 
単一光子アバランシェダイオード(SPAD)などの半導体検出器と、超伝導ナノワイヤ単一光子検出器(SNSPD)などの超伝導検出器という2種類の単一光子検出器技術が、各分野での業界標準となるべく熾烈な競争を繰り広げています。IDTechExの調査レポート「量子センサー市場 2025-2045年:技術、トレンド、有力企業、予測」では、量子センシング市場に関する幅広い分析や市場予測とともに、この競争について概説しています。
 
単一光子検出器とは?
 
単一光子検出器は、いずれの種類においても、入射光子の電気信号への変換を基本原理としています。一般的に単一光子検出器分野では、半導体ベースの検出器と超伝導検出器に大別され、SPADとSNSPDがそれぞれの種類において先頭を切っています。
 
SPADについては、降伏電圧を超えるようにバイアスをかけられた半導体pn接合によって最小単位光子の測定を実現しており、1個の入射光子によって数百あるいは数千もの電子の「アバランシェ(雪崩)」が発生し、パルス信号として分解・測定されます。
 
一方、SNSPDは細い蛇行した超伝導材料のナノワイヤ(通常、3K未満の極低温に冷却)から構成されています。入射光子が超伝導状態を破壊し、抵抗性の「ホットスポット」を作り出すことで、検出器全体にわたって電圧が急上昇します。
 
すべての単一光子検出器が同じように作られているわけではない
 
単一光子検出器の性能を測る数値指標の中でも特に重要な2つが検出器効率とダークカウントレート(システム内のノイズの尺度)です。どちらの数値指標でも一般的にSNSPDの方が優れた性能を発揮し、多くの商用製品で検出器効率は90%を超え、ダークカウントレートは1Hz未満となっています。一方、SPADの場合、検出器効率は約10~30%にとどまっており、ダークカウントレートが100Hzを超えることも少なくありません。
 
しかしながら、SNSPDなどの超伝導検出器には、常時極低温冷却が必要であるという根本的なデメリットがあります。極低温冷却には低温保持装置が必須で、その設置場所や高い装置価格、大量の消費電力などの懸念が付きまといます。現在は、量子技術プロジェクトには相応の規模と投入資金が用意されるため、こうした極低温冷却環境の実現が可能となり、より効率的な冷却装置を開発することが、Single Quantumやサイクォンタムなどの有力企業にとって最優先事項となっています。SNSPDの超低ノイズ性は主に極低温動作環境によって生み出されるものであり、長期にわたって超伝導検出器を支持しているプレーヤーはこの特性が常に最重要であると考えています。
 
一方、SPADは、半導体材料のイノベーションやここ数年の着実な性能向上もあり、室温量子技術を実現する可能性を秘めています。冷却によってダークカウントレートも低下しますが、それは動作の必須条件ではありません。ID Quantique(IDQ)は冷却型のInGaAs/InP SPADを使用した低ノイズ、低ジッタを特長とした光検出器のラインナップを取り揃え販売しています。それらの技術は主に量子鍵配送(QKD)などの量子暗号通信に利用されており、実際IDQはこの分野の市場リーダーとして位置付けられています。同社はまた、QKDや量子研究向けに各種SNSPD検出器も製造しています。
 
Innovate UKによる150万ポンド規模のMARCONIプロジェクトでは、情報セキュリティを目的としたスケーラブルな全国レベルのQKDネットワークを構築するべく、SPADとSNSPDの双方のソリューションの開発に取り組んでいます。SPADソリューションでは短距離間でのQKDを目的とした比較的安価な検出器を用い、一方SNSPDソリューションでは長距離通信を目的とした高性能な検出器になる見込みです。SPADとSNSPDが量子通信ネットワークの長期にわたる開発において実際に互いに補い合うものになるのか、それともプレーヤー各社が単にヘッジを目的としているのかは今のところ不明です。
 
単一光子検出器技術の比較:SNSPD vs SPAD
 
結論と市場展望
 
結局、半導体検出器と超伝導検出器のどちらを選択するかは、コスト、スケーラビリティ、性能のどれを譲歩できるかによって決まります。極低温冷却された超伝導検出器は、本質的に低ノイズ性に優れていることから、研究や初期段階の製品として普及が進んでいますが、スケールメリットや代替半導体の進歩により、SPADをはじめとする半導体プラットフォームが有利になる可能性もあります。
 
光量子コンピューティングにおいては、コンピューター1台当たりの量子ビット数増加に伴い、スケーラビリティが不可欠となるでしょう。現在サイクォンタムは、超伝導検出器をフォトニックチップに組み込んで大規模な低温保持装置を構築することに注力していますが、半導体検出器により、光量子コンピューティングが最も有望な室温プラットフォームの1つとなる可能性があります。この検出器の選択において、忠実度かスケーラビリティのどちらかの譲歩を迫られるのは、ある意味、高ノイズが発生する多数の量子ビットかあるいは高品質の少数の量子ビットの二者選択を迫られる量子コンピューティング業界の非常に一般的なメタトレンドと重なるものがあります。
 
SPAD、SNSPD、および量子センシング市場全体に関するさらなる見解や分析に関しては、IDTechExの調査レポート「量子センサー市場 2025-2045年:技術、トレンド、有力企業、予測」でご確認いただけます。
 
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