ナトリウムイオンはバッテリー技術の次のステップとなるか

Shazan Siddiqi
Comparison of Na-ion with various other cell chemistries
ナトリウムイオン電池とリチウムイオン電池は、ナトリウムがリチウムに置き換わるだけで、電気化学的原理は同じです。この置き換えにより、異なる正極・負極・電解質が必要になるものの、いずれの技術においても全体的な化学組成に大きな違いはありません。
 
最も大きな違いは正極にあります。リチウムイオン電池のNMC(ニッケル・マンガン・コバルト)やLFP(リン酸鉄リチウム)に代わるナトリウム系代替品の開発が有力企業によって積極的に進められています。IDTechExの調査レポート「ナトリウムイオン電池 2025-2035年:技術、有力企業、市場、予測」では、ナトリウムイオン電池の正極材料で現在開発段階にあるのは、主に遷移金属酸化物(NMCに類似)・ポリアニオン(LFPに類似)・プルシアンブルー類似体(ナトリウムイオン固有)の3種類であると紹介しています。
 
遷移金属酸化物とプルシアンブルー類似体は、コストが低くレアアースが不要となることから特に有望視されています。一般的にナトリウム・酸素・ニッケル・鉄・マンガンから成る遷移金属酸化物はコバルトを含まないため、リチウムイオン電池が抱えている持続可能性に関する懸念も払拭できます。プルシアンブルー類似体は、菱面体構造を持ち、ナトリウム・鉄・炭素・窒素のみで構成される、ナトリウムイオン技術に固有のものです。
 
負極と電解質の面では、ナトリウムイオン電池はリチウムイオン電池とほぼ同じです。ただし、グラファイトではナトリウムイオンのインターカレーション容量が小さいため、旧世代のリチウムイオン電池で使用されていたハードカーボン負極が第一選択肢とされています。ナトリウムがリチウムに置き換わる以外、電解質は炭酸塩溶媒中のNaPF6のように同様の塩と溶媒から構成されています。
 
ナトリウムイオンと他のセルケミストリーの比較。出典:IDTechEx
 
各性能特性を比較すると、それぞれのバッテリーケミストリーの一般的な長所と短所がわかります。ナトリウムイオン電池のエネルギー密度は、ニッケルを使用する高エネルギーのリチウムイオンセルと比べるとまだ低いものの、高出力のLFP(リン酸鉄リチウム)セルのエネルギー密度に近づきつつあります。セルのサイクル寿命については構成によっては決して悪くはありませんが、図では示されていない要素で興味深いのが、ナトリウムイオン電池の出力特性です。約1000W/kgという数値が報告されているように、NMC(約340~420W/kg)やLFP(約175~425W/kg)のセルと比べても相当高くなる可能性があるということです。また、低温特性についてもナトリウムイオン電池の方が優れています。
 
変化する市場でのコスト競争力
 
ナトリウムイオン電池の主な利点は、リチウムイオン技術に比べて、低コストになる可能性があることです。量産時には、層状金属酸化物正極とハードカーボン負極を使用したナトリウムイオン電池の方が、LFP(リン酸鉄リチウム)電池と比べて材料コストが約25~30%低くなると見られています。コストが低い主な理由は、リチウムと銅から安価なナトリウムとアルミニウムへの使用材料の置き換えにあります。これにより集電体としてアルミニウムを使用することができ、約12%のコスト低減を図れるという訳です。
 
しかし、コスト構造はいくつもの要因の影響を受けます。どのバッテリーにおいても、コストを決定する最大の要因は電極材料であり、その中でハードカーボンがナトリウムイオン電池用の先進負極材として浮上してきています。ハードカーボンはコスト面でグラファイトより優位にありますが、低密度であるため同じ活物質に対して多量の電解質が必要となり、コストと質量の増加につながります。また、ハードカーボンは天然黒鉛と比べて高価になる傾向があり、特定の種類においては性能も劣ります。
 
ナトリウムイオン電池の将来性と、リチウムイオンより低価格になる可能性については、依然として議論が続いています。リチウムイオン電池の価格は下がり続けていますが、ナトリウムイオンの技術がその価格に追いつく、あるいは下回る時期については、まだ推測の域を出ていません。IDTechExでは、単に生産規模を拡大するのではなく、エンジニアリング技術におけるブレークスルーがナトリウムイオン電池のコスト低減の鍵になると見ています。
 
リチウムの価格が歴史的低水準付近にとどまる場合、ナトリウムイオン電池が今後10年間でコスト競争力を獲得するのは容易ではなくなりますが、エンジニアリング技術の進歩が続けば、ナトリウムイオン電池は相補的技術として浮上し、コスト削減と材料入手性が最優先事項である特定の用途に価値をもたらす可能性もあります。
 
IDTechExの調査レポート「ナトリウムイオン電池 2025-2035年:技術、有力企業、市場、予測」では、将来のバッテリー市場におけるナトリウムイオンの位置づけについて、コストダイナミクス、技術進歩、現実的なロードマップを取り上げています。

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