熱管理: TIM、 データセンター、EVパワーエレクトロニクス

Yulin Wang
The flame is on the central processor that lies on the printed circuit board. Low-key photo.
データセンターにおける高性能コンピューティングや電気自動車のパワーエレクトロニクスでの電力密度の向上といった開発を背景に、熱管理はここ数年で大きな注目を集めています。本記事では、IDTechExがデータセンターや電気自動車のパワーエレクトロニクスにおける熱管理の主なトレンド、使用される熱伝導材料の最新動向について紹介します。
 
 
熱伝導材料 (TIM): 進展、アプリケーション、価格
 
TIMは、2つの表面(通常はチップなどの発熱源とヒートシンク)間の熱伝導率向上のために使用する材料です。TIMはシステム全体の熱抵抗を低減させる上で重要な役割を担っています。
 
TIMはその使用箇所に応じてTIM1とTIM2の2種類に大きく分類できます。TIM1は一般的に発熱源となるパッケージ内で使用され、熱伝導率が非常に高い傾向があります。例えば、ダイ接合材料は最も広く使用されているTIM1の1つです。一方、TIM2は発熱源となるパッケージの外側でより広く使用されています。グリス、パッド、ゲル、導電性接着剤、シート、相変化材料など、TIM2にはさまざまな形態があります。その構成材料として重要な部材が熱伝導性フィラーとマトリックス材料の2つです。放熱フィラーは高熱伝導性材料で、往々にしてTIMの価格を左右し、一般的に使用されるフィラーとしては、球状アルミナ、粉砕アルミナ、ATHなどがあります。
 
高性能TIM用フィラーとしては、AlN、MgO、ZnO、BN、炭素系材料なども注目を集めていますが、中には高価格(BNなど)、安全上の懸念(ZnOなど)、高充填が難しい(MgOなど)などの課題を抱えるものがあり、主要なフィラーとしての使用は一般的にはあまり見受けられません。放熱フィラー特有の熱伝導性のほか、フィラー形状や粒径、充填率も全体的な熱伝導率に大きく影響します。球状フィラーは最も高充填が容易である一方で、それに比べてフレーク状フィラーは充填率が低くなり、それが最終的に熱性能を左右する要因となります。
 
フィラーの価格に大きな影響を与えるのが、上記要因のほかに、受注量や顧客との関係性など複数挙げられます。IDTechExのデータベースによると、例えば球状アルミナの通常価格が5ドル/kg程度であるのに対し、粉砕アルミナの価格は40%低くなっています。また、ATHについては約5ドル/kgと、BNフィラーの10分の1程度です。
 
TIMは、EVバッテリーからEVパワーエレクトロニクス、データセンター、家電製品、5G/6G基地局、ADAS(先進運転支援システム)用部品まで、多種多様な分野で使用されています。熱伝導率の要件は応用分野により異なり、絶縁耐力、粘度(該当する場合)、機械的強度、圧縮性など、求められる特性もさまざまです。図1は応用分野別熱伝導率要件の一部をまとめたものです。一般的には、消費電力や高放熱性への需要が高まりにより、熱伝導率も次第に高まっていくと期待されています。
 
興味深い使用例としては、2024年時点でTIMにとって最大の応用分野であるEVバッテリーに、熱伝導率を抑えたTIMが採用される見込みがあることです。これは、バッテリーパック設計が従来のモジュール設計からセル・ツー・パックやセル・ツー・ボディ設計に移行することで熱伝導効率が高まり、高熱伝導率の需要が減少するためです。こうした流れは、使用される放熱フィラーの価格だけでなく、その種類にも影響を与えるでしょう。IDTechExは、通信、電気自動車、データセンターなどの業界が牽引力となり、2034年にはTIMの年間市場規模が80億ドルを超えると予測しています。
 
Figure 1. 熱伝導材料:用途別熱伝導率の動向 Source: IDTechEx
 
電気自動車用パワーエレクトロニクスの熱管理
 
EVパワーエレクトロニクス業界でのメガトレンドは、Si IGBTからSiC MOSFETへの移行です。この移行により、最大ジャンクション温度がIGBTの最大150℃からMOSFETの最大175℃や200℃以上にまで上昇しており、このことから効率の良い熱管理が求められています。パワーモジュールの従来の熱設計は、チップ(IGBT、MOSFETなど)、チップはんだ/ダイ接合(SnPbはんだ、焼結銀ペーストなど)、DBC/AMB基板、基板接合/はんだ、ベースプレート(銅またはアルミニウム)、TIM2(放熱グリスなど)、ヒートシンクなど、一般的に7層で構成されています。現時点でこの設計はSi IGBTモジュールに対して功を奏していますが、全体的な熱性能の向上と熱抵抗の低減を目指すには、設計レベルで改良すべき点がいくつか挙げられます。
  • ベースプレートの廃止とピンフィン冷却:従来の「ベースプレート + TIM2 + ヒートシンク」から成る構造を一体化(ベースプレートを省き、DBC/AMBをヒートシンクに直接焼結接合)。この手法では、層数が少なくなることで全体的な熱抵抗が抑えられます。
  • ダイ接合材料のはんだから焼結ペーストへの移行。従来のはんだと比較し、焼結ペーストは導電性、熱伝導性、高温安定性においてはるかに優れ、また、熱膨張係数(CTE)が低く、引張強度にも優れているため、熱・電力のサイクル試験において強みを発揮します。こうした利点により、焼結銀ペーストへと移行が進んでいます。テスラ、ヒョンデ、VW、BYDなどの大手メーカーがすでに焼結銀ペーストを使用しており、採用する車種は今後増えると見ています。焼結銀ペースト以外に、焼結銅ペーストも新たな技術として浮上してきていますが、IDTechExの調査では、2024年現在、技術が未成熟のため焼結銅ペーストがEVパワーエレクトロニクスにおいて大規模に採用されている事実は確認していません。焼結銅ペーストの利点はその価格の低さです。IDTechExの取材に対し、焼結銅ペーストのサプライヤーの数社が約30~50%のコスト引き下げの実現を目指していると回答しています。また、2024年後半~2025年までに自動車用途に適した焼結銅ペーストの発売を目指すと発表したサプライヤーもありますが、今後2、3年の間に焼結銅ペーストの導入が大幅に進むことはないと見ています。
  • ワイヤボンディングからリードフレーム/リボンボンディングへ。2024年現在、ワイヤンディングは広く使用されています。ワイヤボンドで覆うことができるのはダイ表面の20%程度にすぎず、熱がダイパッド全体に十分に拡散されません。そのため、ワイヤボンディングに不具合が生じる頻度は高くなりがちです。電流と発熱量の増大に伴い、この状況はさらに悪化することになります。問題を軽減することを目的に、リボンボンディングやリードフレームの採用が次第に増えいます。ワイヤと比較すると、リボンやリードフレームは断面積が広く、放熱性や導体許容電流の向上が可能となります。
  • ヒートシンク材料:明確な傾向が見られませんが、IDTechExの調査では、アルミニウム製ヒートシンクがアジア(中国、日本、韓国など)の車両でより広く使用されているのに対し、銅製ヒートシンクは欧州(ドイツ、フランスなど)の車両で人気があるようです。銅の方がアルミニウムよりも熱伝導率が高いため、放熱能力も高くなります。ただし、高性能には高価格が伴います。銅の価格はアルミニウムの数倍になる可能性もあり、より多くの車種でアルミニウム製を使用したコスト効率の高いソリューションの導入が進むだろうと見ています。
 
Figure 2. EVパワーエレクトロニクスの熱管理技術。 Source: IDTechEx
 
データセンターの熱管理
 
データセンターとハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)は、AI・データセンター業界の成長を後押ししています。TDP(熱設計電力)が1000Wを超えるNVIDIAのB200とともに、チップ冷却業界は従来の空冷から液冷へと移行しつつあります。液冷はD2C(ダイレクト・ツー・チップ)冷却と液浸冷却に分類できます。また、その冷却原理に応じて、対流によって熱を除去する単相式冷却と、相変化の際の潜熱によって熱を除去する二相式冷却にも分類できます。これまでの状況を見ると、平均TDPはここ16年で3.5倍に増加しています。この流れは今後も続くと見られ、GB200などのハイエンドGPUにも単相式D2C冷却が採用されています。TDP1500W~2000Wが単相式D2C冷却では苦しくなる限界域であり、TDP2000W以上では二相式D2C冷却が必要になる可能性が非常に高いとIDTechExは考えています。
 
D2C 冷却のロードマップ
 
D2C冷却の本格導入は、すでに単相式冷却板を採用しているNVIDIAのGB200を契機に、間もなく始まると考えられています。液浸冷却と比べて柔軟性が高く、既存施設への設置に伴う複雑さも低いことから、短期的には冷却板がミドルレンジ~ハイエンドGPUの主流になるのではないかと見ています。しかしながら、前述のように、単相式冷却板は2000W前後で限界に達すると予想されており、二相式冷却板の本格導入もそれを境に始まることになりそうです。二相式冷却板システムの価格は、単相式冷却板システムと比べて若干高くなる傾向があります。
 
一般的な単相式冷却板システム(ホース、サーバー内の液体供給マニホールド、パイプを含む)の価格は200ドルから400ドルの間(低価格帯ではCPU冷却板を、高価格帯ではGPU冷却板を搭載)になるとは見ています。二相式冷却板システムは、冷却板システム1台当たり450ドル程度と若干割高です。ただし、これらの価格は一般的な価格帯のものにすぎず、構成に応じてシステム1台当たりの価格も変動します。2035年までにD2C冷却の獲得可能な最大市場規模(TAM)が48億ドル前後に達すると予測しています。
 
液浸冷却のロードマップ
 
D2Cとは異なり、液浸冷却は商用化の初期段階にあります。複数のパイロットプロジェクトは存在するものの、IDTechExが見たところでは、2024年現在、大規模に導入されている事実はありません。全体的な冷却能力は向上するものの、液浸冷却には専門知識の不足、サーバー用マザーボードやインフラへの後付けの難しさ、液体のロスなどの課題があります。ハイパースケーラー各社は融通性や持続可能性を重視しているため、ベンダーロックインを回避することが企業にとっての最優先事項の1つであると考えています。液浸冷却は柔軟性に欠け、ハイパースケーラー企業にとってあまり好ましい選択肢ではありません。単相式液浸冷却では価格が8.5~11ドル/Lの炭化水素油(PAOオイルなど)を使用するのが一般的ですが、二相式液浸冷却では特殊な液体を使用します。しかし、二相式液浸冷却用の冷却水は、規制(特にPFAS関連)の影響を受けやすくなっています。
 
技術的障壁や商業的考慮事項を踏まえると、液浸冷却が大規模に採用されるまでにはまだ数年かかるものの、D2C冷却が主流になる可能性が高いとIDTechExはと考えています。図3は各種冷却技術のロードマップをまとめたものです。
 
Figure 3. IT機器レベルの冷却技術・部材のロードマップ。Source: IDTechEx
 

Technology Innovations Outlook 2025-2035

IDTechExでは、今後10年を形作る主要技術革新トレンドに焦点を当て、現在の状況の評価と2035年までの予測をまとめた 『Technology Innovations Outlook 2025-2035』 を発行しました。本記事も掲載されています。
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