固体電池でEVの防火対策は不要になるのか?

固体電池でEVの防火対策は不要になるのか?
熱暴走とそれに伴うバッテリー火災は、顧客、バッテリー設計者、電気自動車メーカーにとって重大な関心事であることが証明されています。多くの車両でバッテリー火災が発生し、数十万台がリコールされています。このような事態はまれですが、非常に深刻な事態となる可能性があり、電気自動車の中やその周辺にいる人々の安全を確保することが重要となっています。よくある質問は、今後登場する固体電池技術はより安全で、これによって熱管理や防火材料の必要性がなくなるのか、というものです。
 
IDTechExの調査レポート『全固体電池とポリマー電池 2023-2033年』は、全固体電池の技術、プレーヤー、安全性、利用について考察しています。また、『電気自動車バッテリー用防火材料 2023-2033年』は、電気自動車用バッテリーパックの熱暴走の防止または遅延させるために使用される材料について考察しています。
 
固体電池は安全なのか?
 
一見すると、固体電池にはさまざまな安全上の利点があるように思えます。固体電池は、可燃性液体電解質を使用せず、不燃性固体電解質に置き換えたものです。また、概して動作温度範囲が広いため、セルの過熱による熱暴走が発生しにくくなります。外部の熱トラブルによる発熱も概ね回避できます。
 
しかしながら、これがすべてではありません。固体電池という言葉は、実際には多くの電池技術に関わっています。固体電池でもイオン交換に液体成分(半固体)を使用するケースがあり、その場合は、揮発性成分が依然として含まれているということになります。ポリマー固体電解質の中には完全に不燃性だとは言えないものもあります。また、どのような電解質でもシステムの温度が一定まで上昇すれば溶解する可能性があります。
 
2022年には、パリの公共交通事業者は2件のバス火災を受けて電動バス149台の運行を一時中止しました。発表によると、この事業者が使用していたセルでは、正極材としてリン酸鉄リチウム(LFP)、負極材としてリチウム金属がそれぞれ使用されており、さらにバッテリーは固体ポリマー電解質が用いられていたということです。当該サプライヤーは自社製バッテリーについて、「完全な固体であり、液体成分も、ニッケルやコバルトも含んでいない」と説明しています。
 
ほかには、2022年にサンディア国立研究所が行ったシミュレーションベースの調査研究(ヒューソン他、ジュール、第6巻第4号 742-755)で報告された事例があります。同研究では、全固体電池、正極に液体電解質を加えた固体電池、従来からある液体ベースのリチウムイオン電池を対象にそれらの安全性を比較しています。その結果、外部で熱の異常発生が起きた場合、少量の液体電解質を含む固体電池の発熱量は、一般的なリチウムイオン電池よりは少ないものの、全固体電池と比較すると多いことがわかりました。短絡故障の場合、放出される熱はセルの容量だけに左右されました。固体電池のエネルギー密度が高いことを考えると、発熱量はさらに多くなる恐れがあります。一般的なリチウムイオン電池について言われている典型的な熱暴走温度は約1000~1200°Cでが、この調査では、固体電池の温度が1800°C近くまで上昇したケースもありました。
 
固体電池はまだ開発途中ですが、重要なのは、固体電池の方が概ね安全であろうということです。とはいえ、どのようなバッテリーシステムでも100%安全であるとは言えません。それゆえ、熱管理と防火材料により、パックから周辺への延焼を遅らせるための最終層を設けることが必須となります。
 
防火材料ソリューション
 
固体電池に使用される防火材料の種類は、従来のリチウムイオン電池に使用されるものとほぼ同様ですが、セルの形式(円筒形、角形、パウチ型)やパックの全体設計が、材料の選択に大きな影響を及ぼします。現在一般的に使用されている受動的防火材料には、マイカシート、セラミックブランケット、発泡封止材、難燃塗料などがあります。エアロゲルは市場での支持を獲得しつつあり、発泡性防火塗料や相変化材料といった選択肢への関心も高まっています。
 
これらの材料の多くは、1500°C以上の高温耐性があるとは思えませんが、最終目標は必ずしも延焼を食い止めることではなく、できる限り遅らせることです。また、高温耐性だけでなく、セルとの適合性、圧縮性能、コストなどのさまざまな機能が求められています。急成長を遂げているEV市場は、防火性への関心が高まっており、防火材料にさまざまな市場機会をもたらし、固体電池などの代替電池技術によって防火材料が市場から淘汰されることはないでしょう。
 
さらに詳しい内容については、IDTechExの関連する調査レポートでご確認ください。
 
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担当:村越美和子  m.murakoshi@idtechex.com
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