ナトリウムイオン電池の将来性

Shazan Siddiqi
ナトリウムイオン電池の将来性
ナトリウムイオン電池は、材料の豊富さ、システムの流用性、高い安全性という独特な組み合わせの特長があり、リチウムイオン電池に代わる有力な選択肢として浮上してきています。エネルギー貯蔵市場がスケーラブルでコスト効率の高いソリューションを模索する中、ナトリウムイオンの将来性により、ナトリウムイオン電池の導入方法や用途に大きな変化が訪れる可能性があります。本記事では、ナトリウムイオン電池技術が有望視される理由を詳しく解説します。
 
豊富な鉱物
 
ナトリウムイオン電池は、鉱物の豊富さにおいて大きな強みがあります。2022年の1トン当たりのリチウム価格は、地政学的緊張、コロナ後の供給問題、需要増大により急騰し、8万ドルを超えるまでになりました。このことで、グラファイト加工の93%以上、世界のギガファクトリー生産高の80%以上を中国が占めるサプライチェーンの脆弱性が浮き彫りになりました。
 
その後1トン当たりのリチウム価格は1万ドル程度にまで下落しましたが、炭酸ナトリウムの方がはるかに安価であることに変わりはありません。これは、BOMコストの低減が図れると同時に、供給ショックにさらされるリスクも低減できるということを意味します。また、ナトリウムは広く入手可能であり、トロナや塩などの一般的な物質からも精製できることから、国内生産の実現に向けて有望視されています。
 
IDTechExの調査レポート「ナトリウムイオン電池 2025-2035年: 技術、有力企業、市場、予測」では、1トン当たりのリチウム価格が再び5万ドルを超えた場合、ナトリウムイオンのコスト優位性はさらに顕著になると分析しています。
 
高い流用性
 
ナトリウムイオン電池と従来のリチウムイオン電池製造は流用性が高く、一般的に製造方法と設備を流用できることから、短期間かつより低コストで生産規模の拡大を図れるようになります。しかし、どの程度流用できるかはバッテリーケミストリーによって異なります。使用材料の中には、例えば層状酸化物やプルシアンブルー類似体のように、湿気に弱く水蒸気と反応して性能が低下してしまうため、ドライルームの設置が必要となるものもあります。
 
また、ナトリウムイオン電池セルはエネルギー密度が低く、同じエネルギー量を蓄えるにはより多くのセルが必要になります。それに伴い必要な設備も増えることになり、加工コストが15%程度増加すると推定されています。それでも、ナトリウムイオンはリチウムイオンのサプライチェーンの大部分を活用でき、プロセスやインフラを流用できることが工業規模生産への貴重な近道となりえます。
 
ナトリウムイオン電池とリチウムイオン電池製造の流用性は、バッテリーケミストリーによって異なる。出典:IDTechEx
 
安全上の利点
 
リチウムイオン電池セルとは異なり、ナトリウムイオン電池セルは充電ゼロの状態で輸送可能であるため、輸送中の発火リスクが下がり、より安全、簡単、安価に輸送できるようになります。この点は、特にグローバルなサプライチェーンにとっては物流上の重要な利点となります。
 
ナトリウムイオン電池では、一般的にハードカーボンが負極材料として使用されます。ナトリウムはグラファイト層間に入り込まないため、引火点が高く液相範囲の広い炭酸プロピレン(PC)などの別の電解質溶媒を使用できるようになります。炭酸プロピレンは、一般的にリチウムイオンシステム内では安全ではありませんが、ナトリウムイオン電池セルではうまく機能します。また、炭酸プロピレンはDECやDMCをはじめとする高可燃性溶媒の代わりとして使用できるため、熱的安定性や安全性が向上します。
 
とはいえ、ナトリウムイオン電池は絶対にリチウムイオン電池より安全であるとは一概に言えません。安全性は、具体的にどのバッテリーケミストリーを使用するかによって大きく異なるからです。例えば、NFPPやNFMなどの層状酸化物材料は、熱乱用条件下では異なる挙動を示します。これらの違いについてはIDTechExの調査レポート「ナトリウムイオン電池 2025-2035年: 技術、有力企業、市場、予測」でさらに詳しく取り上げており、ナトリウムイオン電池開発企業数社によるARC試験データもご覧いただけます。
 
熱乱用シナリオにおいては、ナトリウムイオン電池セルはリチウムイオン電池セルよりも高温で熱暴走状態に陥り、その進行もリチウムイオン電池セルよりも遅い傾向があるため、特定の条件下では安全性が高まることになります。
 
今後の展望
 
IDTechExの調査レポート「ナトリウムイオン電池 2025-2035年: 技術、有力企業、市場、予測」では、この技術がエネルギー貯蔵市場での競争を可能にする3つの重要な見通しを解説しています。
  • 安全性維持とエネルギー密度向上の両立。正極、負極、電解質、全体的なセル設計、組み込み方の改良が鍵となります。現在市販されている中国製ナトリウムイオン電池セルは、エネルギー密度が120Wh/kgまたは250Wh/Lを超えていますが、それでもLFP電池セルの平均エネルギー密度160Wh/kgまたは300Wh/Lとは比べ物になりません。
  • システムレベルでの総所有コストで競争力を高める。ナトリウムイオン電池セルは競争力の高い価格水準に達する可能性があります。LFPよりも安価とまではいかないにせよ、LFPがセル・ツー・パックのイノベーションによって支持を得たのと同じような経緯で、運用コストや保守コストの削減などのシステムレベルの改善によって、形勢が有利になるような価格水準ぐらいにはなるかもしれません。
  • バッテリーケミストリーを基に性能面でのニッチを開拓。低温性能、高出力、高い安全性などの領域が挙げられます。その最たる例は、データセンターUPS(無停電電源装置)用途にバッテリーを供給しているナトロン・エナジーや、ナトリウム電池セルを使用してSoC(充電状態)の推定や優れた低温性能を実現しているCATLのハイブリッド車向けバッテリーパックです。

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