バイオ燃料とE-Fuel(合成燃料)の製造状況の進化

Chingis Idrissov
Technician is refueling aircraft with Sustainable Aviation Fuel (SAF)
電動化は道路輸送部門の脱炭素化の主要な解決策として広く認識されています。一方、特定の業界では電動化が最も現実的な選択肢とは言えないこともあり、水素、アンモニア、バイオ燃料、E-Fuelなどの代替低炭素燃料への関心が高まっています。バイオ燃料の分野では、これまでバイオディーゼルとバイオエタノールが市場の主流となっていましたが、持続可能性に関する懸念、特に土地利用の変化と食糧生産との競合に関する懸念から、持続可能燃料の生産業者は、代替(第2世代)原料に由来する再生可能ディーゼル、SAF(持続可能な航空燃料)などのより先進的な燃料や新しいプロセス技術の模索を促されています。
 
これを受けて再生可能ディーゼルが台頭してきており、特にそうした燃料を世界市場に供給している米国、欧州やアジアの一部(中国など)の地域ではその影響が顕著です。再生可能ディーゼルは当初原油から作られていましたが、現在は使用済み食用油、廃油、動物性脂肪など、より持続可能な原料への移行が着実に進んでいます。こうした代替資源はSAF(持続可能な航空燃料)の製造でも支持を得てきており、環境フットプリント削減を実現しています。
 
既存技術の多様性にもかかわらず、先進型バイオ燃料市場とE-Fuel市場は、バイオエタノールやバイオディーゼルと比較すると、どちらも依然として初期の発展段階にあります。この市場の成長を促す主な要因は、EUや米国などの主要地域における規制や政策による支援ですが、新しいプロセス技術や改良されたプロセス技術導入も今後の製造を取り巻く状況に大きな変化をもたらすことになるでしょう。
 
本記事では、IDTechExの調査レポート 「持続可能なバイオ燃料とE-Fuel(合成燃料)市場 2025-2035年:技術、有力企業、予測」をもとに、先進バイオ燃料とE-Fuelの今後の主要な市場促進要因と技術開発について掘り下げます。
 
HEFAプロセスの優勢
 
再生可能ディーゼルやSAF(持続可能な航空燃料)の製造で最も広く使用されているプロセスがHEFA(水素化処理エステル・脂肪酸)プロセスです。このプロセスは、原油から各種燃料留分を合成する製油所の工程と似通っています。HEFAの主な工程には、水素化処理、水素化分解、異性化(アップグレーディング)、分留などがあり、これらの工程をすべて経て、石油系原料由来のトリグリセリドがドロップイン燃料として適した特性を備える分岐状炭化水素に変換されます。HEFAプロセスは工業技術として成熟度が高く、信頼性も実証されていることから、現在では再生可能ディーゼルのバイオリファイナリーの多くがHEFAプロセスを利用しています。
 
代替プロセスの登場と主な成長要因であるSAFへの関心
 
持続可能燃料はこの先も発展し続けると見られており、革新的な技術拡大も著しく進んでいます。その進化の1つが、ガス化FT(フィッシャー・トロプシュ)合成です。このプロセスでは、農林業系廃棄物などの廃棄物系バイオマスを、再生可能ディーゼル、SAF、ガソリンなどの合成炭化水素燃料に変換します。また他にも興味深いのが、メタノールとエタノールをジェット燃料やガソリンに変換するプロセスで、一般にATJ(アルコール・トゥ・ジェット)プロセスやATG(アルコール・トゥ・ガソリン)プロセスという名で知られています。さらに、カーボンニュートラルを実現する可能性を秘めているE-Fuelは、空気中のCO2や生物起源CO2を水や再生可能エネルギーと併せて使用することで生成されます。これらの先進技術は、持続可能燃料の製造方法の幅を広げ、長距離・大型輸送セクターに持続可能性の高い燃料を供給するための代替製造方法を実現することが期待できます。
 
SAFへの関心の高まりは、持続可能燃料業界でのイノベーションを後押しする大きな力となっていますが、これは主要市場でのSAF導入義務化が主な要因です。EUではReFuelEU Aviationイニシアチブにより、SAF混合率を段階的に引き上げる(2025年の2%から最終的に2050年までに70%)ことが義務付けられています。米国も同様に、2030年までにSAF生産量の目標を年間30億ガロンに設定したSAFグランドチャレンジを導入しています。こうした規制の枠組みは強力な市場プルを生み出し、航空会社がテクノロジー企業やSAF製造施設に直接投資する動機付けとなっています。例えば、ブリティッシュ・エアウェイズは、ランザジェットと提携して欧州初の商業規模ATJ(アルコール・トゥ・ジェット)製造施設の1つを英国に建設しており、このプロジェクトに250万ポンドを投じています。
 
主要なSAF生産経路の概要。Note:この図には、熱分解、水熱液化(HTL)、藻類バイオ燃料技術は含まれていない。Source: IDTechEx
 
HEFAに代わるバイオ燃料製造技術の急速な発展
 
ここ数年、農業残渣などのリグノセルロース系バイオマスに由来するセルロース系エタノールが大きな注目を集め、多額の投資を呼び込んでいます。クラリアントなどの企業の主導により、従来のバイオエタノールに代わる持続可能性の高い代替品の生産プラントを開発する取り組みが進められていますが、こうした当初の期待とは裏腹に、経済的課題や技術的課題のために多くの企業が撤退しています。その一方で、セルロース系エタノールがATJ(アルコール・トゥ・ジェット)プロセスによってSAF(持続可能な航空燃料)の有望な原料であると考えられるようになり、こちらに新たな関心が生まれ、新しい市場機会が創出されています。例えば、ブラジル企業のグランビオはハネウェルUOPと提携し、年間120万ガロンのSAF生産量を見込むATJ施設を米ジョージア州に建設しています。
 
ガス化FT合成セクターも勢いを増しつつあり、商業的関心が高まっています。ガス化は主に石炭を合成ガスに変換するのに用いる成熟した技術であり、バイオマス変換プロセスでの活用が進んでいますが、FT合成にはタール含有ガスを合成ガスに変換する必要があるなど、より多くの課題を抱えています。英国を拠点とするABSLなどの企業は、タール分解によりクリーンな合成ガスを生成するプラズマ改質装置などの革新的なソリューションの開発を進めています。また、合成燃料において以前より確立されているFT技術でもイノベーションが起きています。ベロシスなどの企業が効率向上とモジュール式設備の小型化を図るべく、マイクロチャンネルFT反応器などの開発を進めています。
 
その他には、熱分解やHTL(水熱液化)などの技術も注目を集めています。熱分解はバイオマスからのバイオ炭製造やプラスチックリサイクルを主な目的としていますが、HTL開発企業は、従来の方法では処理が難しい原料(廃水など)を使用し、それらをバイオ原油に変換後、再生可能ディーゼルやSAFに精製することを目指しています。IDTechExの調査レポートでは、その他の技術革新や商業的分析も詳細に説明しています。
 
第3・第4世代バイオ燃料の不透明な道筋
 
耕地との競合を回避できる可能性があることや煙道ガスのCO2をリサイクルできることから、微細藻類やその他の微生物に由来する第3・第4世代バイオ燃料は長きにわたり有望な解決策とされてきました。増殖速度が速く、効率良く培養できることから、微細藻類には大きな可能性が秘められています。2000年代後半から2010年代初頭にかけて、エクソンモービル、BP、シェル、シェブロンなどの大手石油会社が藻類バイオ燃料に大きな関心を寄せ、多額の投資を行っています。
 
こうした初期投資にもかかわらず、藻類バイオ燃料は技術的課題や経済的課題を克服するのに苦戦してきました。学術環境やスタートアップ環境で研究開発の取り組みは続いているものの、産業での大規模な導入は未だに限られています。プロジェクト開発に積極的に取り組んでいる大企業が数社程度に留まっているため、藻類バイオ燃料の今後20年間の先行きは依然として不透明です。
 
世界中で関心が高まるE-Fuel
 
PtL(パワー・ツー・リキッド)燃料という名でも知られているE-Fuelへの関心が世界中で高まっています。再生可能エネルギーを利用した水電解によって生成したグリーン水素と、回収したCO2を組み合わせて作られるE-Fuelは、カーボンニュートラル燃料を生み出す可能性を秘めているからです。E-Fuelの例としては、e-メタノール、e-メタン、e-ガソリン、e-ディーゼル、e-ケロシン(e-SAF)などが挙げられます。
 
現在の市場では第2世代バイオ燃料が主流ですが、原料の供給が理論的に無尽蔵にあることや、カーボンニュートラルの実現を期待できることから、E-Fuelは急速に支持を集めてきています。規制当局(特に欧州と米国)からの圧力に加え、大手企業の関心もあり、商業規模のE-Fuelプロジェクト開発が加速しつつあります。HIFグローバルやインフィニウムなどの企業が先導する中、複数のプロジェクトが進められており、これら企業の多くはe-メタノールやe-SAFの製造に注力しています
 
E-Fuel製造は、直接空気回収(DAC)や点源CO2回収、グリーン水素生成用水電解、合成ガス向け逆水性ガスシフト(RWGS)、メタネーションやFT合成をはじめとする燃料合成技術など、複数の技術を組み合わせて行われます。これらの技術は、成熟度は高いものの依然として製造コストが高く、プロジェクト進行にあたり再生可能エネルギー業界や水素セクターと同様の課題に直面しています。そのため、少なくとも今後10年間は第2世代バイオ燃料が先進型持続可能燃料市場をリードし続けることになるとIDTechExは予測しています。
 
まとめ
 
持続可能燃料市場は今後数年で大きな成長を遂げようとしています。再生可能ディーゼルとSAFの世界全体の生産能力が2035年までに年間5700万トンを超えることになるとIDTechExは予測しています。この急成長は、世界のエネルギーミックスにおける持続可能燃料の重要性の高まりを浮き彫りにしています。規制が一番の推進要因ではありますが、航空会社など燃料の最終需要者の関心増大や製造技術の継続的進歩が市場形成においてますます重要な役割を担うことになるはずです。
 
IDTechExの調査レポート 「持続可能なバイオ燃料とE-Fuel(合成燃料)市場 2025-2035年:技術、有力企業、予測」では、再生可能ディーゼル、SAF、再生可能メタノールの生産技術、主要産業企業、プロジェクト事例、市場予測に関するより詳細な分析を提供しています。

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