リチウムイオン電池のダイレクトリサイクルとバッテリーグレードグラファイト回収の進歩
2025年8月12日
Conrad Nichols
リチウムイオン電池(LIB)リサイクル市場は、プレーヤー各社の新たなパートナーシップ、供給契約締結、多額の資金調達を通じて急成長を続けています。有力プレーヤーは、メカニカルリサイクル技術や湿式・乾式製錬によるリサイクル技術を用いた新たな商業規模施設の建設も推し進めています。これらの技術は研究が進んでおり、ブラックマス、バッテリーグレード金属塩、pCAM(前駆体正極活物質)、CAM(正極活物質)などの新品リチウムイオン電池の原料となる中間生成物製造を目的に、商業規模での利用が広がっています。
一方で、これらの技術を安価なLFP系正極のリサイクルに利用するには、コスト面で厳しいものがあります。このバッテリーケミストリーの普及がEV(電気自動車)市場やBESS(バッテリーエネルギー貯蔵システム)市場で進んでいることを踏まえると、より安価な再生正極材の製造が期待されるリチウムイオン電池のダイレクトリサイクル技術を長期的に開発していくことが不可欠となります。また、従来のLIBリサイクル技術は、リチウム、ニッケル、コバルトなどの価値の高い正極材の回収に重点を置いてきました。リサイクル事業者は、バッテリーグレードグラファイトのリサイクル技術の商用化に乗じて、LIBのリサイクルから得られる価値全体を高められる可能性があります。IDTechExは、市場調査レポート「リチウムイオン電池リサイクル市場 2025-2045年:市場、予測、技術、有力企業」で、使用済み(EOL)LIBや製造スクラップからの材料回収量(金額ベース)を基に、リチウムイオン電池リサイクル市場が2045年には520億ドル規模に達すると予測しています。この金額通りの材料を回収するには、LIBのダイレクトリサイクル技術やバッテリーグレードグラファイトのリサイクル技術の継続的なイノベーションと進歩が必要になります。
リチウムイオン電池ダイレクトリサイクル技術の進歩:商業活動、課題、展望
NMC(ニッケル・マンガン・コバルト酸化物)などの三元系バッテリーケミストリーを使用するLIBは、正極にニッケルやコバルトを含んでいるため、LFP系電池よりもリサイクル収益性が高いことが広く知られています。ところがEV・BESS市場では、用途に応じてコスト、安全性、サイクル寿命の優先順位付けがなされており、LFP電池の需要が増加しています。そのため、LFPのリサイクルに大きな恩恵をもたらす低コストのリサイクル技術の開発を求める圧力が高まっています。その中でも特に求められているのは、LIBダイレクトリサイクル技術です。
ダイレクトリサイクルでは、バッテリー材料を再活性化することでサイクル中に失われた容量を回復させますが、乾式製錬法や湿式製錬法と異なるのは、リチウムイオン電池正極の結晶構造が崩壊するのを防ぐという点です。CAMが修復可能な場合は、熱処理、水熱処理、電気化学的処理などのさまざまな技術によって再リチウム化が可能です。
開発が進められているダイレクトリサイクル技術は、従来のLIBリサイクル技術に代わるより安価な選択肢になり得ると、複数の有力プレーヤーが考え始めています(「リチウムイオン電池リサイクル市場 2025-2045年:市場、予測、技術、有力企業」参照)。中には、LIBダイレクトリサイクル技術のパイロット段階にあるプレーヤーもあれば、初のLIBダイレクトリサイクル工場の商業運転開始を目前に控えているプレーヤーも数社あります。
LIBのダイレクトリサイクルは、より安価なソリューションを提案するものですが、主な課題として、容量低下を最小限に抑えながらサイクル性能の向上(1000サイクル以上)を実証すること、バッテリーケミストリーのアップサイクルにより新たな市場需要に対応することの2つが挙げられます。使用済みLIBをダイレクトリサイクルの原料として使用する場合、最新のバッテリーケミストリーへのアップサイクルが必要になるでしょう。なぜなら、今の原料のままではより高い性能を実現する新たなバッテリーケミストリーに対応できなくなるからです。そのため、アップサイクルによって新たな処理が必要となり、工程のエネルギー強度が高くなる可能性があることから、工程コストが増大し、技術商用化の実現性が低くなる恐れがあります。

各種原料(電極製造スクラップ、セル製造スクラップ、使用済みLIB)を用いたLIBダイレクトリサイクルのフローチャート。出典:IDTechEx
しかし、セル製造工程の各所で発生するLIBセル製造スクラップも、LIBのダイレクトリサイクルにおいて重要な原料となります。電極スクラップは、組み立てやフォーメーション済みのセルと併せて、セル製造スクラップ原料の一部として利用可能です。この原料は現行のセル製造工程でも入手可能で、このバッテリーケミストリーであればアップサイクルは必要ないことから、この原料の利用が中期的にダイレクトリサイクル技術で拡大することが予想され、現在のEV・BESS市場で見られつつあるLFPの採用拡大にも寄与することが考えられます。ただし、LFPセルは大部分が中国で生産されており、このニッチな恩恵を受けるのは中期的に中国のLIBリサイクル事業者に限定されるでしょう。
どのような原料であれ、アップサイクル工程のコストを最小限に抑え、再生正極の長期サイクル性能を実証できれば、ダイレクトリサイクル技術は長期的にLIBリサイクル市場と新品正極生産市場の両方にさらなる大きな変化をもたらす可能性があります。
リチウムイオン電池向けバッテリーグレードグラファイトリサイクル技術の最新開発動向
リチウムイオン電池(LIB)のグラファイト回収・リサイクルの商用化は、高価値な正極材に対してグラファイトが低価値であること、グラファイトのリサイクルを通してバッテリーグレード(純度99.95%以上)の材料を製造するのが困難であることから、あまり進展は見られません。一方で、LFPの採用拡大やサプライチェーン現地化の促進、バッテリー用グラファイト供給源の中国への集中化、グラファイト負極の持続的な需要増大、さらにはリチウムイオンバッテリー業界の循環性向上を求める圧力の高まりもあり、LIBからのグラファイトリサイクルが注目され始めています。
複数の有力プレーヤーが、バッテリーグレードグラファイトのリサイクル技術の商用化を模索しており、アメリカン・バッテリー・テクノロジー(ABTC)、アセンド・エレメンツ、サイリブなどのリチウムイオンのリサイクル事業者でもそのような動きが見られます。グラファイトのリサイクルに注力している主なプレーヤーとしては、グリーン・グラファイト・テクノロジーズ、エコグラフ、グラファイト・ワン、X-BATTなどが挙げられます。自社の再生グラファイトがバッテリーグレードであるかそれに近い水準であると主張するプレーヤーもあれば、顧客(EVバッテリーメーカーなど)と共同で再生グラファイトを原料にした負極の検証実験段階に入っているプレーヤーもあります。こうした初期試験によって展望が開けたように思えますが、これらリサイクル技術の商用化実現性を高めるには、再生グラファイトの純度やサイクル性能の向上(1000サイクル以上)を通して負極性能を実証する必要があります。
極めて重要なのは、他のバッテリー用クリティカルマテリアルと比較してグラファイトが低価値であるため、バッテリーグレードグラファイトのリサイクル技術の採算性を確保するには、再生グラファイトの精製・回収にも低コストの手法を用いなければならないことです。
リチウムイオン電池リサイクル技術の展望
メカニカル法、湿式製錬法、乾式製錬法など従来のLIBリサイクル技術はすでに商用利用可能となっており、研究も進んでいるため、これらの技術による生産能力は世界的に拡大しています。一方、ダイレクトリサイクル技術やバッテリーグレードグラファイトリサイクル技術の開発が進むことにより、LIBリサイクル事業者の収益性向上の実現に寄与する可能性も出てくるため、LFP系リチウムイオン電池も低コストでリサイクルできるようになるかもしれません。再生グラファイトを使用した負極とダイレクトリサイクルによる正極の性能が、いずれも新品の性能と比べて大きく劣っていないことが実証され、工程コストを低く抑えることができれば、こうした見通しが長期的により広範囲にわたって現実のものとなるでしょう。いずれの技術も発展を続けており、初の商業規模プラントの稼働開始を目前に控えているLIBダイレクトリサイクル事業者も複数見られます。
IDTechExの最新版調査レポート「リチウムイオン電池リサイクル市場 2025-2045年:市場、予測、技術、有力企業」では、リチウムイオン電池のリサイクル技術に関する詳細情報、世界のリチウムイオン電池リサイクル市場の分析(LIBリサイクル施設、パートナーシップ、供給契約、資金調達、合併・買収、合弁事業などの有力企業動向を含む)、ビジネスモデル、経済性、バリューチェーン、政策・規制、そして電気自動車、製造スクラップ、エネルギー貯蔵システム、家庭用電子機器のリチウムイオン電池に関する20年間のリサイクル予測をご覧いただけます。
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