負極の先進技術はリチウムイオン電池の進むべき道か?
2022年2月10日
Dr Alex Holland
リチウムイオン電池は、特にエネルギー密度の点で性能の限界に達しつつあります。しかし使用する負極材料をシリコンやリチウム金属にシフトすることで、エネルギー密度を段階的に向上させる可能性があります。負極材を開発するアーリーステージの企業の多くがシリコンに焦点を当てていることからも、その将来性がうかがえます。
シリコン、リチウム金属、固体電池の技術を開発しているスタートアップ企業が目立つ。 Source: IDTechEx調査レポート - 『先進的リチウムイオンおよび次世代バッテリー2022-2032年: 技術、有力企業、トレンド、市場』
このようにシリコンに多くの関心が寄せられているのは、シリコンの方が一般的に使用されているグラファイトよりも1桁ほど容量が上回ることから、シリコンの使用によってバッテリーのエネルギー密度が著しく向上する可能性があるからです。セルレベルでのエネルギー密度は、現在の最先端のものと比べてほぼ2倍になる可能性があり、電気自動車(EV)の航続距離やスマートフォンの動作時間に明らかな恩恵をもたらします。このような目を引く数値以外にもシリコンを用いることで、リン酸鉄リチウム(LFP)のような低エネルギー密度のセルの訴求力が高まる可能性があります。ニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)のセルとの差が縮まり、(特にバッテリー式電気自動車向けの)LFPが抱える主な欠点が最小限に抑えられます。IDTechExが試算したところ、負極材にシリコンを20%混合するとエネルギー密度が17%向上する可能性があります。
負極材にシリコンを使用する場合、問題となるのは寿命です。充放電サイクルで負極に体積変化が生じることにより、電解質とリチウムが消耗して機械的ストレスを引き起こし、最終的に導電率やイオン伝導率の低下をもたらします。多孔性、電解質添加剤、導電性や結合性のネットワークを取り入れることは、開発されているソリューションのほんの一部にすぎません。シリコンはデンドライト形成のリスクも低減しますが、一般的に必要とされている多孔性と導電性添加剤は急速充電機能や低温での動作にさらに役立ちます。全体としてはシリコン負極は非常に有望な提案であり、企業各社はシリコンの主な欠点がほぼ克服されつつあるという証拠を提示しながら、十分なサイクル寿命を持つセルを宣伝しています。
シリコンは今日のNMC系・NCA系リチウムイオンセルとの差を縮めるのに役立つ可能性がある。 Source: IDTechEx -IDTechEx調査レポート - 『先進的リチウムイオンおよび次世代バッテリー2022-2032年: 技術、有力企業、トレンド、市場』
リチウム金属負極もエネルギー密度を向上させる上で大いに有望ですが、やはりサイクル寿命が短いことが難点となります。またデオドライトの形成や短絡のリスクも高まります。固体電解質が解決策の1つとして広く開発されていますが、リチウム金属負極を実現する手段の1つとして薄い保護バリアと安定した液体電解質を使用する方法も検討されています。SESはその代表例です。実際従来の技術であるセパレーター・電解質システムを利用すれば、エネルギー密度と製造の容易さは実現できる可能性がありますが、固体電解質の利用により得られる安全性という利点がフルに享受できなくなります。シリコンとリチウム金属の性能面や技術面での課題は一部解決されつつあるため、このようなソリューションを利用した生産の規模を拡大し、既存のバッテリー製造工程に組み込む方法を検討する方向にシフトすることが成功の鍵となります。いずれにしても同様の長所と短所があるため、結局のところ、問題はシリコンやリチウムを使用することではなく、特定のイノベーションやソリューションを実現することにあります。
エネルギー密度のほかに世間の関心を集めそうな重要な数値指標が急速充電です。シリコン負極は急速充電に非常に適している可能性があり、またリチウム金属セルには急速充電というメリットがあると宣伝されていることからも、この点においても改良が進んでいることが示唆されていますが、商業的に重要なセルのデザインにおいて性能を検証する必要があります。しかし用途によっては急速充電機能に加え、シリコンやリチウムの標準的なサイクル寿命(1000サイクル)を超えるような非常に長いサイクル寿命も求められます。東芝やEchion、Nyoboltで開発中のニオブや酸化タングステンを使用した最新の負極材の場合、充電時間は5~6分で数万回のサイクル寿命が見込まれていますが、エネルギー密度についてはLFPを下回ることになりそうです。
長期的に見ればこれらの材料には利点があるものの、エネルギー密度が比較的低いためにバッテリー式電気自動車やほとんどの消費者向けデバイスでは使用されていません。とは言え、これらの材料が持つ高出力や長サイクル寿命という特性が非常に重宝される用途も存在します。このような点からグラファイトに続き、シリコンとリチウム金属が今後10年間にわたり主要な負極材になるとされています。IDTechExでは、シリコン負極材の需要が重量ベースで2022年から2032年にかけて45%の年平均成長率で伸びていくと予測しています。
さらに詳しくは、IDTechExの調査レポート - 『先進的リチウムイオンおよび次世代バッテリー2022-2032年: 技術、有力企業、トレンド、市場』でご確認ください。
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