Engineered Substrateを使用した低コストSiCと高電圧GaN

John Li
Engineered Substrateを使用した低コストSiCと高電圧GaN
EVパワーエレクトロニクスにおけるSiC(炭化ケイ素)の喧伝やGaN(窒化ガリウム)の将来性とは裏腹に、どちらの技術にも課題が残っています。最終的にSiCとGaNが現行のSi技術と市場を共有する可能性については、完成車メーカー、ティア1サプライヤーや市場アナリストたちの間で概ね見解が一致していますが、その正確なロードマップやタイムラインについては未だ不透明です。IDTechExが、比較的初期段階において、全体的性能、生産能力、コストの改善をもたらすだろうと期待しているのは、Engineered Substrateです。IDTechExの調査レポート『電気自動車用パワーエレクトロニクス 2025-2035年:技術、市場、予測』 では、EVパワーエレクトロニクスへのEngineered Substrateの使用について、潜在的な利点と課題(スケーラビリティ、生産量、性能など)を評価しています。
 
Engineered substrates could potentially decrease the overall device cost of SiC MOSFETs by reducing the amount of monocrystalline SiC per device, and can increase the maximum voltage of GaN HEMTs, presenting advantages for use in EV traction. Furthermore, the wide availability will increase production volumes and reduce lead times, as epitaxial growth is slow, and engineered substrates can be mass-produced. For GaN, newer vertical devices will have greater power density, and for SiC, die areas will reduce, also increasing power density. It should be noted that this is a general overview of what could potentially happen according to IDTechEx's analysis. Source: IDTechEx
 
従来、基板は単結晶半導体材料でできた薄いディスクであり、そのディスク上にMOSFETやIGBTなどのデバイスを成長させるものでした。半導体のエピタキシャル成長層はこの基板上で形成されるため、基板はエピタキシーと同じ結晶(ホモエピタキシー)であることが理想的(例:SiのデバイスにはSiの基板など)です。車載の充電器、トラクションインバータ、DC/DCコンバータなどの自動車用モジュールのパワーエレクトロニクスで使用されるSi MOSFETやIGBTには、Si基板が最適です。世界的なサプライヤーには、SUMCO、信越化学工業、グローバルウェーハズなどがあります。つまり、この技術は信頼性が高く成熟しており、コスト効率も高いということになります。
 
Engineered SubstrateによるSiC MOSFETの増量
 
SiCウエハー市場のグローバル化が始まったのはごく最近です。2023年現在、SiCウエハーの約75%が米国で生産されています。ウルフスピードやSTマイクロエレクトロニクスをはじめとする企業の欧州や中国への進出、その他のSiCウエハー企業の登場、150mm基板から200mm基板への移行などにより、市場の競争が激化し、低コスト化につながる見込みです。
 
このような動きと並行して、各社はSiCパワーデバイス用Engineered Substrateの開発も進めています。一般的に、これらはSOI(シリコン・オン・インシュレータ)技術を活用し、単結晶SiC(通常、SiCウエハーは完全な単結晶SiC)の薄層に接合された多結晶SiC層で構成されています。この技術の派生技術を活用している企業には、X-FABやSTマイクロエレクトロニクスとの提携を発表しているソイテックや、6インチのEngineered SiC Substrateを現在市販し、2025年度の量産を予定しているサイコックス(住友金属鉱山の子会社)などがあります。
 
SiC基板市場のグローバル化と参入企業の増加に伴い、自動車メーカー各社は、Si IGBTと比較して車の航続距離を7%伸ばすことができる高効率パワートレインを開発するために大量のSiC MOSFETを必要としています。Engineered Substrateには生産量とコストの面で利点があります。同量の単結晶SiCを使用しない場合と比べて、使用したEngineered Substrateの生産量は、1桁多くなる可能性があります。Engineered Substrateを作成するには、平坦にするための研削や研磨などの工程を経て機械的強度の高い多結晶SiCウエハーを用意し、そこから非常に薄い単結晶SiC基板の層を多結晶ウエハーにしっかりと接合します。加工、活性化、検査を経てEngineered Substrateが完成し、残りの単結晶ウエハーは、Engineered Substrateをさらに製造するのに再利用されます。
 
このため、SiC基板がデバイス全体のコストの最大50%を占めることでコストが下がり、1枚の単結晶SiCウエハーから10~50枚の基板を作れるようになるため、生産量も増加します。また、Engineered Substrateは基板一面にわたって「オン抵抗」が低いため、単位面積当たりの発熱量が少なくなることや、Engineered Substrateによって基板1枚から生産できるチップの枚数が増加する可能性があることも分かっています。
Engineered SiC Substrateは可能性を示しているものの、量産にはまだ数年はかかるでしょう。また、商用化の主な形態についての疑問も残ります。例えば、企業が接合工程をライセンス供与する可能性や、ファウンドリやデバイス関連企業と提携して基板を大量生産したり、必要な設備を貸与することも考えられます。自動車業界の設計サイクルとリードタイムは、数年にも及ぶなど、長いことで知られています。加えて、その工程でEV用デバイスが製造できる高い要件と広範な試験が必要です。
 
トラクションインバータでのGaNを実現するEngineered Substrate
 
SiCはすでにEVパワーエレクトロニクスで使用されているため、Engineered Substrateの大規模商用化は、その開発の加速に一役買うことになるでしょう。GaNについては、ヴィテスコやヴィスICテクノロジーズをはじめとする多数の企業が車載用高電圧GaN製品の発売を目指していますが、その障害は少し異なります。IDTechExが知る限り、GaNデバイス用のバルクGaN基板を製造しているのは、オデッセイ・セミコンダクター・テクノロジーズという企業1社しかありません。同社は2024年5月にパワー・インテグレーションズに買収されましたが、GaN基板が信頼性とコスト効率の高い方法で製造できるかどうかはまだ分かっていません。
 
これまで、GaNデバイスの成長(ヘテロエピタキシー)にはシリコン基板が使用されてきました。また、市販されているほぼすべてのデバイスがシリコン基板を使用しています。シリコン基板はシリコン系デバイス向けにすでに量産されているため、シリコン基板をGaNトランジスタに使用するのは容易に思えます。バッファ層は、エピタキシャルGaNとSi基板の間のひずみと格子不整合を処理し、堅牢性を向上させます。しかしながら、GaNはSi基板上に薄い層でしか成長させることができないため、ホモエピタキシャルGaNや電圧を制限した横型GaNデバイスと比べて不良品欠陥率が高くなります。
 
トラクションインバータでGaNを使用するためには、デバイスが高電圧と出力を長時間維持する必要がありますが、現行のGaN技術では不十分です。代替技術としては、GaN-on-サファイアやGaN-on-SiCなどがあります。より電圧の高いデバイスを実現する可能性がありますが、CMOSプロセスとの互換性がなく、高コストであり、他にも取り扱いや熱性能に問題があります。GaN設計基板は、格子不整合を最小限に抑えたり、GaNと熱膨張係数が一致する基板を作成することでこれらの問題を軽減し、1200Vを超える縦型デバイスに対応する、より厚いGaNエピタキシャル層を形成します。これは、ファブレス企業であるQromisが同社のQST(Qromis Substrate Technology)を用いて行っている手法です。基板の物理的特性をGaNと一致させることで、デバイスの不良品率が低くなり、破損も最小限に抑えられます。また、現行のGaNデバイスは150mmのSi基板の上に成長させていますが、設計基板はスケーラブルで、将来にわたって使用可能な200mm(最終的には300mm)の基板の上にGaNを成長させます。そうなれば将来的に生産量が増加し、デバイス当たりのコストも低下します。
 
GaN基板が現時点で非常に高価であるため、次善の策はGaNに可能な限り類似したものを製造することであり、これこそがEngineered Substrateの目指すところです。Si基板は大量生産できることからコスト効率に優れていますが、現行技術を使用する高電圧パワーエレクトロニクスの需要への対応に苦戦しています。SiCやサファイアなどの代替の基板は他の欠点を伴うため、Engineered SubstrateはGaNのEVパワーエレクトロニクス市場への投入を実現するための鍵を握る技術となる可能性があります。しかし、IDTechExが知る限り、自動車メーカーやティア1サプライヤーによる採用計画は今のところありません。
 
総じて、Engineered substratesは縦型GaNデバイスへの道を開き、デバイスの信頼性、コスト効率、スケーラビリティ、出力密度を高める可能性があります。調査レポート『電気自動車用パワーエレクトロニクス 2025-2035年:技術、市場、予測』 の中で、IDTechExはEngineered Substrateに関してさらなる分析を行っており、その影響と、集積化パワーエレクトロニクスや3レベルインバータといったEVパワーエレクトロニクスの他の動向を比較しています。
 
電気自動車用パワーエレクトロニクスの最新動向は、IDTechExの調査レポート『電気自動車用パワーエレクトロニクス 2025-2035年:技術、市場、予測』 で、ご確認ください。

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