PFAS規制後の自動車用冷媒の未来

Dr James Edmondson
PFAS規制後の自動車用冷媒の未来
自動車市場の焦点はCO2 規制に対応するための電動化ですが、自動車業界に大きな影響を与える規制はこれだけではありません。PFAS(パーフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル物質)は、さまざまな業界で懸念が高まっています。PFAS規制の先行きが不透明な中で、自動車業界のプレーヤーが検討可能な冷媒の代替手段はいくつかあります。IDTechExの最新調査レポート「電気自動車の熱管理 2025-2035年:材料、市場、技術」では、2035年には電気自動車(EV)用だけでも4500万kg近くの冷媒が必要になると予測しています。そのため、その全車両の冷媒を変更するとなると、自動車市場にとっては大きな転換となります。
 
これまでのストーリー
 
車室内の温度を保つために空調システムで使用される冷媒は、ドライブトレインに関係なく自動車には必要です。早期に市場投入されたBMW i3やBYDの最近のモデルをはじめとする一部のEVでは、バッテリーの冷却にも冷媒が使用されています。
 
R134aが冷媒の標準(クロロフルオロカーボン〈CFC〉の代替)でしたが、欧州では、その地球温暖化係数(GWP)の高さから、2010年以降に新たに製造されたシャーシを使用する車両と2017年以降のすべての新車を対象に使用が禁止されました。米国などの他の地域もこれに追随していますが、R134aは、中国をはじめ、各地で多く使用されているのが現状です。GWPが1400を超えるR134aに対してR1234yfのGWPは4未満ということもあり、R1234yfはすぐにR134aの代替となりました。
 
PFASの定義は広範であり、経済協力開発機構(OECD)による定義では5000種類近くの異なる化学物質が含まれています。これらの物質に関して懸念されているのは、人体、野生生物、環境への残留性です。発がん性、発育遅延、ホルモンへの影響のリスク増大など、潜在的に有害な影響を示す証拠が増加しています(米国環境保護庁とOECDによる)。
 
米国のいくつかの州と同様に、EUでもPFASの全面禁止が検討されています。EUが全面的制限を決定した場合、自動車の冷媒が猶予の対象となるかどうかによりますが、代替を実施するのに1年半から6.5~13.5年ほどかかる可能性があります。しかし、猶予の見込みがあるのは、市販の代替品がない用途や、代替品の生産規模拡大に時間がかかる用途のみです。現時点では、R1234yfへの代替実施に明確な期限が定められていませんが、代替冷媒と関連する熱管理部品の開発は絶えず進行しています。
 
車両1台あたりの冷媒量は大きく異なり、 ヒートポンプの 利用率によって大きな差が生じる。  Source: IDTechEx
 
次世代冷媒
 
R744 CO2は2017年にメルセデスがSクラスに初めて採用しましたが、その後採用を取りやめています。プラットフォーム「MEB」を採用するVWのEV「ID」では、ヒートポンプを搭載するモデルでR744が使用されています。R744は、定義上だとGWPが1であり、低温状態でも効率が高く、比較的安価で毒性も可燃性もありませんが、使用時により高い圧力が必要となるため、システム設計と安全性の確立がより難しくなります。VWでは、乗員の安全のために車室内に CO2センサーも搭載しています。もう一つの欠点は、気候が暑くなると効率も低下することです。課題はあるものの、R744は商用展開されてきたR1234yfの代替品の1つであり、2024年初めにVWが、2030年までに自社のすべてのBEV(バッテリー式電気自動車)をR744に切り替えるという計画を発表しています。
 
もう1つの代替候補がR290(プロパン)であり、GWPも3未満でオゾン層破壊の恐れもありません。R290はR744よりも高負荷時の冷却能力に優れており、比較的低コストです。また、より低い圧力で使用できるため、システム設計もある程度簡素化されます。欠点としては低温状態における暖房の課題が増えることなども挙げられますが、主な障害は安全性に関するものです。プロパンは引火性が高く、特定の地域では可燃性冷媒の使用が制限されています。ハノンシステムズをはじめとするサプライヤー各社がR290の空調システムを発表しています。2023年にはZFが、R290を使用したEVのコンセプトカーを、2026年の展開に向けた計画とともに公表しました。
 
これら2つの選択肢に加え、R744とR290を混合することでそれぞれの欠点の一部を克服する研究も行われています。
 
見通し
 
R1234yfに関してはまだ規制が定められていないものの、将来的に禁止措置が実施されると見て間違いないでしょう。IDTechExでは、R744とR290の2つを最も現実的な代替品と考えていますが、R744の方が商用化の段階が進んでおり、安全上の懸念も少ないことから、少なくとも最初のうちはR744が好まれることになると見ています。しかし、高温気候や熱的要求水準の高い急速充電のニーズに対応するには、高温性能の向上を実現するイノベーションが必要になるかもしれません。
 
IDTechExの最新調査レポート「電気自動車の熱管理 2025-2035年:材料、市場、技術」では、EV用冷媒に関する詳細な考察と予測を行っています。また、「PFAS(ペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物) 2024年:新たな用途、代替品、規制」では、PFAS化合物とその代替物質について深く掘り下げています。
 
IDTechExでは、広い分野での 熱管理 の調査を行っています。ぜひ、IDTechExの熱管理ポートフォリオをご確認ください。
 
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