QLC vs HDD: 大容量ストレージをめぐる戦い
2025年4月23日
企業にとって、データストレージは単なる技術的課題ではなく、財務的課題でもあります。IDTechExの調査レポート「最先端メモリ・ストレージ技術 2025-2035年:市場、トレンド、予測」では、進化するストレージ環境と、コスト・効率・スケーラビリティに与える影響について詳細に分析しています。2022年にシーゲートが行った調査では、IT関連予算のうち最大3分の1をストレージに費やしている組織・団体があり、そのうちの90%がストレージコストの増加を懸念していることが分かりました。各企業は、インフレ、エネルギー価格の高騰、計算負荷の高いワークロードの増加に伴い、クラウドコストの増加にも拍車がかかっていることを受け、ストレージに対するアプローチを見直し始めています。
これまで、大規模なストレージには主に大量のコールドデータやアーカイブデータを低コストで保存できるHDDが使われてきました。しかし、エネルギー価格の高騰やさらなる高性能ストレージに対する需要の高まりを受け、HDDに代わるストレージとして、特に大量データの読み取りワークロードにおいて、QLC(クアッドレベルセル)SSDの導入が本格的に検討されています。エネルギー効率に優れ、ストレージ密度が高く、運用が簡単なQLC SSDは、総保有コスト(TCO)面でHDDの地位を徐々に脅かしつつあります。
本記事では、IDTechExの徹底的な市場分析から得た洞察をもとに、HDDの役割の変化やQLC SSD技術の急速な進歩について解説します。また、コールドストレージなどの分野でQLC SSDがHDDに挑戦する準備が整っているかどうかについても言及しています。
HDD:従来型ストレージの中心的役割
HDDは一般消費者向けノートPCからエンタープライズデータセンターに至るまで、数十年にもわたりデジタルストレージの中心的役割を果たしてきました。ところが今やその状況は一変しています。SSD(ソリッドステートドライブ)の高速化、大容量化、さらには低価格化が進むにつれて、HDDがハイパフォーマンス市場やコンシューマー市場から徐々にその姿を消していき、2025年初頭現在では、高速かつ小型で高い耐久性を備えたSDDが多くのエッジデバイスや家電製品の標準ストレージとなっています。
この変化は市場構造や数字データに現れています。かつては十数社を超えていたHDDメーカーの数は、この数十年の間に吸収合併や廃業が進み、今や主要HDDメーカーであるシーゲート、ウェスタンデジタル、東芝の3社を残すのみとなっています。HDDメーカー間の競争が下火になり、コンシューマー市場におけるイノベーションが減速すると、ベンダー各社はデータセンターやエンタープライズ市場向け大容量デバイスに注力するようになりました。

HDDプレーヤーの市場シェア。詳細はIDTechExの調査レポート「最先端メモリ・ストレージ技術 2025-2035年:市場、トレンド、予測」に掲載。出典 : IDTechEx
このような戦略の変化は、数字によって裏付けられています。2024年のHDD市場の売上高は151億米ドルで、そのうちシーゲートとウェスタンデジタルがそれぞれ約40%を占め、残りを東芝が占めていました。しかし現在では、HDD市場の売上高はその大半を大容量ドライブが占めています。なかでもその大部分を占めているのは、主にデータセンターやエンタープライズ向けストレージシステムで利用されているニアラインHDDです。シーゲートの発表によれば、2024年の同社売上高の72%を大容量HDDが占め、前年比65%の増加となったということです。大容量HDDは総出荷容量(エクサバイト)の89%を占めており、そのうち78%をニアラインHDDが占めています。その一方で、HDD業界における出荷台数の減少傾向と平均販売価格(ASP)の上昇傾向が見られます。これはプロダクトミックスにおいて高価格の大容量ドライブのシェアが増加していることを反映しています。現在、ニアラインHDDはHDD全体の総売上の約60%を占めていますが、SSDの導入が進んでいるという現実に直面しているHDDにとっては大容量ドライブが最後の拠り所となり、そのシェアは2035年までに95%を超えるとIDTechExは予想しています。

シーゲート、ウェスタンデジタルの出荷台数とASP。詳細はIDTechExの調査レポート「最先端メモリ・ストレージ技術 2025-2035年:市場、トレンド、予測」に掲載。出典 : IDTechEx
ストレージ需要の増加に対応するため、HDDの技術革新は、特に大規模でコスト重視の導入向けに、容量と性能の両方を向上させることにますます重点を置くようになっています。最新型HDDの容量は、すでに従来の限界値を超えて30TB超の領域に達しています。ウェスタンデジタルは2024年に32TBのUltrastarデータセンターHC690を発売、シーゲートは2025年初めに36TBのMozaik 3+の発売を発表しました。データセンターの運用コスト低減と環境負荷軽減に対する圧力がますます高まっている中で、これらのマイルストーンは、ストレージの重要な特性の向上、すなわち小型化や高効率化、高密度化を図るための広範な動きの一環であると言えます。この容量面での大きな進化は、熱アシスト磁気記録(HAMR)やマイクロ波アシスト磁気記録(MAMR)といった、高度なエネルギーアシスト磁気記録(EAMR)技術によって実現しています。これらの次世代技術によって、従来の垂直磁気記録(PMR)が持つ物理的な限界が克服され、より面密度の向上が図れるようになったのです。この技術は単に容量の増大だけでなく、パフォーマンスやスケーラビリティの向上も可能にするため、ますます増大傾向にあるワークロードにも従来よりも少ない台数でより効率的にストレージを提供できます。将来に目を向けると、2026年から2027年にはHDDの容量が50TBを超えると予想されています。しかし、進化を続けるSSD技術、特にQLCのNAND技術が、パフォーマンスの面だけでなく容量やコスト効率の面においてもHDDの地位を脅かし始めており、大規模なコールドストレージ環境でもフラッシュベースのストレージがHDDの領域に食い込むかどうかについて議論が沸き起こっています。
QLC SSD:コールドストレージのライバルとなるか
コールドストレージ市場ではHDDが現在も優勢を保っているものの、QLCのNAND型SSDが強力なライバルとして登場しつつあります。インテルとマイクロンが2018年に初めて発表したQLC SSDは、1つのセルに4ビットのデータを格納し、TLCやMLCといった初期のNAND型ストレージと比べてはるかに高い密度でデータを保存することができます。このようなアーキテクチャ上のシフトによって、大規模ストレージ環境にとって重要な要素である1ギガバイト当たりのコストを抑えた大容量ストレージの実現が可能となります。QLCの決定的なメリットのひとつとして、極めて大きな容量にスケーリングできることが挙げられます。QLCは、最初の発売以来、その容量が加速度的に増加しており、2023年にはソリダイムとサムスンによって61TBモデルがリリースされました。2024年後半にソリダイムが120TB超のQLC SSDを発表し、2025年にはサムスンとウェスタンデジタルがそれに続くと予想されています。言い換えると、これは最大容量のエンタープライズ向けHDDの3倍を超える容量に相当するということです。
このような容量面での大進化に呼応して、パフォーマンスや効率、スケーラビリティも大幅に向上しています。ソリダイムの122TB QLC SSDは、7GB/sを超えるシーケンシャルリード速度を実現し(HDDはわずか300MB/s)、20~100マイクロ秒のレイテンシーを実現しています(エンタープライズ向けHDDは約4ミリ秒)。これらのパフォーマンス向上によって、AI、分析、リアルタイムワークロードの処理速度が向上し、HDDに代わるモダンアプリケーション向けストレージとしてQLC SSDの魅力が一層高まっています。また、電力効率も重要な競争の場となっています。ソリダイムのSignal65レポートでは、QLC SSDはHDDよりも電力効率が79.5%高く、フットプリントが同じデータセンター内のAIインフラ収容能力が26.3%高まるとの調査結果が提供されています。ソリダイムの122TB QLC SSD(D5-P5336)とウェスタンデジタルの32TB Ultrastar DC HC690 HDDを比べると、この変化がより鮮明に浮かび上がります。ソリダイムのドライブの電力効率は4.88TB/Wで、Ultrastarの3.4TB/Wよりも43%上回っています。これは、QLC SSDの消費電力1W当たりのデータ保存容量がHDDと比べてはるかに大きいことを意味しており、増加を続けるエネルギーコストと電力の制約に直面しているデータセンターにとって極めて大きなメリットとなります。また、容量密度が高いことも大きな利点です。ソリダイムのQLC SSDの容量密度は17.4 GB/mm²に達しており、Ultrastar HDDの2.14 GB/mm²と比べて8倍の容量密度を実現しています。このような高密度化によって高度なストレージ統合が可能となり、ハイパースケールデータセンターの主要な優先課題であるラックスペースやインフラコストの削減が図れます。加えて、ソリダイムのQLC SSDは同等のHDDと比べて最大6分の1にまで省スペース化が可能で、スペースに制約がある場合でもスケーラビリティをさらに高めることができます。
QLC SSDは、容量と効率の面だけでなく、読み取り用に最適化されているという面でもその勢力を伸ばしており、AI推論ワークロードやアーカイブストレージ、バックアップ、大規模オブジェクトストレージに最適のデバイスとして注目を集めています。フラッシュのコスト低下に伴い、1テラバイト当たりのコストのギャップはQLCとHDDの間で埋まりつつあり、総デプロイコストの点でほぼ対等になってきています。特にパフォーマンス、密度、運用効率を考慮すると、その差はほとんどないと言ってよいでしょう。容量と効率がますます向上し、1テラバイト当たりのコスト、容量密度、容量対電力比の面でHDDより優れているQLC SSDは、HDDに代わるストレージとして次第に優勢になりつつあり、これまでHDDが優勢であったストレージアプリケーションの領域でさえも、HDDの地位を脅かしつつあります
詳しくはIDTechExの調査レポートで
IDTechExの調査レポートは、全体像理解のため、変化するメモリとストレージの状況について包括的な評価を提供しています。
調査レポートは以下の情報を提供します:
- 60種類以上のエンタープライズ向けQLC SSDとHDDの徹底比較。容量、シーケンシャル帯域幅、電力効率、密度といった重要性能指標についてのベンチマーク評価
- データセンター・ストレージ、AI/HPCワークロードなど、新たなトレンドを徹底解説
- HDD、SSD、DRAM、NAND、主要応用分野の10年間予測
- MRAM、ReRAM、FeRAM、PCMなどの最先端メモリ技術の専門的分析
本調査レポートは、ストレージベンダー、ハイパースケーラー、エンタープライズアーキテクト、戦略的意思決定者の方々に、メモリとストレージの将来を見極めるための重要な洞察を提供します。業界がどこに向かっているのか、そしてそれがテクノロジーやビジネスにとって何を意味するのか本調査レポートでご確認ください。
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