イオン交換膜の需要を牽引する水素とエネルギー貯蔵
2025年6月6日
グリーンエネルギー生成・貯蔵技術は、今後10年間で大きな成長が見込まれており、その過程で材料の機会も大きく変わろうとしています。先進グリーンエネルギー技術において固体電解質として使用されるイオン交換膜は、材料要件の変化から恩恵を受ける特殊ポリマーです。
IDTechExの市場調査レポート「イオン交換膜 2025-2035年:技術、市場、予測」でも論じているように、イオン交換膜は水素燃料電池、水電解装置、レドックスフロー電池技術において、将来の主要材料・重要な部材として注目されています。
水処理産業や化学産業でイオンの選択透過に広く用いられている膜は、水素用途やエネルギー貯蔵用途にも応用可能です。IDTechExの最新調査では、グリーン水素用途やエネルギー貯蔵用途が2035年までに世界のイオン交換膜の年間収益の48%を占めるまでに成長すると予測しています。
イオン交換膜材料のイノベーションによって、組み込み製品の主な性能目標が達成されていることから、今後10年で脱炭素エネルギー市場や脱炭素輸送市場での採用が拡大することになりそうです。

イオン交換膜市場の用途別年間売上高。出典: IDTechEx
輸送用途が牽引する水素燃料電池でのイオン交換膜の成長
水素燃料電池はイオン交換膜にとって重要な成長市場であり、2035年までに年間収益が3億8,000万ドルを超えると予測されています。燃料電池では、プロトン交換膜を用いて水素と酸素の電気化学反応を発生させることで、電気を生み出し電力を供給します。プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)は、輸送やモビリティだけでなく、商業、公益事業、通信の各用途における定置型エネルギー貯蔵にも利用されています。
パーフルオロ系イオン交換膜はPEMFCで使用されている主流の技術であり、高い性能と強固な耐久性を両立させています。PFSA(ペルフルオロスルホン酸)膜は化学分解に強く、寸法安定性も高いため、燃料電池の動作性能の向上や長寿命化が可能になります。重要な設計トレンドとしては、燃料電池スタックを小型化することで全体的な出力密度を高めるという超薄型強化膜の開発への重点的な取り組みがあります。
2025年現在、プロトン交換膜燃料電池の需要は自動車用途が定置型エネルギー貯蔵をはるかに上回っています。航続距離を伸ばすことや大型車に関しては、燃料電池自動車(FCEV)の方がバッテリー式電気自動車よりも現実的な選択肢と考えられています。有利な規制環境であることから、FCEVの普及は日本、韓国、中国が最も進んでいますが、その一方で、水素燃料電池市場全体の収益のうち、定置型燃料電池用途が占める割合はごくわずかです。その原因としては、PEMFCがその他の定置型電源技術(レドックスフロー電池など)と比べて高コストであることや、高純度水素燃料の入手が難しいことがあります。
グリーン水素需要の増加に応える水電解装置技術
規制、経済、技術的な要因により世界的にグリーン水素製造の需要が高まっており、水電解装置はイオン交換膜にとって重要な成長機会となっています。75か国以上が国家水素戦略を策定しており、水素製造に対する市場需要を生み出しています。この需要が、民間セクターによる大規模な投資を促しており、その多くは官民連携を通じて行われています。市場の動きが活発化する中、水電解装置技術は急速な進歩し、効率の向上や水素製造コストの改善も進んでいます。
水電解装置用途におけるイオン交換膜の面積需要は2035年までに22倍に増加するとされていますが、PFSA膜や炭化水素系膜が水電解装置スタックに不可欠な部材であることに変わりはありません。PFSA膜はPEM型水電解装置(PEMEL)において業界標準として選ばれている材料で、高いプロトン透過性、耐久性、化学的安定性、温度安定性を備えています。PFSA膜のもう1つの利点は、PEMELにもPEMFCにも応用できるため、燃料電池の製造規模を拡大することによって相乗的に材料コストの引き下げも実現するという点です。PFSA膜のほとんどは、ケマーズ、AGC、ゴア、旭化成などの大手素材メーカーが供給していますが、強化膜の設計を発展させれば、新興企業にも市場に革新をもたらす機会が生まれます。

材料・技術別 水電解装置用途でのイオン交換膜の需要予測。出典:IDTechEx
AEM型水電解装置(AEMEL)はまだ比較的新しい技術ですが、炭化水素系イオン交換膜にとっては重要な成長市場となっており、アルカリ水電解装置の経済的利点や一般的な構成材料にPEMELの優れた性能を組み合わせたものになるとされています。水酸化物イオンの透過やガス分離に使用される炭化水素系AEM(アニオン交換膜)は、面積当たりのコストが低く、スタック全体のコストを最小限に抑えられます。また、PFSA膜が直面する可能性がある PFAS規制を回避できるという重要な利点があります。
炭化水素系AEMの開発はスタートアップ企業を中心に進められており、こうした企業は、低い材料コストとPFSA膜に匹敵する性能特性を活用してグリーン水素製造市場への参入を模索しています。しかし、現在の課題と活発なイノベーション領域が、アルカリ性条件下での炭化水素系膜の安定性の向上や量産による費用対効果の実現であることに変わりはありません。
レドックスフロー電池市場における膜の需要は2030年までに急増
イオン交換膜は、電気エネルギーの生成や貯蔵を目的とするレドックスフロー電池(RFB)で使用される主要材料です。イオン透過性と化学的安定性が優れているカチオン交換膜は、先進のRFB技術に広く採用されています。特殊なイオン交換膜はRFBにおいても価値の高い材料であり、スタック全体のコストの30~50%を占めています。
バナジウムレドックスフロー電池(VRFB)は商業的に最も成熟した技術であり、2030年には設置数が急増していることから、カチオン交換膜の需要を喚起することになります。イオン透過性と化学的安定性が優れていることから、VRFBでは、一般的にPFSA膜が固体電解質として採用されています。2035年にはレドックスフロー電池用途が世界のイオン交換膜の面積需要の13%を占め、その大部分がバナジウムRFBになるとIDTechExは予測しています。
イオン交換膜市場の展望
イオン交換膜市場は転換点を迎えており、グリーン水素用途やエネルギー貯蔵用途をきっかけに次なる成長期が到来しようとしています。 IDTechExの予測では、2035年までにイオン交換膜の需要が面積換算で530万平方メートルを超え、水素燃料電池、水電解装置、レドックスフロー電池が主な成長市場になる見通しです。
イオン交換膜が今後の水電解装置や燃料電池システムに不可欠な部材になる見込みであることから、材料サプライヤー各社は需要増加に対応する準備を進めています。PEMFC、PEMEL、AEMELの各用途から見込まれる需要に対応しようと、市場リーダーは膜の製造規模拡大に数億ドル規模の投資を行っています。商業活動はスタートアップ企業や新興企業にまで広がっており、既存の材料サプライヤーや気候テックファンドとの提携を通じて開発への支援が拡大しています。
IDTechExの調査レポート「イオン交換膜 2025-2035年:技術、市場、予測」では、イオン交換膜市場の最新トレンド、主要プレイヤー、地域別の市場動向、今後10年間の詳細な市場予測を包括的に分析しています。サンプルページのダウンロードを含む、本レポートの詳細についてはこちらでご確認ください。
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