グリーン水素プロジェクトでの水電解装置メーカーの主なビジネスモデル
2024年5月17日
グリーン水素製造では、主にアルカリ水電解(AWE)、プロトン交換膜(PEM)、アニオン交換膜(AEM)、固体酸化物形電解セル(SOEC)の4種類の水電解技術が利用されています。各技術は動作原理や性能特性がそれぞれ異なり、商業的成熟度もさまざまです。いずれのシステムでも変圧器、整流器、浄化システムなどのBOP(バランスオブプラント)コンポーネントを組み込み、適度な圧力と純度の水素を製造します。
水電解装置メーカー各社は、自社システムの商業プロジェクトへの採用を促進するため、さまざまなビジネス戦略を取り入れています。本記事は、IDTechEの調査レポート『グリーン水素製造と電気分解装置市場 2024-2034年:技術、有力企業、予測』の調査内容の一部から、主なビジネスモデルを業界の事例とともに紹介します。

Overview of business models for electrolyzer companies. Source: IDTechEx
水電解装置スタックのライセンス供与とシステムインテグレーションパートナーの利用
新興メーカーでは、水電解装置スタックの設計、改良、製造といった自社の中核となる強みに注力するため、自社技術のライセンス供与という方法を選択する例が多く見られます。この戦略をとることで、海外拠点開設やBOP試運転プロジェクトへの統合に多額の資金を投入することなく、事業拡大を進めることが可能です。ライセンス供与は技術の展開や利益の創出を促進できる一方で、サードパーティとの融合によって知的財産権(IP)の不適切な管理や品質のばらつきなどのリスクを伴います。
スタック技術のライセンス供与している有力企業は、セレスパワー(SOEC)、Hoeller Electrolyzer(PEMEL)、PERIC(AWE)、エナプター(AEMEL)などが挙げられます。その中で、このビジネスモデル導入の典型的な成功事例が比較的新しい企業であるエナプターです。同社は、販売パートナーとシステムインテグレーターからなるネットワークを構築することで、欧州以外の市場にまで急速に進出しており、地理的拡大と市場拡大を急速に推し進める上でライセンス供与が有効であることを示しています。
ターンキーソリューションプロバイダー(スタック + BOP)
このモデルでは、水電解装置スタックと必要なすべてのBOPコンポーネントの双方をメーカーが供給し、多くの場合、システムはコンテナに積み込まれた状態またはスキッド梱包の状態で納入されます。こうすることでシステム全体の取扱窓口を一本化し、調達と設置プロセスの簡素化を求める顧客へのアピールポイントとなります。この手法は、プロジェクト当たりの収益の大幅増加や、顧客との関係強化にもつながる一方で、設計・組立・保守の各領域に対して多額の投資が必要であり、プロジェクト遂行の失敗やBOP関連のサプライチェーンの混乱によるリスクを伴います。
この手法は、ネル、プラグパワー、ティッセンクルップ・ニューセラ、ITMパワーといった定評のあるプレーヤーを含むさまざまな水電解装置メーカーが、利益創出戦略の1つとして採用しています。水電解装置はいずれの種類でもターンキーシステムへの組み入れが可能ですが、その中でもPEM型水電解装置メーカーがこの手法をより多く採用しています。これはPEMシステムが電力変動への適応性が高いため、再生可能エネルギーの貯蔵や、水素ステーションのような比較的小型でモジュール化の進んだ用途に有利だからです。一方AWEメーカーでは、特定顧客のニーズや比較的大規模な用途に対応するカスタマイズ性の高いシステムを提供することが多くなっています。
特定プロジェクト向けカスタマイズ仕様のシステム
メーカー各社では、特定プロジェクト要件に合わせて設計したカスタマイズ仕様の水電解装置スタックとBOPを提供し、システム全体の効率とパフォーマンスの最適化を図っています。このカスタマイズ仕様の手法は、大規模な産業用途向けのシステムや既存インフラとの融合を前提としたシステムへの顧客ニーズに対応するものです。ただし、システムのカスタマイズには幅広い工学的専門知識を必要とする上に、プロジェクト開発の複雑さにも対処しなければならず、タイムラインが長期化する可能性があります。
ターンキーソリューションを提供する同様のメーカーの多くは、カスタマイズ仕様のシステムも提供しています。これらの企業は、納期短縮が可能な標準化されたターンキーソリューションから、特定用途のパフォーマンスを最適化するカスタマイズ性の高いシステムまで、幅広い市場ニーズに対応することの双対的な利点を認識しています。その双方のニーズを提供することでさらに幅広い顧客の要望に対応し、サービス提供での柔軟性と適応性を確保できるのです。
プロジェクト開発におけるコンソーシアム方式
水電解装置メーカーは、多くのプロジェクト開発コンソーシアムに参加しています。そこでは複数の組織(場合によっては競合企業同士を含む)が協力し、大規模プロジェクトのリスクと利益を分かち合います。この戦略により、専門知識と財源を分かち合うことが可能になり、一社当たりの負担も軽減され、単独では実現が困難な規模のプロジェクトが可能になることもあります。この戦略が特に適しているのは、コンセプトの実証を目的とする、複数のエンドユーザーを抱える大型の複雑なプロジェクトです。ただし、各社の社内プロセスの違いにより意思決定に時間を要することや、異なる技術的アプローチを連携させるのが複雑になるなどのデメリットが存在します。
水電解装置メーカーによる社内プロジェクト開発
独力でプロジェクトを請け負うメーカーはプロジェクトのあらゆる面に対して全責任を負います。その中には、技術開発と製造だけでなく、EPC事業者との契約、長期オフテイカーの確保、プロジェクトの資金調達、試運転と運用の監督も含まれます。このモデルではバリューチェーンを最大限にコントロールできるため、利益率の向上やエンドユーザーとの直接的な関係の強化を図れます。資金面での堅固な後ろ盾と複数分野にまたがる広範な専門知識を有する大企業に特に適したモデルです。しかし一方では、高額資金と各種プロジェクト要素の管理が必要となること、さらには運用リスクと市場リスクを全面的に引き受けなければならないことなどの大きな課題が立ちはだかります。
このような自社プロジェクト方式をとる水素装置専業企業の代表がプラグパワーです。同社では、液化水素の製造から顧客への納入まで、すべてのプロジェクト要素を管理すべく、全米の複数箇所で液化水素の製造拠点を開設しています。先駆的な取り組みとはいえ、プロジェクトに伴うリスクの大半を自社で負っているため、プラグパワーは財務上の課題に直面しています。同社の2023~2024年の財務報告書によれば、試運転待ちのPEM型水電解装置が数台あることと、新税制の施行がまだ先であることから、減収の中で四半期の損失が大きく拡大しています。このことは、このビジネスモデルが、特に生産規模の拡大や初期費用の調達において大きな財務負担を強いられるリスクをはらんでいることを裏付けているにも関わらず、プラグパワーの予想では2024年下半期には業績が回復する見込みだということです。
各技術の状況とさらなる洞察
小規模用途での導入が一般的なAEM型水電解装置は、PEM技術やAWE技術ほど成熟度が高くはありませんが、中規模の設備容量に向けた開発が進められています。その動作信頼性が認められているPEM型水電解装置は、一般的に小規模から中規模の用途に導入されており、現行プロジェクトの設備容量は50MW未満です。PEM技術については、成熟度は高いものの、100MWを超える大型プロジェクトはまだ開発段階にあります。最も技術成熟度の高いアルカリ水電解(AWE)は、小規模プロジェクトから100MWを超える大規模プロジェクト(最新のGW規模プロジェクトを含む)にまで広く採用されています。高温で動作する固体酸化物形電解セル(SOEC)は、必要な熱や蒸気を提供できる産業プロセスとの融合に最適なため、効率の高い運用が容易で、CO2と H2Oの共電解による合成燃料製造などの革新的用途への導入が可能になります。
IDTechExの調査レポート『グリーン水素製造と電気分解装置市場 2024-2034年:技術、有力企業、予測』では、水電解装置企業の取り組みについてさらなる詳細を解説し、その商業化の事例を紹介しています。また、主要水電解装置技術の今後10年間の市場予測を水電解装置の設備容量(単位:GW)と金額(単位:10億ドル)別に立てており、新しい電解技術(例:海水とCO2の電解など)の解説、開発状況別やシステム仕様別に見る水電解装置メーカーの包括的な分析、技術・地域別の製造能力の分析、グリーン水素プロジェクトの事例紹介の他、水電解装置技術の今後の拡大の見通しも掲載しています。
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