新標準で中国がEV市場の拡大と安全基準をリード

Dr James Edmondson
Evolving EV thermal runaway regulations for China, Europe & US
2021年初頭に施行された中国国家標準GB38031-2020では、グローバル規模の産業を対象としたEVの熱暴走に関する安全基準が定められています。これは、乗員が車から脱出する時間を確保するため、発火5分前に警告を発することを義務付けた最初の規格でした。さらに2025年4月には、2026年7月に施行予定のGB38031-2025を新車に対して義務付けることが発表されており、初期事象から2時間以内は発火も爆発も生じないことが求められるなど、この2025年版標準では旧標準よりも大幅に厳しい基準が設けられています。
 
IDTechExの調査によると、中国では2024年の新車販売台数の49%をEVが占めており、EVの販売と安全基準において世界をリードしています。
 
規制は変化し続けており、中国が最も早く厳しい目標を設定している。出典: IDTechEx
 
中国の新たな要件
 
2025年版の中国国家標準38031には重要な変更点がいくつかあります。最も驚くべきは、単体電池セルで熱暴走開始後2時間は発火も爆発もしないことが求められている点です。車両乗員に対する警告が求められているのは変わらず、加えて熱暴走発生から5分間は目に見える煙が車室内に侵入しないことが要求されています。
 
この規格では、外部加熱や釘刺しのほか、新たに内部加熱による熱暴走の誘発も試験項目として挙げられています。これらの試験項目の1つで熱暴走が発生しない場合でも、他の項目も試験を行う必要があります。
 
中国のEV市場ではLFP電池がますます優勢になってきており、エネルギー密度の高いNMC電池を使用する場合よりもこの課題に対応しやすくなっています。そうは言っても、本質的に100%安全なエネルギー貯蔵システムは存在しないため、決して容易なことではありません。
 
明確なのは、EV内部の熱暴走に関し、依然として起草、修正、改訂の段階にあって義務的な規格が施行されていない他の地域と比べ、中国の基準ははるかに先を行っているという点です。
 
ヨーロッパでは何が起きているのか?
 
ヨーロッパでは、UN ECE R100規則とその変更点に目が向けられています。R100-05版では、2027年9月に新型車を対象に、2029年9月までにすべての新型車を対象に規格への適合が義務付けられることになっていますが、中国の2026年の施行と比べると大きな後れを取っています。また、要求事項も中国の2020年版に近く、熱暴走発生後乗員に対して5分間の警告を発し、その間は乗員にとって危険な事態(火災、煙、爆発)が発生してはならないというものです。
 
最新の改訂では、最終的な安全性の結果よりも、試験方法の具体性を高めることを目指しています。
 
アメリカは後れをとっているのか?
 
アメリカでは、UN ECE規則にも目を向けている一方で、NHTSAが安全性を義務付ける主な機関です。FMVSS 305aの最新版はUN ECE規則に大きく沿った内容ですが、安全性についてはUN ECEほど厳格な基準が設けられてはおらず、セル単体の熱暴走を検出する必要がなく、単にセルパック内の温度に関する基準となっています。
 
GTR20では、セル単体が熱暴走状態に陥ってから乗員への危険が生じるまでに5分間の警告を設けることが要求されていますが、セル単体での検出は過度な設計上の制約につながる上、必ずしも問題とはならないとNHTSAは主張しています。
 
NHTSAでは、セル単体の不具合によって作動する警告の代わりに、バッテリーシステム内の温度が最高動作温度を大きく超えることで作動する警告システムを提唱しています。このバッテリーシステムの試験を実施する際には、バッテリーを開封し、30秒で600℃に達するヒーターをセルに取り付けて1個以上のセルが熱暴走状態に陥るようにし、ヒーター始動後3分以内に警告が発せられるかどうかを見ます。
 
自動車メーカーの対応は?
 
中国国家標準2020年版が発表された際、自動車メーカーの多くは既存バッテリープラットフォームを改造することで新標準に対応しました。今回、自動車メーカー各社は設計プロセスの初期段階から防火性を考慮し、警告時間を5分間よりも長く確保することに取り組んできました。
 
しかし、2時間という中国からの新たな要求事項は全くの想定外でした。隣接するセルへの熱伝播防止は確かに可能であり、材料の選択肢もいくつか存在しますが、バッテリーの種類ごとに性能と価格のトレードオフが存在するという状況に変わりはありません。今後のEV普及に向けてバッテリーコスト削減が最重要事項となっているこの時期に、こうしたことが起きているのです。
 
より安全な自動車を手に入れることは確かに良いことですが、自動車メーカーやバッテリー設計者にとっては大きな課題でもあります。自動車メーカーは、特定の市場向けに改造することより、世界的に使用できる設計を望む傾向があります。
 
IDTechExの調査レポート「EVバッテリー用防火材料 2025-2035年:市場、トレンド、予測」では、EV市場の成長と防火性への関心の高まりにより、EVバッテリー用防火材料市場の年平均成長率は15%になると予測しています。今後も引き続き設計プロセスの初期段階で防火性が考慮されることは間違いありません。新しい要件に対応するにあたり、自動車メーカーを支援する材料サプライヤーが果たす役割は非常に大きく、今後大きな機会が生まれると予測されています。

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