直接リチウム抽出法(DLE):塩水からのリチウム採掘の新たな可能性
2024年8月21日
リチウムは周期表の中で最も軽く、原子番号が最小のアルカリ金属であり、高い電気化学ポテンシャルを持っています。このような特性から、単位重量当たりのエネルギー密度が高く、これに代わる有力な元素が他にはあまりないため、バッテリー材料として注目を浴びています。リチウムはガラスセラミックや潤滑剤、空気処理、医薬品などのさまざまな用途がありますが、最終用途としてはバッテリー分野が圧倒的多数を占めています。その主な要因としては、エネルギー貯蔵と電気自動車においてリチウムイオン電池の需要の増加が挙げられます。リチウムの需要は、リチウムイオン電池だけを見ても、2030年には3倍に、2035年には5倍になる見込みです。この急成長と、バッテリーバリューチェーン全域にわたって持続可能性への意識が高まっていることを踏まえると、リチウム採掘法の進歩は極めて重要です。リチウム供給がいかにして経済的にも環境的にも持続可能な方法で需要の急増を満たせるようになるかは、その進歩のありよう次第です。
IDTechExの新しい調査レポート『直接リチウム抽出法(DLE) 2025-2035年:技術、有力企業、市場、予測』では、リチウム採掘業界を一変させる可能性があり、新しい技術である直接リチウム抽出(DLE)の最近の動向について報告しています。世界のリチウム市場は、2025年から2035年にかけて年平均成長率(CAGR)9.7%で成長すると予測されており、中でも塩水(DLE)はCAGR19.6%で急成長しています。塩水(DLE)セグメントの高い成長率は、塩水採掘市場を混乱させると予想されています。

Lithium demand from lithium-ion batteries in 2023, 2030 and 2035. Source: IDTechEx

Lithium production capacity from lithium mining by source type in 2023 and 2035. Source: IDTechEx
塩水:未開発の状態にあるリチウム資源の可能性
現状では、リチウムは硬岩と塩水という2種類のリチウム資源から採掘されています。塩水資源が世界のリチウム埋蔵量の大部分を占めているものの、リチウムの60%以上は硬岩採掘から生産されています。2023年のリチウム生産量を見ると、約37%が塩水から採掘されたものです。塩水資源の埋蔵量が多いにも関わらず採掘量の割合が低いのは、他のリチウム資源に用いられている抽出技術と関係があります。塩水からリチウムを抽出する従来の方法では、蒸発池を使用しています。この工程は非常に長い時間がかかるもので、通常は12か月から24か月ほどかかり、収率は40~60%程度となっています。塩水からのリチウム採掘は、その所要時間と収率という点において、硬岩採掘にはとても太刀打ちできません。また、この採掘技術を経済的かつ技術的に実現できるのは、適切な塩水資源や好ましい気候条件、インフラとなる蒸発池のための広大な用地などの条件が揃った場所に限られるのです。そのため、従来型の塩水採掘技術は急増するリチウム需要を満たすことにおいて硬岩採掘との競合に苦戦しており、塩水資源は硬岩資源と比較して十分に活用されていない状況にあります。
塩水の可能性を引き出す:直接リチウム抽出法の影響
直接リチウム抽出法(DLE)とは、塩水からリチウムを選択的に抽出する一連の技術を指し、従来型の塩水採掘が抱える多くの制約に対応しつつ、ESG(環境・社会・ガバナンス)上のさらなる利点をもたらすものです。DLEにより、リチウム生産の所要時間が数時間から長くとも数日以内へと短縮され、収率も通常80から95%にまで向上が図られ、蒸発池も不要になります。DLEの導入により、さまざまな立地条件における、地熱塩水や油田塩水も含んだ幅広い塩水資源が利用可能となり、バッテリーのサプライチェーンの現地化にも寄与します。さらには、環境への影響が少ない抽出技術の奨励を目的として、リチウム採掘に関する規制の整備(チリの国家リチウム戦略など)も進んでいます。これらの要因が合わさり、特にリチウム需要が急増しているこの時代においては、DLEは魅力的な投資機会となっています。
しかしながら、その利点や塩水採掘に変革をもたらす可能性にもかかわらず、2023年ではリチウム生産量に占めるDLEの割合は10%にも及びませんでした。DLEは導入を拡大する上でいくつかの課題に直面しています。第一に、蒸発池を使用しないDLE技術の実績はまだほとんどなく、地熱塩水や油田塩水といった非従来型の塩水資源での実績もまだありません。ここ5年のDLEプロジェクトでの広範な活動にもかかわらず、生産能力の伸び率は発表されている目標値を下回っています。このような隔たりから、DLEに伴う不確実性とリスクが見て取れます。
塩水の成分と処理条件が多岐にわたることによってさまざまなDLE技術の開発が後押しされてきましたが、どの技術にも一長一短があります。塩水資源にはそれぞれ独自の性質があることを考えると、あらゆる場合に最適な唯一無二のDLEソリューションはありません。このようにバラつきがあることから、特に有望な投資機会を特定するための包括的な試験が不可欠です。吸着法、イオン交換法、溶媒抽出法、膜技術など、さまざまなタイプのDLE技術が開発されています。吸着法によるDLEは商用化実績のある唯一の技術です。中国とアルゼンチンでそれぞれDLE事業を展開しているサンレジンやアルカディウム・リチウムなど、すでに定評のあるプレーヤーのほか、インターナショナル・バッテリー・メタルズも2024年7月にユタ州で商業運転を開始しており、また、エラメットは最近になってその技術を試運転段階へと進めています。吸着法によるDLEでは、アルミニウムベースの吸着剤を使用してリチウムと水を回収し、リチウム塩(通常は塩化リチウム)を放出します。リチウム塩を放出する工程のことを脱離または溶離といい、回収したリチウムを含む溶液は溶離液と呼ばれます。
イオン交換法によるDLEは2番目に開発が進んでいる技術であり、ライラック・ソリューションズなどの企業が参入しています。このタイプの技術では、一般的にマンガン系やチタン系の吸着剤を使用してリチウムを回収し、酸で吸着剤を洗い流すことでリチウム塩を放出します。イオン交換法によるDLEでは、よりリチウム濃度の高い溶離液の生成が可能ですが、酸の使用が問題となる可能性があります。その理由として、拠点内で酸を生産していない場合は拠点まで酸を輸送してこなければならず、さらに酸性溶液中ではイオン交換材料の劣化や溶解が早まる可能性があるため、その長期的な性能の監視が必要になることが挙げられます。今まで、イオン交換法によるDLEの信頼性は限定的ですが、この技術が商業規模での実証に成功すれば、その信頼性は高まる可能性があります。
他のタイプのDLEについては、前述のタイプに比べて開発が遅れています。溶媒抽出法によるDLE技術や(ハイブリッド)膜を用いたDLE技術はパイロット規模を超えるところまできていますが、進歩にはさらなる研究が必要となります。結局のところ、従来型の塩水蒸発法に対抗するには、DLEの経済的側面と持続可能性(例えば炭素排出量の数値指標など)を改善する必要があるのです。
包括的調査と今後の見通し
IDTechExの新しい調査レポート『直接リチウム抽出法(DLE) 2025-2035年:技術、有力企業、市場、予測』の中で、IDTechExは次の内容を読者に提供します。
- リチウム採掘の歴史と背景
- リチウム資源の自然界での形態、世界分布、リチウム生産見通し
- リチウム産業の市場動向解説
- リチウム採掘の既存技術と先進技術概要
- 直接リチウム抽出法(DLE)と塩水からのリチウム回収技術の総合評価
- 6つのリチウム抽出・回収技術(吸着法、イオン交換法、溶媒抽出法、膜技術、電気化学技術、化学沈殿法)のSWOT分析
- 有力企業と最新DLEプロジェクトの事例紹介(従来型塩水資源、地熱塩水や油田塩水などの非従来型塩水資源)
- リチウム抽出技術トレンドと商業的可能性
- リチウム採掘に関する政策、規制の枠組み、今後の見通し
- 硬岩、従来型塩水採掘、DLEによる塩水採掘の持続可能性とコストの特徴
- 有力企業、パートナーシップ、ベンチャー基金、ビジネスモデル概要
- 供給源別の生産能力で見るリチウム生産の2035年までの見通しと予測(具体的資源と採掘方法も記載)、技術別、国別、塩水種類別に見るDLEの詳細な予測
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