3Dエレクトロニクス: PCBの代わりとなれるか

Dr Matthew Dyson
皆さんは、電子回路といえばプリント基板(PCB)、すなわち、銅線とおびただしい数の部品がはんだ付けされた、独特の緑色をした硬くて四角い板を想像するでしょう。しかし、PCBを使用しなければ(つまり、あの硬く角張った板を製品の中に押し込めなければ)、エレクトロニクス機能を実装できないのでしょうか?
 
新たに登場した3Dエレクトロニクスの手法は、その必要がないことを示唆しています。3Dエレクトロニクスでは、独立した基盤の上でエレクトロニクス機能を実現するのではなく、オブジェクトの内部や表面にエレクトロニクス機能を組み込みます。アンテナや簡単な配線については、かなり以前から、射出成形された樹脂オブジェクトの表面に実装されてきましたが、新たな材料、メタライズ手法、製造手法によって、3Dエレクトロニクスに大きな技術革新が訪れようとしています。この急速に発展する分野について、IDTechExでは新しい調査レポートを発行しました。『3D エレクトロニクス 2020-2030年:技術、見通し、有力企業』 と題したこの調査レポートで、3Dエレクトロニクス分野について、幅広く分析しています。
 
代替アプローチ
 
さまざまな新技術によって、3次元表面に実装される電子回路や、オブジェクトの内部に組み込まれる電子回路がますます増えてきました。エアロゾルや材料の噴射によって配線を表面に実装することが可能となり、インモールドエレクトロニクスや3Dプリンテッドエレクトロニクスによって回路全体をオブジェクト内部に組み込むことが可能となりました。また、その他さまざまな手法によって、製造工程の簡素化、軽量化、新しいフォームファクターの実現といった数多くのメリットがもたらされます。3Dエレクトロニクスによって、硬くて平らなPCBをオブジェクトに組み込み、付随するスイッチ、センサー、電源や外付け部品を配線しなくても、エレクトロニクス機能を追加できるようになりました。
 
IIDTechExの新しい調査レポート『3D エレクトロニクス 2020-2030年:技術、見通し、有力企業』 では、3Dエレクトロニクスへのあらゆるアプローチについて、この分野の主要プレーヤーへのインタビューに基づいた広範な情報を提供しており、さまざまな用途でのコンセプトから商業化までの進捗状況を理解することができます。
 
The status of different 3D electronics technologies for different applications, from concept to commercialization. For more details please see the IDTechEx report, "3D Electronics 2020-2030: Technologies, Forecasts, Players"
表面実装エレクトロニクス
 
3次元オブジェクトの表面に電気的機能を実装する手法として最も確立されているのは、レーザーダイレクトストラクチャリング(LDS)です。この手法では、射出成形された樹脂の添加剤をレーザーで照射し選択的に活性化させます。こうして形成した配線パターンを、無電解めっきでメタライズします。LDSは10年ほど前に普及が大きく進み、毎年何億台ものデバイス(その約75%はアンテナ)の製造に使用されてきました。
 
しかし、パターン形成の速さと高い普及率にもかかわらず、LDSにはいくつか欠点があり、他の表面メタライズ手法を導入する余地が残されています。第一に、LDSは2段階の工程であり、めっき処理をするために部品を別の場所に送らなければならないため、知的財産が流出するリスクがあります。また、量産時の最小分解能は約75µmであるため線密度に限界があり、成形された樹脂にしか使用できません。さらに最も重要な点として、LDSは1つの層しかメタライズできないため、メタライズ層を交差させることができず、複雑な回路の形成が著しく制限されてしまいます。
 
LDSのこうした制限のため、3Dオブジェクトの表面に配線を形成するための別の手法が普及しつつあります。押し出し導電性ペースト(複数の導電性フレークから成る粘性懸濁液)は、一部のアンテナ製造ですでに使用されており、3次元表面に回路全体が積層されたシステムを実現する手法として好んで使用されるようになりました。
 
新たに登場したもう1つのメタライズ手法として、エアロゾル噴射があります。この手法では、比較的粘性が低い物質(通常、導電性インク)が微粒化されます。そして、この微粒化された物質が不活性キャリアガスと混合されて、ノズルから噴射されます。エアロゾル噴射には注目すべき2つのメリットがあります。まず、10µmまでの分解能が実現可能です。さらに、ノズルを表面から数mm離すことができるため、複雑な表面形状を持つ3次元表面へのパターン形成も容易です。一方、複雑な微粒化処理と噴射工程にコストがかかることや、インクを変えるたびに工程を最適化し直さなければならないなどのデメリットもあります。
 
現行のLDS技術で使用されているデジタル積層手法には、同じプリントシステム内に誘電体材料も同時に積層でき、層を交差させてより複雑な回路を実現できるというメリットがあります。さらに、絶縁性接着剤や導電性接着剤も同時に積層できるため、オブジェクトの表面に表面実装部品(SMD)を実装することもできます。
 
IDTechExの最新レポート『3D エレクトロニクス 2020-2030年:技術、見通し、有力企業』 には、さまざまなメタライズ手法の包括的な分析と比較が掲載されています。
 
インモールドエレクトロニクス
 
インモールドエレクトロニクス(IME)は、射出成形された部品にエレクトロニクスを組み込む手法として、商業的にとても魅力的です。硬いPCBが不要となるため、製造工程の簡素化、製品の軽量化、新しいフォームファクターの実現が進みます。さらに、IMEはインモールド加飾や熱成形といった既存の製造技術を使用するため、導入のハードルが低くなっています。IMEの基本原理は、まず熱成形可能な基板の上に回路を印刷し、導電性接着剤を使用してSMDを実装します。そして、この基板を目的の形状に熱成形した後、射出成形樹脂で隙間を埋めます。IMEでは、静電容量式タッチセンサー上の外装表面に装飾フィルムを使用できるため、自動車の内装や白物家電の制御パネルで使用されるヒューマンマシンインターフェイス(HMI)に特に適しています。
 
IMEは製造が簡単で、すでに確立された製造技術との相性も良いため、今後はHMIの分野で主流になると考えられますが、技術的な課題も存在します。中でも、熱成形工程の温度や、射出成形工程の熱と圧力に耐えられる導電性材料と誘電体材料の開発が最大の課題となっています。そのため材料サプライヤーは、亀裂を生じることなく変形できる導電性インクを使用して、IMEをターゲットとした材料ラインナップの開発を進めています。その他の課題として、回路の曲げに対応した電子設計ソフトウェアや、成形工程での信頼性を確保できるSMD実装手法の開発が挙げられます。
 
インモールドエレクトロニクスのアプリケーションと基礎技術は、関連する材料の機会とともに、IDTechEx調査レポート『3D エレクトロニクス 2020-2030年:技術、見通し、有力企業』 で、取り上げています。
 
フル3Dプリンテッドエレクトロニクス
 
最も開発が遅れている技術が、フル3Dプリンテッドエレクトロニクスです。この技術では、誘電体材料(通常、熱可塑性樹脂)と導電性材料がシーケンシャルに積層されます。この技術をSMDと組み合わせることで、複雑な多層構造を持つ回路を3次元樹脂オブジェクト内に組み込むことが可能になります。この技術がもたらす最大の価値提案は、デザインが変わるたびに高価なマスクやモールドを作り直すことなく、デザインに合わせてオブジェクトや埋め込み回路を製造できるようになるということです。
 
フル3Dプリンテッドエレクトロニクスは、このように、広範囲のコンポーネントを短期間で製造する必要があるアプリケーションに適しています。実際に、米国陸軍が前線基地で交換部品を製造するための高耐久3Dプリンターを現在試験していますが、この技術はカスタマイズされた形状や機能が重要になる用途(例えば、補聴器や義肢などの医療機器)でも有望視されています。3Dプリンテッドエレクトロニクスでは同じ装置でさまざまな部品を製造できることや、それに伴って単価と数量が切り離されることから、特定の顧客の要望に応じたエレクトロニクス機能(と、おそらくはカスタム機能)を備えたオブジェクトを製造するオンデマンド製造への移行が可能となるでしょう。
 
フル3Dプリンテッドエレクトロニクスの課題は、各層をシーケンシャルに積層する必要があるため、射出成形で部品を製造する場合と比べて製造速度が相当に遅いということです。複数のノズルを使用すれば印刷工程を高速にできる一方で、この技術はカスタマイズ性が明確なメリットとなる用途を最大のターゲットとしています。また、この技術では埋め込んだエレクトロニクス部品を後で修理することができないため、信頼性をいかに確保するかという問題もあります。ひとつの解決策として、画像分析を使用して各層をチェックし、次の層を積層する前に問題を修正するという方法が考えられます。
 
総合的な分析と市場予測
 
IDTechExの調査レポート『3D エレクトロニクス 2020-2030年:技術、見通し、有力企業』 では、3Dエレクトロニクスの各アプローチについて、さまざまな技術、潜在的な障壁、各種アプリケーション分野への適用の可能性を評価しながら、詳細に分析を行っています。本レポートには、各技術の主要プレーヤーへのインタビューに基づく複数の企業プロファイルが含まれています。また、各技術とアプリケーション分野の10年間の市場予測を、売上高と分野別に作成しています。今後、LDSは次第に下火になっていき、一般消費者向けの電子アンテナについては押し出しペーストが普及するでしょう。また、押し出し成形とエアロゾル噴射の利用が、特に自動車分野において、増加すると考えられます。当社の予測では、今後最も大きく躍進するのはIMEで、自動車の内装や白物家電の制御パネルの製造に広く導入されると思われます。
 
Forecast revenue for various categories of 3D printed electronics (LIFT, aerosol, LDS, two-shot molding and extruded paste are all methods for adding electronics to 3D surfaces).
 
『3D エレクトロニクス 2020-2030年:技術、見通し、有力企業』の目次や内容については、こちら をご覧ください。また、関連する各種調査レポートはこちら で確認できます。
 
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