リチウムイオン電池の改良につながる5つの主なアプローチ

リチウムイオン電池の改良につながる5つの主なアプローチ

リチウムイオン電池の改良につながる5つの主なアプローチ
現在のリチウムイオン電池は、グラファイト負極、液体電解質、NMC系やLFP系などの正極を基に作られていますが、一般的にその性能は限界に達しつつあると考えられています。しかしながら、セル材料からバッテリー設計まで、性能やコストのさらなる改善の可能性があるアプローチは他にもいくつかあります。

グラファイトからシリコンへの移行

エネルギー密度と性能の大幅な向上を約束するシリコン負極は、現在使用されているグラファイト負極に代わる興味深い選択肢となります。シリコン材は5wt%未満という少量で負極に使用されてきましたが、添加剤としてその使用量を超えることは、シリコン材固有の体積膨張の問題やそれによって生じる安定性、サイクル寿命の問題のために困難であることが分かっています。しかしながら、シリコン負極に関する技術はここ10年から15年の間に着実に向上しており、セルは負極に5~100%の範囲でシリコンを使用できるようになりました。
 
この技術には今後も関心が寄せられ続けるようですが、その表れとして、2022年にはネクシオンによる2億ドルの資金調達とSKCへの材料ライセンス供与、アンプリウスの上場決定、Group14 Technologiesによる4億ドルの資金調達ラウンド、ポスコ・ホールディングスによるテラテクノスの買収などの動きが見られます。また、アンプリウスは、衛星用に450Wh/kgの商用セルを提供しました。一方、2021年9月に発表されたフィットネス用ウェアラブルデバイス「Whoop 4.0」は、シラ・ナノテクノロジーのシリコン負極技術を利用しています。これらの動きは、どれもシリコン技術市場の成熟を示すものであり、さまざまな用途で先進シリコン負極材が導入される可能性が高まっています。そのため、グラファイトが2030年代まで主流の負極材であり続けると予想されてはいるものの、IDTechExでは、シリコン負極材の導入が大幅に進むと見ています。
 

新しい正極合成方法

将来のリチウムイオン電池でも、現在市販されている正極材と同じようなものが使用されそうです。LNMOやLFP系のLMFPについては例外と考えることができますが、どちらでもエネルギー密度は向上せずに、高性能と低コストの間でさまざまなトレードオフが生じます。Li-Mnを豊富に含むNMC正極では、エネルギー密度がわずかに向上する可能性がありますが、商業用の開発は限定的であり、開発スピードも遅い状況にあります。正極材の改良は、一般的に少しずつ進んでいくものですが、その代わり、正極技術における最大の変化やイノベーションは、それらの合成方法から生まれる可能性があります。現在の合成技術は、比較的長期間(数日)の高温状態を保つ必要があり、大量の試薬と水も使用するため、製造コストが高くなり、環境への影響も大きくなります。ナノ・ワン・マテリアルズと6Kエナジー(6K Inc傘下)の2社が、正極材の新しい合成方法の商用化を目指しています。
 
ナノ・ワン・マテリアルズでは、溶液ベースの「ワンポット」法を利用することで、コーティングを施した正極材を製造しています。同社は正極メーカーのPuleadと提携しており、2022年初めにはBASFとも開発契約を締結しました。6Kエナジーは、マイクロ波プラズマ反応器を利用して正極材を製造していますが、シリコン負極や固体電解質材料も合成することが可能です。6K Incは、2022年5月に資金調達ラウンドのシリーズDで1億200万ドルを調達しており、リチウム製造業者のアルベマールや同業の正極関連スタートアップ企業であるOur Next Energyとも開発契約を締結しています。ナノ・ワン・マテリアルズと6Kエナジーは、両社とも増産や歩留まりの改善、製造コストの削減だけでなく、環境への影響の低減も実現する、効率性に優れた生産工程を構築すると約束しています。

固体電解質と電解質の新しい配合

電解質技術に関する注目の多くは固体電解質に集まっていますが、新しい添加剤や電解質の新しい配合を使用すれば、液体電解質システムを少しずつ継続的に改善することが可能です。例えば、New Dominion Enterprisesは、安全性と性能の向上に役立つ、ホスファゼンとリン-窒素化合物をベースにした電解質添加剤と溶媒を開発しています。具体的に言うと、同社の電解質添加剤材料は、熱的安定性を向上させ、蒸気圧を下げ、SEI(固体電解質界面)の形成を改善することができるというものです。長期的に、同社は、これまで使用されていた有機溶媒を同社の電解質システムに完全に置き換えることを目指しており、これにより安全性が大幅に向上する可能性があります。
 
とはいえ、多くのEVメーカーが渇望するバッテリーには依然として全固体電池が導入されています。この電池は、現在使用されている可燃性の液体電解質を固体電解質に置き換えることで、安全性を大幅に向上させることが可能です。また、固体電解質であれば、リチウム金属負極も使用できる可能性もあり、エネルギー密度が1000Wh/L以上にまで高まるかもしれません。液体電解質が市場の重要な部分であり続けはするものの、全固体電池市場は、2031年までに80億ドルを超える規模まで成長すると見られています。固体電解質システムの安定性や、サイクル寿命、製造性、さらに安全性にまで課題があるということは、異なる電解質システムの間で競争が続くことを意味しています。
固体電解質技術のさまざまなアプローチ。 Source: IDTechEx - 『全固体電池とポリマー電池 2021-2031年: 技術、見通し、有力企業』

スペース効率の高いバッテリーパック

特に電気自動車の場合、バッテリーパックの設計は性能向上につながるもう1つの主なアプローチとなります。自動車メーカーの多くは、セル・ツー・パック設計のバッテリーを発表しています。この設計はモジュールハウジング関連の材料をなくし、パッキング効率を最適化するものであり、最終的にエネルギー密度が向上し、バッテリーを車両に組み込みやすくなります。BYDは、容積利用率を50%改善することで40%から60%に上げることができると謳っています。一方、バッテリーメーカーのCATLは、同社の最新のセル・ツー・パック設計で容積利用率72%を達成できると発表しています。2022年の初めには、同社のLFPパックが160Wh/kgおよび290Wh/Lを達成できると発表しており、NMC系電池に太刀打ちできるレベルになりつつあります。エネルギー密度を最大化することは、安価なLFPセルの一番の欠点を軽減するのに役立ち、安価で航続距離の長いバッテリーへのアプローチとなります。これらのようなバッテリー設計は、整備がしにくくなるという欠点を伴っており、それにより商用車での使用が制限されるかもしれません。

よりインテリジェントなバッテリーマネジメントシステム

バッテリーマネジメントシステム(BMS)を改良することは、材料開発に伴う課題なしに、バッテリーの性能に関する多くの側面の改良につながるアプローチとなる可能性があります。例えば、クノボは、BMSのソフトウェアと分析によって、安全性、サイクル寿命、充電時間を改善すると同時に、使用可能なバッテリーの容量を増やす方法を売りにしています。同社は、バッテリーの使用データと、セルのインピーダンスの測定を組み合わせることでこれを達成しています。セルのインピーダンスは、リチウムイオンセルの物理モデルに渡され、動作と充電プロトコルを最適化するのに利用されます。同社のBMSソリューションのもう1つのユースケースは、バッテリーの不具合の検知から生まれる可能性があり、最近の電気自動車のリコールを踏まえると極めて価値のあるものとなるかもしれません。
 
EV以外では、改良されたBMSはスマートフォンや電動工具といったその他の最終用途にとって非常に有益なものになるでしょう。OnePlus 10Tが売りにしている19分で1%から100%まで充電する機能については、よりインテリジェントな充電アルゴリズムだけでなく、より効率的な熱管理によっても実現している部分があります。この急速充電機能以外に、One Plusは1600サイクルという、LCOや家電製品のバッテリーが謳っている一般的なレベルを超えるサイクル寿命も売りにしています。電池開発においては、エネルギー密度、サイクル寿命、急速充電、安全性という主な性能特性の間でトレードオフが生じることが多いものの、BMSを改良することで、それらすべてをうまく改善できる可能性があります。
 
結局のところ、バッテリーの性能やコストの改善につながるアプローチは、ここで紹介していないものを含め、さまざまなものが数多く存在します。開発途上のものの中には少しずつしかメリットを得られないものもあるかもしれませんが、それらを組み合わせることで、リチウムイオン電池の性能を着実に伸ばし続けられるようになるでしょう。
 
さらに詳しい内容は、IDTechExの調査レポート『先進的リチウムイオンおよび次世代バッテリー2022-2032年: 技術、有力企業、トレンド、市場』で、ご確認ください。
 
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