エレクトロニクス製造はデジタル時代の仲間入りができるか?
2023年3月29日

エレクトロニクスは「デジタル技術」かと問われれば、ほぼ全員が肯定的に答えるでしょう。しかし、プリント基板(PCB)はデジタル技術を可能にする一方で、その製造工程はまだアナログ的な部分が多いのです。
「デジタルマニュファクチャリング」とは、コンピュータで直接制御する手法で、単に設計プロセスでソフトウェアを使用することではありません。よく知られているのは、CNC(コンピュータ数値制御)加工(回転する切削工具で部品の任意の箇所を切除するサブトラクティブ法)や、3Dプリンティング(金属、プラスチック、さらにはセラミックの任意の箇所を成膜するアディティブ法)が挙げられます。いずれもコンピュータが直接制御するため、製造される部品はすべて異なるデザインになり、製造が進んでからデザインを調整することも可能です。
これに対して、従来のプリント基板製造はアナログなアプローチをとっています。フォトリソグラフィーで使用するマスクに目的のパターンを転写します。その後、パターン形成されたレジストで覆われていない部分(通常はPCB上の銅箔)をエッチング液で除去します。このアプローチは効率的で歩留まりの高い生産が可能ですが、デジタルマニュファクチャリングを導入すれば、さらなる利点が生まれます。
デジタル・エレクトロニクス・マニュファクチャリングはなぜ必要なのか?
デジタルの最大のメリットは、アナログと比較して、セットアップの手間やコストがかからず、一点一点異なるものを作ることができることです。そのため、大量生産される新聞にはオフセット印刷が使われるのに対し、家庭用には1部しか印刷しないインクジェットプリンター(デジタル)が使われています。エレクトロニクスは、デジタルマニュファクチャリングによってラピッドプロトタイピングが可能になり、設計プロセスを加速させることができます。また、マスカスタマイゼーションも容易で、生産コストを大幅に上げることなく、回路ごとに異なる設計を行うことができます。さらに、高解像度のデジタルマニュファクチャリングは、従来のフォトリソグラフィと併用することで、回路が断線してしまっても修復が可能です。
エレクトロニクスのためのデジタルマニュファクチャリング
エレクトロニクスのデジタルマニュファクチャリングへの関心は、ここ数年急速に高まっています。インクジェット印刷は、導電性インクをデジタル技術で成膜する技術で最も一般的な手法ですが、デジタルとアディティブの両方を兼ね備えたさまざまな技術が登場しています。それらの技術はすべてデジタルマニュファクチャリングによって直接制御するもので、処理能力、解像度、材料粘度など、それぞれ大きく異なります。

Multiple digital and additive manufacturing methods for printed electronics span a range of resolutions. 出典: IDTechEx
Print-then-plate は、銀ナノ粒子の導電性インクを薄い層状にインクジェット印刷し、基板の任意の領域にパターン形成します。この「シード層」はその後、無電解めっきで完全に金属化され、銅回路を形成します。この方法はすでに大量生産に導入されており、デジタルマニュファクチャリングのカスタマイズ性、積層造形の廃棄物削減、銅金属(印刷された導電性インクではなく)の導電性を兼ね備えています。
レーザー誘起前方転写法 (LIFT) は、レーザー直接構造化(LDS)とインクジェット印刷の組合わせともいえる手法です。簡単にいえば、「転写板」の下に塗布された導電性インクにレーザーで加熱し、溶媒を蒸発させてインクを吐出させて転写するというものです。この手法の最大の利点はノズルが不要になることで、そのおかげで、スクリーン印刷 で一般的に使われる粘性インクの使用が可能になります。LIFTにはロール・ツー・ロール技術(R2R )と併用できる可能性があり、実現すれば、カスタマイズした回路を迅速かつコスト効率よく生産することができるようになります。
エアロゾル印刷は、3D表面への印刷に適した比較的確立された技術です。低粘度インクを霧状にし、シース流ガスでミストを含むガス流を細く集束させて噴射し、基板とノズルの距離が最大5cm離れていても、10umもの解像度が実現できるというものです。すでに半導体パッケージングの生産工程で活用され、車載用ガラスなど、大面積でコンフォーマル性の高い印刷面への応用が実現するのもそう先の話ではないでしょう。
電気流体力学的(EHD)印刷は、圧力でインクを「押し出す」のではなく、電場を利用してノズルからインクを「引っ張り出す」ものです。幅1umもの細い配線が可能なため、この技術は現在、TFT基板のバックプレーン欠損の修復に使用されています。新しいアプローチの1つに、1枚のMEMS(微小電気機械システム)チップの中で個別にアドレス指定可能な数百個のノズルを合わせるというものがあり、積層造形の小規模なエレクトロニクス製造で解像度と処理能力間のトレードオフの解消が期待されます。
インパルス印刷は、開発の初期段階にある革新的技術で、ガラスバックプレーンの縁部や2.5D半導体パッケージングの立体面への高速大量印刷が期待できます。このアプローチでは、制御可能な発熱素子アレイから出る高速な熱パルスを利用し、インクを平らな「転写面」から対象となる物体の上に吐出します。ノズルを使用しないため、インクは加熱された「転写面」の全体から一斉に吐出されます。
総論
カスタマイズ性の向上、製品開発サイクルの短縮、2.5D/3Dエレクトロニクスの需要などを背景に、デジタルエレクトロニクス製造方法はさらに普及すると予測されます。IDTechExの調査レポート『プリンテッド・エレクトロニクス製造 2023-2033年』では、プリンテッドエレクトロニクスとフレキシブルエレクトロニクスに関する20年間の取材を基に、これらの技術やロールツーロール製造などの多くの技術を調査しています。カンファレンスへの出席や主要企業へのインタビューから得た情報をもとに、プリンテッドエレクトロニクス製造分野のプレーヤー、能力、トレンド、要求事項について解説し、製品開発や大量生産へのスケールアップ時の選択をサポートしています。ぜひ、ご活用ください。
問合せ先
アイディーテックエックス株式会社
東京都千代田区丸の内1-6-2 新丸の内センタービル21階
担当:村越美和子 m.murakoshi@idtechex.com
電話 : 03-3216-7209
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