バッテリーパックの構造で実現する新たなEV用バッテリーケミストリー
2025年1月7日
2024年の電気自動車(EV)市場は、予測より成長の勢いが緩やかになりました。中国では、プラグインハイブリッド車(PHEV)の普及拡大により力強い成長を遂げましたが、ヨーロッパのEV市場シェアは2023年と同程度にとどまり、アメリカでは2024年上半期の伸びは2023年比で7%にとどまりました。IDTechExの調査レポート「プラグインハイブリッドと電気自動車 2025-2045年」では、さらなる市場成長の鍵は、低コストモデルの参入になると分析しています。
バッテリーがEV生産コストの大部分を占めていることから、この領域でのイノベーションこそがコスト引き下げの最大の誘因となるでしょう。そのため、多くの企業がLFP(リン酸鉄リチウム)のようなより低コストのバッテリーケミストリーに目を向けるようになってきています。実際、IDTechExの調査では、2024年の世界EV市場においてLFPセルのシェアは33%に上りました。しかし、LFPではエネルギー密度(それに伴い車両の航続距離も)が低下するというトレードオフが生じます。では、こうしたトレードオフのバランスを取るためにはパックレベルで何ができるでしょうか?
低エネルギー密度セルを実現するパック設計
NMC811セルの体積エネルギー密度はLFPセルと比べて約60%高くなっていますが、コストも(kWh当たり)約20%上昇します。セルがバッテリーパック容積の30%を占めると仮定すると(従来のEV車種では一般的)、60kWhのNMC811電池の容積は300L程度になりますが、NMCセルをLFPに置き換えた場合、このパックは、同じ容量に対して容積が490Lに増加することになります。しかし、セル・ツー・パック方式を採用し、モジュールをなくしてセルを大型化すると(BYDのブレードバッテリーなど)、セル対パックの比率は70%に近づく可能性があります。この数字は、LFPパックの容積が210L(元のNMC811パックの70%のサイズ)となる比率であり、セルのコストが20%削減され、パックの材料コストを抑えられます。
当然ながら、同じ構造をNMCセルに適用してバッテリーパックをさらに小型化することや、同じスペースに搭載するセルの数を増やして航続距離を向上することも可能です。必要なバッテリー容量が1台に収まるという点で、セル・ツー・パック方式によってLFPパックはより現実的な選択肢となりました。
また、LMFP(リン酸マンガン鉄リチウム)も市場に出始めており、コストとエネルギー密度の両面においてNMCとLFPの差を埋めるものになるはずです。LMFPと前述のパック設計改良を組み合わせることで、自動車メーカーに性能と価格のバランスが取れた新たな選択肢が生まれます。ベースグレードにはLFP、中間グレードにはLMFP、上位グレードにはNMCというように、グレードによるバッテリーケミストリーの使い分け(テスラがヨーロッパで導入)も考えられます。IDTechExの調査レポート「電気自動車向けバッテリーセル&パック用材料 2025-2035年:技術、市場、予測」では、2035年までにLMFPセルがLFP市場シェアの大部分を奪い、世界のEV市場の約11%を占めるなど、力強い成長を予測しています。
パック改善のオプション
セル・ツー・パック方式に関係なく、パックのエネルギー密度を高め、製造コストを削減することを目的に、自動車メーカー各社はバッテリーセル周辺に使用する材料の量を削減してきました。モジュール、セル間接続部材、熱管理材料、シーラント、接着剤、絶縁材、防火材料などの部材・材料の最適化は、セルのバッテリーケミストリーに関係なく、はるかに効率的でコスト効率の高いバッテリー設計につながる可能性があります。

多様な熱管理戦略パックにおいて、セル周辺の物質集約度が急減。出典: IDTechEx
将来の全固体電池に重要となるパック設計
全固体電池はバッテリー技術の最終局面といわれており、高いエネルギー密度と安全性の向上を謳っています。しかし、全固体電池を発展し得るものにするには、やはりパックの設計が重要です。前述の例と同様に、900Wh/Lの全固体セルを使用し、60kWhでセル対パックの比率を30%にした場合、そのパックの実際のエネルギー密度はセル・ツー・パックのLFPシステムと酷似したものになるでしょう。
そのため、全固体セルが旧式のパウチセルバッテリーパックと同じようにパッケージ化されている場合、エネルギー密度の利点はパックレベルでは得られないかもしれません。また、安全性も考慮すべき要素です。全固体セルは潜在的に安全性が高くなるとはいえ、欠点がなくなったわけではなく、防火・安全対策を講じる必要がまだあります。したがって、全固体電池の将来の潜在的な利点を実現可能なものにする上で、セル形式とパック設計が重要な役割を担います。
IDTechExの調査レポート「電気自動車向けバッテリーセル&パック用材料 2025-2035年:技術、市場、予測」では、セル・パック設計の市場動向を分析・予測し、ニッケル、コバルト、アルミニウム、マンガン、リン酸塩、電解質、グラファイト、シリコン、鉄、銅、バインダー、セパレータ、導電性添加剤などのセル材料の需要だけでなく、アルミニウム、鋼鉄、銅、ガラス繊維強化ポリマー、炭素繊維強化ポリマー、熱伝導材料、防火材料、冷却板、冷却水ホース、電気絶縁材、パックシールなどのパック材料の需要も明らかにしています。
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