EV火災:頻度は低いが問題は多い?

Dr James Edmondson
電気自動車(EV)の火災は、内燃機関(ICE)車の場合よりもメディアの注目が確実に集まります。しかし、モビリティの未来にとっての重要な問題は、実際のところEVの方がICE車よりも火災発生の可能性が高いのかどうかです。リチウムイオン電池が熱暴走に陥るリスクがゼロになることはありませんが、重要な点は火災発生の可能性とEV火災の被害の程度がどれくらいなのか、また今後の発火防止あるいは発火抑制のためにどのような対策が講じられているかということです。
 
前回記事でも取り上げましたが、最も注目を集めた出来事の1つが2020年から2021年にかけて行われたGMのボルトEVのリコールでした。原因はLG化学が供給したバッテリーにおける2つの明らかな製造上の欠陥で、リコール費用は現時点で総額19億ドルに上っています。しかしながら問題を抱えている自動車メーカーはGMだけに限りません。ヒュンダイも大規模なリコールを行っており、費用は9億ドルと推定されています。またフォードのプラグインハイブリッド車クーガは、火災関連で4億ドルのリコールに直面しています。IDTechExではEVの熱管理と発火防止について調査、注視し続けており、調査レポート『電気自動車の熱管理 2021年-2031年』を発行しています。本レポートでは、発火、検知、防止といったEVの熱設計に関連するいくつかの側面について考察しています。

EV火災の発生頻度と被害の程度

車両火災の実際の発生頻度については、いくつかの調査報告が見られます。テスラは走行距離2億500万マイル当たり1件の火災が発生したことを示すデータを公表しました。この発生頻度は米国の全国平均の10分の1以下です。テスラが偏ったデータを出している可能性はもちろんありますが、他の調査報告でも同様の結果が示唆されています。Pinfa (Phosphorous, Inorganic and Nitrogen Flame Retardants Association/リン・無機・窒素系難燃剤協会)によれば、走行距離10億マイル当たりの火災発生件数はEVでは5件に対し、ICE車では約55件だったということです。AutoInsuranceEZ がNTSB(National Transportation Safety Board/米国国家運輸安全委員会)のデータを利用して実施した最近の調査では、米国における販売台数10万台当たりの火災発生件数は、ICE車が1,530台、ハイブリッド車が3,475台であったのに対し、電気自動車では25.1台であったことが示されています。
 
EVの方が火災発生頻度は低いものの、一旦発火すると非常に甚大な被害をもたらす可能性があります。バッテリーに含まれる化学物質の混合物は揮発性が非常に高く、消火が困難になる可能性があります。実際、EV火災によりガレージと近隣車両が大破した事例が複数あり、消防当局ではEV火災に特化した消火訓練を実施する必要が出てきました。EV火災では初期消火後数日間は再燃の可能性が残ります。EV火災の発生が予測できないものであることについてはどうしようもありません。IDTechEx が実施した調査では、EV火災の3分の1は車両の駐停車時など、充電時以外に発生することが示唆されているからです。
 
IDTechExによるEV火災事故96件のデータのまとめ。明白な原因が見当たらないケースが多い。 出展: IDTechEx Research

車両火災の原因と対策

つまりまとめると、EVの方がICE車よりも火災の発生頻度がはるかに低いということのようです。火災関連のリコールの詳細を見るとEVの場合は多くがバッテリーのショートや製造上の欠陥が原因であることがわかります。一方ハイブリッド車やICE車では多くの場合は燃料漏れが原因です。このことから、燃焼燃料と高電圧電子部品の両方を使用するハイブリッド車の火災発生率が高くなる理由が容易に想像できると思います。
 
EVでは不適切な熱管理、製造上の欠陥、過充電、衝突事故といったさまざまな原因により、バッテリーが熱暴走に陥る可能性があります。バッテリーセルが熱暴走に陥ると揮発性ガスが放出し、温度が著しく上昇します。バッテリーセルが1つでも熱暴走に陥ると、他のセルへの波及を食い止めるのは難しくなる可能性があります。ここで材料の進歩と適切な熱管理技術の出番です。熱管理システムと材料はバッテリーを最適な温度範囲に保つための鍵であり、断熱材や防火材は熱事象がバッテリーパック全体にまで波及するのを最小限に抑えるか、防止するように設計されています。

バッテリー設計の変更点と機会?

上記の懸念と火災・熱暴走関連の規制が強化される可能性を踏まえ、自動車メーカーは自社のEV用バッテリーパックの安全性を可能な限り高めようと懸命に取り組んでいます。これによりバッテリーパック内のセル周辺の材料に関して、いくつかのビジネス機会が生まれています。それは熱伝導材料(TIM)、断熱、誘電材料またはコーティング材、難燃性材料などです。
 
主な課題はセルとパックの両レベルにおいて絶えず進化するバッテリーの設計です。バッテリーのケミストリーは進化し続けています。ニッケル含有率の高い正極材の導入やLFP(リン酸鉄リチウム)電池の復活、さらには全固体電池への注目の高まりにもそのことが表れています。このような変化はEV用バッテリーの熱管理と材料に関する要件に多大なる影響を与えます。LFP電池は安全性が高いと言われており、全固体電池は完璧な安全性を備えているとしばしばもてはやされてきました。
 
セル以外ではセル・ツー・パック設計へと自動車メーカーは移行しつつあり、テスラ、ステランティス、BYD、フォルクスワーゲンなどが移行を発表しています。別個のモジュールハウジングを使わずにすべてのセルをバッテリーパック内に積み重ねると、熱暴走の広がりを管理するのがより困難になることが想像できます。このバッテリーパック構造における根本的変化は、熱伝導材料、冷却回路、発火防止対策など、熱戦略・材料の取り入れ方に変化をもたらします。

まとめ

これまでのデータは車両火災の発生頻度はEVの方がICE車よりもはるかに低いことを示唆しており、2041年までに自動車市場の71%がバッテリー式電気自動車やプラグインハイブリッド車になるというIDTechExの予測を踏まえると、それは良いことです。この市場のさらなる発展、安全規制の強化、自動車メーカーや材料サプライヤーの注力により、EVの安全性がさらに高まることを期待するばかりです。
 
さらに詳しくは、IDTechEx調査レポートでご確認ください。IDTechExは 『電気自動車の熱管理 2021年-2031年』『電気自動車向けバッテリーセル&パック用材料 2021-2031年』など、多数の電気自動車関連調査のポートフォリオを揃えています。
 
IDTechExの調査レポートは、
・アイディーテックエックス株式会社 (IDTechEx日本法人) が販売。
・IDTechExからの直接販売により、お客様へ各種メリットを提供。
・ご希望の方に、サンプルページ 送付。
・オンラインでの試読については、ご相談ください。
・その他、調査レポートに関する、質問、購入に関する問い合わせは、
 下記担当まで。見積書、請求書も発行します。
 
IDTechExの調査レポートを購入すると、30分のアナリストタイムが提供されます。直接アナリストにレポートに関する質問が可能です。詳しくは、下記担当までお問い合わせください。
 
問合せ先
アイディーテックエックス株式会社
東京都千代田区丸の内1-6-2 新丸の内センタービル21階
担当:村越美和子  m.murakoshi@idtechex.com
電話 : 03-3216-7209
 
IDTechExは、調査、コンサルタント、イベントを通して、戦略的なビジネス上の意思決定をサポートし、先進技術からの収益を支援しています。IDTechExの調査およびコンサルティングの詳細については、IDTechExの日本法人、アイディーテックエックス株式会社まで、お問い合わせください。