ナノカーボン、ついにマスマーケットに参入か

Dr Richard Collins
carbon nanotube
ナノカーボンの革命的な可能性は30年以上も前から言われてきましたが、驚異的な特性と商業的な宣伝にもかかわらず、その成功は今までは限定的でした。カーボンナノチューブ(CNT)はその弟分であるグラフェンほど華やかではないものの、IDTechExでは2032年までに年間需要が70ktpaを超えると予測しています。これはメーカーが初めて、材料の押し売りではなく、大衆市場からの引き寄せを経験するためです。
 
では、何がこの需要を生み出しているのでしょうか? それは活況を呈している電気自動車市場において、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)が担う、リチウムイオン電池の正極材用導電性添加剤としての役割です。これは「グラフェンバッテリー」のように人目を引くことはありませんが、この用途に用いることにより、重要な性能上の利点がもたらされるだけでなく、電極の厚み増加やCレート(充放電速度)の高速化が可能になり、その他の次世代バッテリーやウルトラキャパシタ向けのソリューションが実現します。
 
IDTechExの最新調査レポート『カーボンナノチューブ 2022-2032年: 市場、技術、有力企業』では、カーボンナノチューブの10年間の詳細な市場予測、プレーヤー分析、技術ベンチマーク、これらのコアおよび新しいアプリケーション分野についての紹介をしています。IDTechExには、これらのナノカーボンだけでなく、リチウムイオン電池、スーパーキャパシタ、センサー、プリンテッド・エレクトロニクスなどの主要セクターについても調査を行ってきた長い歴史があります。
 

CNT業界にとって、どのような意味を持つのか?

1. 拡大と統合
上の図はMWCNTの容量の推移を表したものです。見てのとおり、鳴り物入りで市場に現れた2007年から2011年の期間が第一次成長期でした。しかしその後は横ばい状態が長く続いています。リチウムイオン電池向け用途が登場したことで再び急速に拡大しつつありますが、それには正当な理由があります。この拡大は(パンデミックによって減速が見られるものの)依然として活況を呈しているバッテリー式電気自動車市場の需要を満たすべく起きているものです。リチウムイオン電池のサプライチェーンと同様に、こうした動きは主に東アジアで見られ、明らかな市場リーダーが登場しつつあります。カーボンブラックの有力企業も参入しており、キャボットコーポレーションによる買収の動きが注目を浴びているほか、ビルラ・カーボンも戦略的投資を行っています。
 
しかし、IDTechExではこれにより必然的に統合も起きると予想しており、3社が市場の過半を支配する特殊カーボンブラックのような、成熟度の進んだ添加剤技術に着目しています。今が成長の時であり、この機を逃せば遅れをとることになるでしょう。
 
2. 価格低下と新たな機会
こうした進化が必然的に価格の低下をもたらしているものの、高価で高性能な製品であることには変わりなく、生産規模が拡大すればプロセスとサプライチェーンの効率化が促進され、コストが低下します。しかし、年間需要が1万トンを超える辺りから価格の急激な下落が続くでしょう。
 
誤解のないように言うと、これはMWCNTの最初の実用例ではありません。MWCNTは燃料システムからエレクトロニクスのパッケージングに至るまで、ポリマーやエラストマーにおいて優れた役目を果たしていますが、これらを大量適用と呼ぶのは非現実的でしょう。しかしながら、規模の拡大と価格の低下により、特にナノコンポジットにおいては利用分野が広がります。
 
3. SWCNTでの異なる事情
単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は、多層カーボンナノチューブの高性能版です。しかしながら、製造と分散における課題のせいで市場に浸透する段階がそれぞれで大きく異なります。ポリマー添加剤など競合する用途先がいくつかあり、バッテリーでも成果がいくつか見られますが、数百トン、ましてや数万トンなどに到達することは当面ないでしょう。しかしながら、センサー、半導体、量子コンピューティングの進展の先には、非常に興味深い高価値の用途がいくつかあり、そこでは物量は重要ではなく、純度やキラリティー、均質性が重要になります。
 
同様に垂直配向カーボンナノチューブ(VACNT)アレイ、アスペクト比がきわめて高いナノチューブ、連続糸、不織布シートについては商用化の初期段階で継続的な進歩があり、新しい企業やソリューションが登場しています。
 
しかしながら成長に対する脅威も存在します。健康への影響や規制の変更、地理的考慮事項、バッテリー技術の急速な進展などに関する懸念が残っています。こうした調査結果は、インタビューベースの企業プロファイルやケーススタディとともに、『カーボンナノチューブ 2022-2032年: 市場、技術、有力企業』に掲載されています。
 
長い時間を要したものの「解決すべき問題を模索する、独自の特性を備えた先進材料」から、急成長するマスマーケットで付加価値を提供する製品へと、漸くその位置づけに変化が見られます。
 
カーボンナノチューブの最新状況は『カーボンナノチューブ 2022-2032年: 市場、技術、有力企業』で、ご確認ください。
 
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