ウエアラブル心臓モニタリング技術におけるフレキシブルエレクトロニクス
2020年9月22日
Dr Nadia Tsao

今日のデジタルエイジでは、デジタルヘルスと自己定量化が注目されており、フィットネストラッカーやスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスを通じて心拍数モニタリング技術が急速に伸びています。こうしたデバイスは、一見健康そうな人に潜む頻脈や心房細動といった心臓の異常を検出できることが既に実証されています。しかし、腕に装着するデバイスは、今のところ事前に警告することしかできず、医療機器としての使用をFDA(米国食品医薬品局)は認めていません。そのため、心臓専門医は、いまだに代替技術を使用して診断やモニタリングのニーズに対応しなければなりません。
そこで、フレキシブルエレクトロニクスの出番です。 心臓をモニタリングするには、皮膚に密着するデバイスが必要です。それには、しなやかに曲がり、さらには伸縮可能な電子回路が組み込まれたデバイスが理想的であり、そうしたデバイであれば、皮膚に馴染み、薄型にすることができ、総じて患者は快適に使用することができます。IDTechExは、心臓モニタリングで使用されるフレキシブルエレクトロニクス(電子皮膚パッチや電子繊維に実装されるフレキシブルエレクトロニクス)の市場が2030年には20億ドルになると予測しています。
IDTechExは、過去10年間フレキシブルエレクトロニクスについて調査を続けており、2020年には調査レポート『ヘルスケアにおけるフレキシブル・エレクトロニクス 2020-2030年』をリリースしました。 この記事では、電子皮膚パッチとeテキスタイルが心臓モニタリングにどのように使用されているかを解説していきます。
電子皮膚パッチ
電子皮膚パッチは接着剤を使用して皮膚に装着することができる電子デバイスです。
心臓モニタリングで使用される電子皮膚パッチは、医療規格(12-誘導心電図検査)とコンシューマーエレクトロニクス(スマートウォッチやフィットネストラッカーなど)との間で興味深いバランスを示しています。電子皮膚パッチは、取得できるデータの量は12-誘導心電図よりも少ないものの、スマートウォッチやフィットネストラッカーで使用されている光学技術よりも有益で正確な情報を得ることができます。また、電子皮膚パッチは、最新モデルのスマートウォッチに搭載されている1-誘導心電図とは異なり、継続的なモニタリングが可能です。
医療用途では、12-誘導心電図よりも電子皮膚パッチの方が、患者が動ける自由度が高まります。12-誘導心電図からの最初のステップは、24~48時間使用することを想定して設計された、携帯可能な有線のホルターモニターです。しかし、このデバイスは、依然として扱いにくく、侵襲的であることに変わりありません。
患者をさらに快適にするため、各メーカーは、しなやかな基板の上に電子回路をすべて集積した心臓モニタリングパッチを開発しました。電子皮膚パッチは、ワイヤーをなくしてデバイスの占有面積と重量を減らしたことで、より快適に装着できるようになり、より長期間(最大30日)使用できるようになりました。この長期化は、普段患者に発生しないイベントを検出する上で極めて重要です。このデバイスの次のステップは、プリント電子回路が組み込まれた電極一体型のデバイスになると予測され、密着性がさらに高まって患者の快適性はさらに向上すると考えられます。

Cardiac monitoring devices range from (left to right) the 12-lead ECG, Holter monitor, patch with snap fasteners, and patch with integrated electronics. 出展: IDTechEx 『ヘルスケアにおけるフレキシブル・エレクトロニクス 2020-2030年』
全体として、心臓モニタリング用の電子皮膚パッチは、入院患者の心臓モニタリング(正確、安全、携帯性なし、高価)、埋め込み型心臓モニター(正確、安全性が劣る、携帯性あり、高価)、その他ウェアラブルデバイス(精度に劣る、医療機器として未承認、安全、携帯性あり、安価)のギャップを埋めます。しかし、心臓モニタリング用の皮膚パッチを利用する場面は、イベント監視やモバイル心臓テレメトリに限りません。心臓モニタリング以外にも、他の病気(呼吸器疾患など)のモニタリング向け電子皮膚パッチや、一般的な患者(入院患者や退院後患者など)のモニタリング向け電子皮膚パッチにも、心臓モニタリング機能を持たせることができます。
電子皮膚パッチについてさらに詳しくは、IDTechExの調査レポート 『電子皮膚パッチ 2020-2030年』をご覧ください。
E-テキスタイル
電子繊維(略してeテキスタイル)とは、電子コンポーネントと繊維コンポーネントが1つのデバイス内に組み込まれた製品のことをいいます。これは、電子コンポーネントが持つ機能を、快適で見た目に美しくどこでも存在する繊維製品と組み合わせるというアイデアに基づいています。
かつて、eテキスタイル業界では、スポーツ用のスマート衣類が主流でした。各企業は、マスマーケット向け製品を開発するためのさまざまな試みを行いました。各eテキスタイル企業は、それぞれ異なる戦略や技術を選択しましたが、最終製品はどれも非常に似たような機能を備えていました(アクティビティ、心拍数、呼吸数の追跡など)。今でもアパレル大手がスポーツ用途に時々関心を示すことはありますが、現在、eテキスタイル企業の多くはヘルスケア用途にシフトしています。
スポーツと医療は、同じバイタルサインを検出し、同じフォームファクター(衣類)が使用されるという点で、非常に似通っています。電子皮膚パッチでは心電図測定の誘導数を2~3しか組み込めないのに対し、スマート衣類ではそれよりはるかに多くの12または15の誘導数を組み込むことができます。さらに、スマート衣類は電子皮膚パッチよりもはるかに快適です。後者は、多くの場合、皮膚の炎症などによる不快感をもたらします。ヘルスケアはスポーツと比べて規制のハードルが高いにもかかわらず、各企業はヘルスケア分野でeテキスタイルがもたらす長期的な利益に注目しています。今後、普段着と同じ快適さを備えながら医療グレードのデータをもたらすスマート衣類が、自動的かつ継続的な患者モニタリングを日常生活に浸透させる鍵を握ると思われます。
eテキスタイルのフォームファクターは、衣類だけにとどまりません。ベッドのシーツや毛布、さらには家具といった、アパレル繊維以外のものにも組み込むことができます。いずれにせよ、現在、eテキスタイル企業にとって重要なことは、FDA等の規制当局を通じて自社製品を検証すること、そして、自社製品に対する診療報酬の可能性を検討することです。
e-テキスタイルについてさらに詳しくは、IDTechExの調査レポート 『E-テキスタイルおよびスマート衣料 2020-2030年:技術、市場および有力企業』をご覧ください。
今後は?
コロナウイルスの大流行によって、世界各地の臨床医は、今後も患者をリモートで治療・監視できるようにするための医療技術を試す必要に迫られました。最終的には、多くの医師が対面治療に戻ると思われますが、一部の医師は、遠隔医療技術やリモート患者モニタリング技術を使い続けていくものと思われます。電子皮膚パッチやeテキスタイルといった技術は、ヘルスケアシステムに多くのものをもたらします。既に、リモート患者モニタリングによって、優れた成果を上げることができ、治療の質が高まり、患者の満足度が向上することが示されました。ヘルスケアシステムは、患者をより適切に管理し、コストがかかる入院や救急外来受診を回避することで、コストを削減することができます。リモート患者モニタリング技術に関する診療報酬の状況は正しい方向へと向かいつつありますが、これが依然として企業がこの分野に参入する上での大きなハードルとなっています。
さらに詳しくは、『ヘルスケアにおけるフレキシブル・エレクトロニクス 2020-2030年』を、ご覧ください。
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