全固体電池の「誇大宣伝」と「期待」
2023年2月6日
Dr Xiaoxi He

電気自動車市場の急成長により、電池、特にリチウムイオン電池の開発、製造、販売が促進され、10年来、電池業界を席巻しています。しかし、性能の限界、環境保護、サプライチェーンへの配慮から、次世代エネルギー貯蔵技術の研究開発が常に行われています。その中でも、全固体電池に関する議論は盛んで、学界と産業界の双方で取り組みが行われています。研究機関、材料メーカー、電池ベンダー、部品メーカー、自動車メーカー、ベンチャーキャピタル、投資家から最も注目されているのは全固体電池です。また、世界的に全固体電池に取り組むプレーヤーも増えてきています。

主要全固体電池メーカー Source: IDTechEx - 『全固体電池とポリマー電池 2023-2033年: 技術、予測、有力企業』
全固体電池は何をもたらすのか?
全固体電池は、多くの利点があると考えられていることから「究極の目標」であるとされています。利点として挙げられるのが、高い安全性とエネルギー密度、長いサイクル寿命、高い耐久性、作動温度範囲の広さ、密なスタック化、バッテリー設計の簡素化、柔軟度の高い機械的特性などです。

固体電池バリュープロポジション Source: IDTechEx - 『全固体電池とポリマー電池 2023-2033年: 技術、予測、有力企業』
例えば、全固体電池は有機液体電解質を固体電解質に置き換えることで、より安全で寿命の長いバッテリーの製作が可能になります。また、固体電解質は高電圧正極材や大容量のリチウム金属負極とも親和性があり、1,000Wh/Lを超えるエネルギー密度を実現することも可能です。
しかしながら、固体電解質のほとんどは、ポリオレフィン製セパレータ、特に無機固体電解質よりも高密度です。また、従来のリチウムイオン電池で使用されているセパレータよりも一般的に厚みがあります。リチウムイオン電池と同じ電極材(黒鉛負極と層状金属酸化物正極)を使用する場合、ほとんどの全固体電池は、最終的にリチウムイオン電池と比較して質量エネルギー密度が低くなります。
そのうえ、全固体電池は安全性が高いため、熱管理システムが不要であると考える人も多数います。ところが、これは正しくありません。全固体電池は、リチウムイオン電池とは安全動作領域が異なる場合があり、熱管理システムをはじめとする多くの保護対策が依然として必要です。
一方、全固体電池は、その価値提案が現実的ではなかったり、実現するのが極めて困難であることから、見込みはないと考える人もいます。
このような楽観的な意見と悲観的な意見は、いずれも全固体電池に対する理解不足から端を発しているのです。全固体電池は依然として未熟な産業であるため、各種技術ごとにそれぞれの価値提案、セル設計、性能、サプライチェーンの要件、製造法、成熟度はさまざまです。ただし、一般的に言えば、高い安全性や高いエネルギー密度の可能性、システム設計の簡素化が全固体電池の大きな牽引力であることに変わりはありません。
三大材料系
全固体電池の領域には、多様な技術アプローチが存在します。次世代技術の開発においては、それぞれ豊富な選択肢を持つ酸化物系、硫化物系、ポリマー系の材料が最も多く利用されています。一般的に硫化物系電解質には、イオン伝導率が液体電解質よりも高い、低温作動性能に優れている、電気化学的安定領域が広いといった利点があります。このように多くの特長を併せ持つ硫化物系電解質は、魅力に溢れた材料であり、多くの人に究極の選択肢であるとみなされています。しかしながら、製造が難しく、製造工程で有毒な副産物(硫化水素)が発生することから、商用化は他の後塵を拝しています。ポリマー系は、製造が容易で既存の製造施設への適合性が最も高く、すでに商用化されている材料もあります。作動温度が比較的高い一方で、抗酸化性が低くなる可能性があることや安定性が低いことが課題となっています。酸化物系は電気化学的安定性と熱安定性に優れており、リチウム金属よりも高い安定性を示しています。その反面、界面抵抗が高く、高コストであり、歩留まり率が低いことが、概して難しさがあることを示しています。

他にもある理解を深めるべきこと
完璧な技術は存在せず、ましてや公表する技術的手法や試験条件、データが統一されていない状況にあっては、各技術の長所と短所を一般の人々が理解するのは難しいと思われます。そこでIDTechExの調査レポートでは、技術的観点からの詳細説明と分析に当社独自の見解を加えて提示しています。また、全固体電池の誇大宣伝部分と期待できる部分についての評価も行っています。従来のリチウムイオン電池では実現できていても、現在の全固体電池ではまだ実現できていない特長がいくつかあるとはいえ、安全性が高く、高エネルギー密度化が可能であり、システムレベルでの設計が簡単であることが、全固体電池の主な牽引要因であることに変わりはありません。
IDTechExは2014年から全固体電池の開発を追跡しており、長年の経験により、この業界における取り組みが徐々に変遷していることを見てきました。例えば、初期の焦点は、主に固体電解質とハーフ/フルセルの実証にありました。さらなる改善により、より多くのことが商業化のために考慮されるようになりました。サンプルの検証、システム設計、サプライチェーンの確立、製造の最適化などが更に重要性が増しています。
IDTechExの調査レポート『全固体電池とポリマー電池 2023-2033年: 技術、予測、有力企業』は、固体電解質の生産量と市場規模について2033年までの10年間の予測を行っています。また、様々な技術や電池の性能に焦点をあてています。併せて、固体電解質に関する製造上の課題や、大手企業がその制約にどのように対処しようとしているのか、また、研究の進展や重要なプレイヤーの活動などを取り上げています。
全固体電池に関する動向をさらに詳しく理解するために、IDTechExの調査レポート『全固体電池とポリマー電池 2023-2033年: 技術、予測、有力企業』~をご活用ください。
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