IDTechEx、EVバッテリー改良への複数ルートを追跡
2023年9月5日
Dr Alex Holland

電気自動車用リチウムイオンバッテリーの世界市場は、2034年までに3,800億米ドル以上に達すると予測され、主にバッテリー式電気自動車の需要に牽引されているものの、電気バン、トラック、バス、2輪車、オフロード車など他の分野でも急成長が見込まれています。電動化と排ガス目標、バッテリー性能の向上、そして魅力的な一部の車両セグメントの総所有コスト増加がバッテリー式電気自動車(EV)の需要増加を後押ししています。そうした中でも、バッテリー性能とコスト改善が求められており、開発がますます漸進的になる可能性はあるものの、リチウムイオン電池技術の継続的な改良にはさまざまな手段があります。
IDTechExの新しい調査レポート『電気自動車用リチウムイオン電池とバッテリーマネジメントシステム 2024-2034年』は、電気自動車の用途別リチウムイオン需要予測を含め、リチウムイオンセル、パック、バッテリー管理システム(BMS)を取り巻く技術、設計、動向の分析を提供しています。

EV Li-ion demand growth. Source: IDTechEx.
セル
短期的に見ると、EV用バッテリーセルにおいては、現在のトレンドが続くことになりそうです。例えば、エネルギー密度を高めたり、コバルト含有量を減らす手段として、NMC電池やNCA電池の平均ニッケル含有量は増加し続けています。NMCやNCAよりも安価で安全な選択肢(本質的には安全でありませんが)であるLFPへの全体的な移行が主流となるでしょう。LFPのエネルギー密度はNMCやNCAよりも30~40%低くなる場合がありますが、近年では低コストのメリットは避けられないものになっています。そのため、電気自動車においてLFPのシェアは拡大してきているものの、その大半は中国での再採用によるものであることに注意する必要があります。欧州と北米ではNMCとNCAが依然として好まれてはいますが、LFPも市場に投入され始めています。NMC電池は他の車両セグメント向けのターンキーパックでも依然として支持されていますが、技術向上の他にコストや材料供給の圧力もあり、LFPはEV市場でのシェアを拡大すると予測されています。
より変革的な進展の兆しも見えてきています。ブルー・ソリューションズのポリマー系固体電池のように、商用化の初期段階がすでに進んでいる一方で、全固体電池の開発に関する発表も続いています。より先進的なシリコン負極ソリューションや商用製品の開発に伴い、シリコン負極材料の使用は増加すると見られており、エネルギー密度と急速充電の向上が期待されます。新しい種類の正極についても研究が継続しています。例えば、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)は、LFPの多くの利点を持ちつつ、エネルギー密度をNMC系電池に近いレベルまで高める可能性を秘めた興味深い代替材料となっていますが、商用化はまだ限られています。

Global cathode share in battery electric cars. Source: IDTechEx.
パックデザイン
EVへのLFPの採用増加に伴い、セル・ツー・パックのバッテリー設計は重要性が増します。これらの設計は、充填効率とエネルギー密度を向上させ、NMC系やNCA系のバッテリーと比較した場合のLFPを使用する際の主な欠点の1つを減らすのに役立ちます。CATLとBYDは、テスラやステランティスをはじめとするさまざまなメーカーと協力してCTP設計を導入しています。重量エネルギー密度を向上させるため、従来のスチール製やアルミニウム製の筐体に代わるものとして軽量のポリマー製筐体が推進されています。
2種類の電池を組み合わせる設計(Dual- Chemistry)も、CATL、ニーオ、Our Next Energyなどが研究を進めています。Our Next Energyは、その最も極端な例として、高エネルギー密度だがサイクル寿命の短い電池をレンジエクステンダー用LFPとして効果的に組み合わせることを計画しています。最終的には、異なる種類のリチウムイオン電池を組み合わせたり、さらにはリチウムイオンとナトリウムイオンを組み合わせることで、出力、エネルギー密度、サイクル寿命、低温性能の間で避けられないトレードオフを最適化できる可能性があります。
熱管理
電気自動車用バッテリーは、安全性への懸念、有名な火災事故、バッテリーのリコールなどを考慮し、熱管理と防火対策が重要な課題となっています。EV初期のモデルではパッシブ空冷が利用されていましたが、近年ではさまざまな車両セグメントにわたって液冷が目立っています。IDTechExのデータによると、アクティブ液冷設計が電気自動車市場の90%(2015年は50%強)を占めていました。このトレンドが当てはまるのはEV乗用車だけではありません。ほとんどの商用車セグメント向けのターンキー方式のバッテリーでは、液冷も用意されています。セル技術の開発がますます漸進的になるにつれ、動作の安全性を維持するだけでなく、リチウムイオン電池の性能を最大化するため、熱管理などの側面開発がますます重要となっています。
バッテリー管理システム
バッテリー・マネージメント・システム (BMS)は、リチウムイオンバッテリーの安全で信頼性の高い運用において重要な役割を果たします。BMSは、主な機能が比較的明確に定義されていますが、リチウムイオン電池の性能限界を押し広げる手段にもなります。安全性、寿命、急速充電、さらにはエネルギー密度の向上は、BMSの開発を通じて実現可能です。また、トレードオフを最小限に抑えることも重要です。
性能向上を実現するうえで欠かせないのは、バッテリーとセルの状態(充電状態、劣化具合、出力状態など)をより正確に推定する方法を開発・導入し、最大限の性能をバッテリーから安全に引き出せるようにすることです。BMSのソフトウェアやアルゴリズムの開発以外に、ワイヤレスBMSソリューションも商用化が進んでいます。ワイヤレスソリューションを導入することで、配線やケーブル敷設の大部分を省くことができるため、軽量化や、潜在的故障モードの排除につながります。GMが2020年にワイヤレスBMSを発表したのを皮切りに、BMS用半導体メーカーは、ワイヤレスBMS設計のためのソリューションをようやく提供しようとしています。
IDTechExの最新レポート『電気自動車用リチウムイオン電池とバッテリーマネジメントシステム 2024-2034年』は、性能データの考察を含め、電気自動車におけるリチウムイオンバッテリーとBMSの主要な技術革新、進歩、動向に関する分析を提供しています。本レポートでは、複数の電気自動車セグメントにおける主要な推進要因、課題、バッテリー技術の選択肢の概要を紹介しています。
電気自動車用リチウムイオン電池とバッテリーマネジメントシステムをより深く理解するために、IDTechExの調査レポート『電気自動車用リチウムイオン電池とバッテリーマネジメントシステム 2024-2034年』を、ご活用ください。
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