バッテリーパック設計の主要課題と材料サプライヤーがサポートできること
2025年2月5日
Dr James Edmondson

2025年は電気自動車(EV)市場にとって好調な年になると見込まれています。中国では力強い成長を続けており、ヨーロッパではCO2規制が強化され、EVの普及が進むでしょう。しかし、EVの普及が大きく進むとはいえ、EV用バッテリー設計者は依然として大きな課題に直面しています。EVサプライチェーン内の材料プレーヤーが、EVバッテリー設計者の課題をサポートし、提供する製品を差別化するには、いくつか方法があります。IDTechExの調査レポート「電気自動車向けバッテリーセル&パック用材料 2025-2035年:技術、市場、予測」 では、2035年にはパック関連材料の需要は2024年の需要の3倍になり、優先順位が変化すると予測しています。
本記事では、EV用バッテリー設計者にとっての主要な目標と、材料サプライヤーがそれらをサポートする方法をいくつか取り上げます。

エネルギー密度向上にもかかわらず、バッテリーセル・パック材料は大きな成長が予想される。出典: IDTechEx - 「電気自動車向けバッテリーセル&パック用材料 2025-2035年:技術、市場、予測」
最優先事項:コスト、航続距離、安全性
完成車メーカーはそれぞれに違いがあり、独自の優先事項がありますが、ほとんどの完成車メーカーが重視するのは、コスト削減・製造の簡素化・バッテリーの安全性・エネルギー密度・車両の航続距離でしょう。
コストに最も大きく影響するのは、セルや正極の種類の選択ですが、バッテリー設計者はそれ以外の材料をパックからできる限り多く取り除くことを目指しています。そのため、最新のバッテリー設計では、2015~2016年に導入された設計と比べて、セル周辺に使用される材料が50%削減されています(IDTechEx調査)。これはセル・ツー・パックやセル・ツー・ボディ/セル・ツー・シャーシなどのイノベーションによるものですが、モジュール設計においても物質集約度は減少しています。
1台当たりの物質集約度が減少する中、材料サプライヤーにとっては適切な材料を供給することが重要です。一般的に、これは競争力のある価格で複数の機能を提供する材料を意味します。単一の材料の方が高コストになる場合がありますが、代替となる2~3種類の材料と比べて低コストである場合は大きな利点になりえます。
その主な例が熱伝導材料(TIM)です。セル・ツー・パック設計では、TIMはより厚いボンドライン、より重いギャップフィラーから、より薄くて軽量な熱伝導性接着剤へと移行しており、構造をなしているだけでなく熱伝導性も提供しています。
別の例として、熱管理用のポリマー製冷却液流路があります。TIMと金属製冷却液流路からなる層を発泡性のポリマー製流路に置き換えることで、セルの形状に沿うように収まるため、壁面冷却式セル用途においてTIMが不要になります。
また、安全性も不可欠です。セルレベルから始まりますが、規制の進展に伴い、熱暴走の伝播を防いだり、遅らせるための専用の材料を確保する必要性が高まりつつあります。断熱性に優れたエアロゲルから、防火性を備え、構造用部品に使用できる膨張性ポリマーまで、さまざまな形状があり、多様な機能を有する可能性があります。これら防火材料の多くは高額であるため、多機能性を備え、他の複数の材料に置き換えることができれば大きな利点となります。
次の優先事項:ライフサイクル、調達、持続可能性
前述の優先事項以外にも、性能目標・コスト目標を達成できれば、サプライヤーが差別化できるとIDTechExが考えている領域がいくつかあり、持続可能性・カーボンフットプリント・材料調達・寿命終了時の分解などが挙げられます。一部の完成車メーカーは、他社と比べてこの領域の優先順位を高くしていますが、EV市場の成長が続く中、可能な限り環境に優しいEVを実現する上でこれらの要素は重要になります。
EU規則の一環として、すべてのバッテリーにカーボンフットプリントの情報を含むパスポートが必要になります。カーボンフットプリントにはパック材料よりセル材料が貢献しているでしょうが、パック材料も無視できません。材料用の原料だけでなく、その生産の現地化を進めることも、CO2の影響にとって、さらには完成車メーカーのサプライチェーンの安全性を高める上で有益となる可能性があります。
複数の研究で、EVバッテリーは多くの人が予想していたよりも長持ちすることが明らかになってきていますが、EVにおいてバッテリーがそれ以上使用できなくなる時期がやってきます。その時点で、バッテリーはリサイクルされることもあれば、セカンドライフ用途(定置型貯蔵など)で使用されることもあります。いずれにしても、セルをセカンドライフ用の新しいパックに転用したり、リサイクル中のクリティカルマテリアルの回収率を増加させるためには、バッテリーを分解できることが重要となります。
最新のセル・ツー・パック式バッテリー設計の多くはコスト効率の良い方法で分解するのが非常に困難なため、使用済みバッテリーを扱う企業の時間と労力の増加につながっています。そのため、材料サプライヤー各社は、この工程を支援できる選択肢を増やし始めています。例えば、温度、溶剤、電流や超音波によって剥離できる接着剤などがあります。コストが増加することやインフラ(寿命が終了したバッテリーを誰が処理するのか)が不足していることから、事例が少なく、主な懸念事項の陰に隠れてはいるものの、もう1つの差別化方法となりつつあります。
コスト削減を強く重視している自動車市場は参入が難しいことで知られているため、どのような差別化でも材料サプライヤーが実現することができれば、EV市場での成功に役立つはずです。IDTechExの調査レポート「電気自動車向けバッテリーセル&パック用材料 2025-2035年:技術、市場、予測」 では、ニッケル、コバルト、アルミニウム、マンガン、リン酸塩、電解質、グラファイト、シリコン、鉄、銅、バインダー、セパレータ、導電性添加剤、鋼鉄、ガラス繊維強化ポリマー、炭素繊維強化ポリマー、熱伝導材料、防火材料、冷却板、冷却水ホース、電気絶縁材、パックシールなどのセル・パック材料の主要カテゴリーにおけるトレンドを分析・予測しています。
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