グリーン水素用の水電解装置スタック部材の主要開発動向

Chingis Idrissov
グリーン水素用の水電解装置スタック部材の主要開発動向
手頃な価格で、大規模なグリーン水素の製造を実現するには、水電解装置スタック部材の継続的なイノベーションが不可欠です。水電解装置の心臓部であるスタックの効率、耐久性、コストは、部品の材料や設計に直接影響を受けます。したがって、部材の進歩が均等化水素原価を下げる上で不可欠であり、膜、電極、膜電極接合体(MEA)、バイポーラプレート、輸送層など、あらゆる重要分野にわたってイノベーションが進んでいます。
 
進化し続ける材料分野についての包括的な分析や、詳細な市場予測、主要企業情報については、IDTechEx の調査レポート「グリーン水素製造用材料 2026-2036年:技術、有力企業、予測」でご覧いただけます。本レポートでは、アルカリ水電解装置(AEL)、PEM型水電解装置(PEMEL)、AEM型水電解装置(AEMEL)、固体酸化物形電解セル(SOEC)の各技術におけるイノベーションを取り上げています。
 
 
水電解装置用部材の主なイノベーションの焦点(例:PEM型水電解装置)。出典:IDTechEx
 
より薄く、強度の高いセパレータが性能と耐久性の両立の鍵に
 
AELの隔膜、PEMEL・AEMELの膜、SOECの電解質は材料や構造に違いはあるものの、イノベーションの基本的な目標は似通っています。どの装置のセパレータも、優れた耐久性を維持し、水素ガスのクロスオーバーを防ぎつつも電気抵抗を小さくするという微妙なバランスをとらなければなりません。その実現のため、隔膜とイオン交換膜の薄膜化、補強層の組み込みが進んでいます。また、製造工程の改良からも恩恵を受けており、気孔率の制御が容易になってきています。
 
イノベーションが最も進んでいるのがイオン交換膜(IEM)です。プロトン交換膜(PEM)やアニオン交換膜(AEM)として機能するこの部材は、PEM型水電解装置やAEM型水電解装置に不可欠です。PEM市場は成熟しており、ケマーズ、AGC、ゴアといった古くからのPFSAフッ素樹脂メーカーがシェアの大半を占める一方、AEM市場では、新規参入者や新たな化学設計が次々に登場しています。AEMメーカーのほとんどがPFASを含まない炭化水素系膜を開発しており、想定されるPFAS規制に対応すべく、PEMメーカーも現在、同様の炭化水素系製品の開発を進めています。イオン交換膜(IEM)市場に関する詳細情報については、「イオン交換膜 2025-2035年:技術、市場、予測」でご確認ください。
 
貴金属の量を抑えつつ、活性を高める先進的な電極とMEA
 
あらゆる種類の電極にとって一番の目的は、より効果的な触媒を使用しながら、反応を起こすための活性表面積を最大化し、貴金属の使用量を最小限に抑えることです。例えば、次世代のAEL用電極では、先進のニッケル系触媒コーティングによって三次元の反応面を形成するニッケルフォームが注目されています。PEM型水電解装置の主な優先事項としては、新規触媒の開発によって負極で必要なイリジウムの量を減少させることです。PEMとSOECのいずれの技術においても、膜電極接合体(MEA)の製造におけるイノベーションを通じて電極構造を改良することが重要な焦点となっています。AEM型水電解装置の分野は規格化が進んでおらず、今なおメーカー各社がさまざまなセル構造の実験を続けています。
 
バイポーラプレートの製造や被膜では、コスト削減が最重要課題
 
バイポーラプレートの製造は、PEM燃料電池業界のイノベーションから大きな恩恵を受けています。基本的な工程が非常に似ていることから、効率性と精度に優れ、自動化されたロールツーロール方式の生産工程から得られた知識・技術は、現在は水電解装置の製造にも転用され始めています。従来のスタンピングやハイドロフォーミング以外にも、複雑な流路設計の精度をさらに高めることを目的に、光化学エッチングをはじめとする代替手法を開発している企業もあります。
 
正極側に金、負極側にプラチナを必要とするPEM型水電解装置をはじめ、バイポーラプレートの被膜は主なイノベーション領域の1つとなっています。従来のめっき法は無駄が多くなる場合があるため、現在では、こうした貴金属をより効率的に塗布する先進の蒸着技術を提供し、消費量とコストを抑える企業が多くなっています。
 
流れと安定性を向上させた輸送層
 
ガス拡散層(GDL)と多孔質輸送層(PTL)は、AEL、AEMEL、PEMELの各装置に不可欠な部材となっています。ニッケルフォームなどの先進のPTLがAELに採用されるようになったのはごく最近のことですが、PEM型水電解装置では、かなり前からカーボンペーパーのGDLやチタン繊維フェルトのPTLが利用されてきました。イノベーションの主な焦点としては、機械的特性の最適化によるスタック内の長期的安定性の向上、流体の流れの改善するための傾斜気孔構造形成、全体的な厚みの抑制、金属製PTLに施す貴金属被膜の削減などが挙げられます。
 
また、アルカリ水電解装置やAEM型水電解装置のメーカー各社は、多孔質輸送電極(PTE:電極とPTLを組み合わせて1つの部材にしたもの)という新たなコンセプトの実験を行っています。この一体型設計では、スタックの効率向上がすでに実証されているため、将来のスタック設計において、この革新的な手法の採用が進んでいく可能性があります。
 
まとめと展望:継続的なイノベーションによって成長を続ける数十億ドル規模の部材市場
 
IDTechExは、水電解槽の部材市場が2036年までに年間100億ドルを超える規模になると予測しています。
この大きな成長は、グリーン水素プロジェクトの本格化や商業的成熟に伴い、水電解装置に対する需要の急増に牽引されています。水電解装置分野には継続的なイノベーションから恩恵を受けてきた長い歴史があり、この傾向は今後も続くとされています。本記事でも解説しているように、比較的成熟の進んだ部材の分野であっても、まだ改善の余地があるのです。イノベーション、主要企業、企業事例、今後の10年間の部材市場に関する詳細な分析は、調査レポート「グリーン水素製造用材料 2026-2036年:技術、有力企業、予測」でご確認ください。

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