ペロブスカイト太陽電池の商用化:耐久性への懸念の克服

Factors causing the degradation of perovskites and the methods to overcome them
市場に出回っているシリコンソーラーパネルの寿命は一般的に20~25年とされており、競合する太陽電池(PV)技術にとってのベンチマークとなっています。同じ土俵で勝負するには、代替ソリューションのPVが同等の寿命を持つことを実証しなければなりません。その中でもペロブスカイトPVは、効率性と製造プロセスのスケーラビリティが高く、材料コストも比較的低いことから、業界では大きな関心を集めています。しかし、耐久性に課題があり、長らく商用化には至っていませんでした。現在、パイロットプロジェクトや小規模商業プロジェクトとしてペロブスカイト太陽電池のプロジェクトがいくつか進行中で、多くの企業がPVパネルの寿命を10年以上延長しており、目標である25年に徐々に近づいています。このようにペロブスカイトPV素子の長寿命化が進んでいる背景にはどのような材料の進歩があるのでしょうか?
 
IDTechExは、調査レポート「ペロブスカイト太陽電池市場 2025-2035年:技術、有力企業、トレンド」の中で、ペロブスカイト市場全体を調査し、商業的な普及を後押しする材料トレンド評価とともに、新たな技術の重要な分析をしています。単接合ペロブスカイト、ペロブスカイト/シリコン・タンデム型、オールペロブスカイト・タンデム型を含む主要なペロブスカイト太陽電池技術のベンチマーク評価と、20社以上の市場プレイヤー評価とともに、詳細な10年間の市場予測を提供しています。ペロブスカイト太陽電池市場は、大幅な成長が予測されており、2035年までに市場全体の年間売上高は、ほぼ120億米ドルに達する規模になると見込まれています。
 
ペロブスカイトの劣化要因とその克服法。出典:IDTechEx
 
運用環境下で、PVモジュールは強い太陽光や湿気、雨、さらには過酷な気象条件に常にさらされます。長期にわたり性能を発揮し続けるには、ソーラーパネルの劣化を最小限に抑えながら、過酷な環境に耐えられるようにしなければなりません。これまでペロブスカイトPV素子は、大気条件にさらされた場合の安定性に問題があり、そのことが市場普及の妨げとなり、信頼性への疑念を生んでいました。しかし、材料科学の進歩によってペロブスカイトPVの耐久性は大きく向上し、商用化への道が開かれようとしています。
 
ペロブスカイト太陽電池の劣化は、内因的劣化と外因的劣化に分類されます。内因的劣化が材料の欠陥やイオンマイグレーションに起因するのに対し、外因的劣化は熱、湿気、酸素、紫外線などの環境要因によって生じます。いずれの場合も劣化はセルの電子的特性や光学的特性に深刻な影響を及ぼし、化学的な変質やペロブスカイト薄膜の構造変化を引き起こす可能性があります。
 
長期的な耐久性を高めるべく、研究者たちは材料工学を通じて内因的な安定性を向上させることに重点的に取り組んできました。その中には、イオンマイグレーションへの耐性と結晶安定性の向上、欠陥密度の低減のために化学組成を変えることも含まれます。AサイトカチオンかXサイトアニオンのいずれかで合金化すると、ひずみやゆがみの軽減や、材料のバンドギャップの微調整が可能です。こうした改良によって安定性は向上するものの、光学特性が変わり、光吸収力が弱くなる可能性もあります。材料の安定性と性能の両立は極めて重要ですが、このトレードオフを最小限に抑えるソリューションとなるのが外部封止です。
 
高い電力変換効率(PCE)を維持しつつペロブスカイトPVの耐久性を高める戦略として、高品質の封止は依然として最も効果的です。シリコンソーラーパネルで使用される方法として定着しているガラス・ガラス封止は、セルを2層のガラスの間に密封することでしっかりと保護します。この手法は特にリジッド型のペロブスカイトとシリコン系のタンデム型太陽電池に適しており、従来のシリコンソーラーパネルで使用した場合に数十年の予想耐用年数がすでに実証されています。封止材の正確な詳細については公表されていませんが、タンデムPVなどの企業が数十年の予想耐用年数に相当する耐久性をラボレベルで実証したことが報じられており、オックスフォードPVのタンデム型ソーラーパネルも、IECによる主要な信頼性試験すべてに合格したことが伝えられています。
 
フレキシブルな薄膜素子を実現することを目的にポリマー封止材や先進の薄膜封止材が用いられる場合があります。ポリマー封止材は広く研究されており、OLED素子では商用利用も進んでいます。エチレン酢酸ビニル(EVA)はシリコンモジュールの封止材として広く使用されていることから、太陽電池業界で最も一般的な封止材となっています。EVAは安価で光透過率にも優れていますが、時間の経過に伴い化学副産物である酢酸が放出されることで、効率が低下する恐れがあるとされています。また、その水蒸気透過度(WVTR)もペロブスカイト太陽電池で使用するには高すぎるため、水が浸入してセルの劣化を招くと考えられています。ポリイソブチレン(PIB)やブチルゴムなどの代替ポリマーは、あまり広く研究されてはいませんが有望視されています。
 
薄膜封止は、フレキシブル素子の製造における新たな選択肢です。薄膜封止材には、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化ケイ素、窒化ケイ素などがあります。こうした材料は、すでに試験を経て既存のOLED生産設備で対応可能であることがわかっており、ペロブスカイトPV生産のスケーラビリティの向上を後押しします。
 
急速に発展する技術環境においても、20年~25年の寿命は必要なのでしょうか?住宅用シリコンソーラーパネルの一般的な投資回収期間は、20~25年の寿命に対して8~12年です。投資回収期間が技術の寿命よりもずっと短いのであれば、ペロブスカイトの耐久性はそれほど問題にはならないのかもしれません。パワーロールなどの企業が、シリコンソーラーパネルと比べて製造コストを大きく抑えるロールツーロール方式に対応した斬新な素子構造を開発しています。そのモジュールの予測寿命は10~15年とされており、同社が投資回収期間として2~3年を目標としていることから、急速な進歩を遂げている技術市場にとって魅力的な選択肢となっています。
 
結局のところ、ペロブスカイトの安定性は、今まで考えられていたほど商用化を制限するものではないかもしれません。ペロブスカイトPV製品は、すでにいくつか市販されており、市場のさらなる拡大も目前に迫っています。ペロブスカイト太陽電池の最新材料トレンドや製品発売予定企業の評価に関する詳細情報は、IDTechExの調査レポート「ペロブスカイト太陽電池市場 2025-2035年:技術、有力企業、トレンド」をご覧ください。

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