電子用途でのグラフェン:小さな素材で大きな効果
2025年10月28日
Dr Conor O'Brien
グラフェンは、SF映画に登場するような次世代技術を実現する驚異の素材であると言われてきました。本記事では、そうした進展が未だ見られない理由や、家電製品でグラフェンが収めてきた具体的な成功例、そして次世代電池でのグラフェンの潜在的な役割について考察します。
グラフェンは当初、エレクトロニクス、量子デバイス、未来のセンサーに変革をもたらすSF的な素材として称賛されていましたが、高まる期待とは裏腹に、商業化での実際の成果はもっと地味なものでした。透明な電話機や浮上式鉄道を実現する代わりに、グラフェンはまず、タイヤやコーティング、スポーツ用品に含まれる高分子複合材料(ポリマーコンポジット)の強度と導電性を高めるという実用的な役割で成功を収めました。今では、製造分野で進展が見られたこと、大手エレクトロニクス企業やエネルギー企業から新たな関心が寄せられていることから、「かつて期待されていたようなブレイクスルーの時代がついに到来するのではないか?」という議論が再び湧き上がっています。
IDTechExは2012年からグラフェン市場を調査しており、技術進歩、商業化戦略、素材の長期的な市場展望について独自の視点を提供してきました。新しい調査レポート「グラフェン&2D材料 2026-2036年:技術、市場、有力企業」では、90社以上の主要企業のプロファイルに基づいた詳細な10年間のグラフェン市場予測を掲載しており、グラフェンの多くの最終用途市場に関する広範かつ徹底的な分析を行っています。
グラフェンは卓越した熱伝導性を持ち、デバイスの冷却性と信頼性の向上に活用できることから、熱管理を目的にした家電製品での利用が広がっています。パッシブ材料としてだけでなく、比表面積と導電性の高さから、特に次世代電池やスーパーキャパシタなど、充電の高速化や長寿命化が求められるエネルギー貯蔵用途でも有力な候補となっています。
材料要件
CVD(化学気相成長法)で作製された純粋なグラフェンは卓越した電子特性を備えていますが、コストが高くスケールアップも複雑です。そのため、用途の大半が高性能センシングに占められています。熱管理フィルムやバッテリー添加剤などの他の用途では、多くの場合、単原子層のグラフェンではなく、グレードの低いバルクグラフェンを材料として使用できるからです。
IDTechExでは、熱管理用途がグラフェン普及の初期段階で主要な分野であると考えています。今需要が高まっている高性能ヒートスプレッダは、グラフェンの特性と形態が大きく活かされる用途です。炭素材料の熱伝導率は金属よりも高くなる傾向があり、酸化グラフェン(GO)については、熱伝導率が3,000 W/mKを超えると発表されています。グラフェンのような異方性材料の場合、厚さ方向に配向させることが熱効率の高いシステムを実現するための鍵となっており、それにより材料の使用量を最小限に抑え、コスト節減を図ることができます。配向の手法としては、使用材料に応じて、機械的手法や誘電泳動など数多く存在しています。熱伝導性を高めるために必要な配向は、グラフェン分散液を導電性インクとして使用する場合など、グラフェンの導電性を利用する用途でも同じく必要です。

今後10年間のグラフェンの電子用途での重要性の高まりについて。出典:IDTechExレポート「グラフェン&2D材料 2026-2036年:技術、市場、有力企業」
家電製品では中国がリード
ここ数年、グラフェン分野のリーダーは中国へと移りつつあります。この流れは、投資額や特許出願動向、学術出版、グラフェン企業の数と規模(少なくとも公称規模では)など、複数の指標に現れています。有力企業としては、シックス・エレメント、リーダーナノ、SCFナノテックなどが挙げられます。
スマートフォンの高性能化が進むにつれ、中国の大手スマートフォンメーカーでは、グラフェンを使用した熱対策の導入が進んでいます。これらのメーカーでは、グラフェンを局所的なヒートスプレッダや大面積ヒートスプレッダとして、あるいはベイパーチャンバーに取って代わる新たな選択肢として、さまざまな用途で使用しています。ベイパーチャンバー(VC)技術などの冷却システムは、蒸発と凝縮を利用して電話機内の部品から放熱させて熱管理を行うことで、過熱防止や性能向上、バッテリーの長寿命化を可能にしています。ファーウェイは、Mate X6にグラフェンシートを組み込むことでこのコンセプトを一歩先に進めています。リアルミー、ZTE、シャオミ、ワンプラスといった大手スマートフォンメーカーも、各種放熱技術にグラフェンを使用していることを発表しています。
グラフェンヒートスプレッダは、ゲーミング用ノートPCやモニターなどの家電製品にも採用されており、エイサー、ビューソニック、サムスンディスプレイがこの分野に力を入れています。ヒートスプレッダ以外では、ヘッドフォンにもグラフェンが採用され始めています。ヘッドフォンを使用したプレーヤーからは、ヘッドフォンのドライバーユニットがグラフェンでコーティングされて振動が低減することで力強い低音が実現し、中高域の音の広がりが感じられるようになったと感想が伝えられています。LogitechやLGなどの有名ブランドがグラフェンで性能を高めたヘッドセットを発売しており、その多くはグラフェンを売りにしたハイエンドモデルのヘッドセットです。一方、フィリップスではこのような流れとは逆行し、グラフェンでコーティングした40mmドライバー搭載の中価格帯モデルH8000Eを2025年1月に発売しています。
グラフェンはエネルギー貯蔵分野で成功を収めるか?
「グラフェンバッテリー」という用語は広く誤用されています。実際には、グラフェンは価格、形態、性能を基に選択される複数の導電性添加剤のうちの1つであり、電極や集電体、パックなどのレベルでの使用が想定されています。現時点でグラフェンは、商業用リチウムイオンセルにはほとんど使用されていません。成果を上げているのは、主にCレートの高い消費者向けデバイス用途だけです。一方、カーボンナノチューブは最新の正極配合物としてすでに定着しており、リチウムイオン電池向けのサプライチェーンも確立されています。
今後を見据えると、エネルギー貯蔵分野でのグラフェンの絶好の機会は、商用規模の拡大が見込まれているシリコン負極など、次世代技術を実現することにあります。しかし、競争が激しく資金が潤沢な分野では、効果的な導電ネットワークを提供できる選択肢が数多く存在しており、その中でグラフェンは競合品の1つに過ぎません。グラフェンがシリコン負極を実現できるようになれば、グラフェンは材料市場において力強く著しい成長を遂げる可能性があるでしょう。
グラフェン市場や、18の異なる用途分野についての10年予測を含む詳細情報については、IDTechExのレポート 「グラフェン&2D材料 2026-2036年:技術、市場、有力企業」をご覧ください。該当ページからサンプルページがダウンロードできます。IDTechExの最新調査レポートは、こちら でご覧いただけます。
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