全固体電池の商用化:量産化の実現

Solid-state battery forecast 2025-2035 by application
全固体電池(SSB)は従来のリチウムイオン電池より数多くの優れた長所を持ち、エネルギー貯蔵(ES)における革新的なイノベーションとして期待されています。エネルギー密度が高いため、大容量ながらも小型かつ軽量なバッテリーが実現し、電気自動車(EV)、家電製品、eVTOL(電動垂直離着陸機)・ドローン、ロボティクスに最適なソリューションを提供しています。また、可燃性液体電解質を使用しないため、長寿命や急速充電、高い安全性が特長です。こうした長所を併せ持つことから、SSBは次世代バッテリー技術の要とされており、IDTechExは調査レポート「全固体電池とポリマー電池 2025-2035年:技術、予測、有力企業」の中で、エネルギー貯蔵に依存する業界を一変させる可能性を秘めていると分析しています。
 
全固体電池の用途別予測 2025-2035年(マーケットバリュー)。出典:IDTechEx
 
世界的な商用化の進展
 
材料科学の進歩、戦略的パートナーシップ、政府の支援が追い風となり、ここ数年でSSBの商用化に向けた動きは大きく勢い付いています。クアンタムスケープやソリッド・パワーなどの企業では、パイロット生産ラインを立ち上げて製造工程の改良に取り組んでいます。例えば、クアンタムスケープはリチウム金属SSB技術のスケールアップに進展があったことを発表しており、またソリッド・パワーではEV専用セルの開発を目的としたプレパイロットラインを稼働開始させています。トヨタやフォルクスワーゲンをはじめとする大手自動車メーカーもSSBの研究に多額の投資を行っており、トヨタはSSBを動力源とするEVを2027年までに発売する予定です。
 
商用化を加速させる上で、世界的に政府は重要な役割を担っています。アメリカでは国家青写真計画(U.S. National Blueprint)において生産目標を設定してSSBのイノベーションを推進しているのに対し、インフレ抑制法(IRA)は税額控除とサプライチェーンへの支援を通じてアメリカ国内での製造と導入を奨励しています。日本ではコンソーシアムであるLIBTEC(技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター)がSSB技術のイノベーションを推進しています。一方韓国では、大手バッテリーメーカー(SKイノベーション、LG化学、サムスンSDI)が共同で次世代バッテリーの研究を進めています。ヨーロッパでも、グリーンディールの目標達成に向けた持続可能な材料調達やリサイクルを中心とする取り組みにより急速に進展しています。
 
こうした取り組みは、生産のスケールアップを目的としたパイロットラインやギガファクトリーへの民間セクターによる投資によって推進されています。
 
例えば、ブルーソリューションズは長年にわたりポリマー系SSBを製造しており、EV向けSSB製品を提供しています。プロロジウムテクノロジーでは、2024年以降、台湾桃園にある世界初の全固体リチウムセラミック電池のギガファクトリーから、固体電解質の湿式連続塗布プロセスなど革新的な製造技術を活かして自動車メーカーに製品を供給しています。また、この工場では組立所要時間の半減とコスト削減に成功したことで、同社初期の工場と比べて2.6倍となる生産効率を達成しています。サムスンSDIは韓国の水原にある研究開発センターに「S-Line」というパイロット生産ラインを立ち上げ、正極や固体電解質の生産システムなど全固体電池の先端技術の開発を重点的に行っています。同社は、まだパイロット段階ではあるものの、2027年までに全固体電池の量産開始を計画しています。アイオン・ストレージ・システムズは、2024年に同社初のパイロット生産ラインをメリーランド州で稼働開始しました。当初のバッテリーセル生産能力は1MWhでしたが、2025年初めまでには10MWh、2028年までには500MWhに拡大することを目指しています。これは、同社の負極レス技術が製造工程の簡素化を可能にするためです。ソリッド・パワーはコロラド州でロールツーロール方式の生産ラインを稼働させ、全固体リチウム金属電池のプロトタイプを生産しており、現在はBMWなどの戦略的パートナーによるプロトタイプの検証実験が行われています。ソリッド・パワーはスケールアップを通して2030年までにフル稼働での量産化の実現を目指しています。ヒョンデは全固体電池のデモ生産ラインを構築中です。2025年までにそこで生産した電池を搭載した電気自動車の試作計画を立てており、さらに2027年までには一部量産を開始し、最終的には2030年の本格稼働を目指しています。
 
技術革新のペースが速いことから、障害の多くはこの10年以内に解決されるかもしれません。
 
サプライチェーン再編への影響
 
SSBの商用化は、世界のサプライチェーンに大きな影響を与えることになるでしょう。従来のリチウムイオン電池は東アジアでの生産が大半を占めており、日本、中国、韓国が重要な役割を担ってきました。近年は欧米諸国がこの競争に加わり始め、東アジアの生産拠点としての付加価値を手放し、需要先となる市場近くにバッテリー生産拠点を移転させています。新しい材料・部材の選定や製造手順の変更に伴い、リチウム金属負極、シリコン負極、固体電解質などのバッテリーサプライチェーンの再編が求められています。技術面でもビジネス面でも、全固体電池の開発は次世代バッテリー戦略の一部となっており、地域的な利害関係や政府の支援を伴う、グローバルなゲームとなっています。今後、新しい素材・コンポーネント・システム・製造方法・ノウハウなどにさまざまな機会が与えられるでしょう。
 
リサイクルはこうした課題を軽減する上で重要な役割を担うことになります。EVの普及が進む中、使用済みバッテリーが新品のSSBを生産するための貴重な再生材供給源となるでしょう。持続可能なサプライチェーンを確保するには、政策立案者と業界リーダーが協働して堅固なリサイクルインフラと規制を整備しなければなりません。
 
IDTechEx発行の調査レポート「全固体電池とポリマー電池 2025-2035年:技術、予測、有力企業」では、全固体電池の研究開発、商用化、展開について、技術のベンチマーク評価・分析、市場の規模・予測、参入企業の活動の追跡・評価、サプライチェーンの構築・セキュリティなどの内容についてご覧いただけます。
 
本調査レポートの主な要点:
  • リチウムイオン電池の概要、全固体電池技術、分析、ベンチマーク評価
  • 技術、製造タイムライン、ロードマップ
  • 製造方法
  • 市場分析と予測
  • コストとエネルギー密度分析
  • 全固体電池の「誇大宣伝」と「期待」の分析
  • 参入企業活動の追跡と評価
  • サプライチェーン分析
  • 規制とリサイクル

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