建設機械の電動化で分かれるバッテリー選択

Dr James Jeffs
建設業界における電気自動車の成功は、バッテリー価格がディーゼル車よりも安く、総所有コストが十分に低くなることが大きな決め手となるでしょう。IDTechExの調査レポート『建設機械の電気自動車 2023-2043年』では、バッテリー価格にはEVを利用した方が車両寿命を通じて割安になる転換点があることを示しています。その時、適切なバッテリーケミストリーを選択することが車両価格を低く抑えるために極めて重要です。では、中国と欧州で導入予定のバッテリーが明らかに二分化しているのはなぜでしょうか?
 
バッテリーケミストリーと地域別利用可能な車両数。 Source: IDTechEx
 
建設用途の電気自動車は新しい市場です。IDTechExは7つの異なる建設車両カテゴリーで、100以上のメーカーとモデル例のデータベースを構築しました。ところが、車両の多くはまだ発売前であるため、バッテリーケミストリーを確認できるデータベースは49件にとどまります。欧州と中国はEV建設車両の市場としてより確立されており、この2地域におけるメーカー各社のバッテリーケミストリーはすでに明らかになっています。この初期段階で明らかなのは、欧州がNMCを強く支持しているのに対し、中国はLFPを選択している点です。
 
建設車両におけるバッテリーの要件
 
一体なぜNMC、LFP、あるいは鉛蓄電池が選ばれるのでしょうか?建機の電動化は魅力的で、微妙な意味合いを持つテーマです。バッテリーの優先事項は、低コストかつ大容量であることです。大型建機の場合、大型荷重を扱うコンクリート製カウンターウェイトが必要になることも多く、バッテリー重量は大した問題ではありません。出力密度についても、優先度は高くありません。EV乗用車とは違い、建設車両の場合、電力消費量の急増はあまり見られず、長時間安定したペースで稼働することが多いのです。一例として、テスラ モデルSは約60kWhのバッテリーを搭載し、約210kWのモーター出力を実現しています。つまり、バッテリーに最大3.5C(出力÷容量)を出す能力が必要になるということです。これは路上走行車の一般的な要件です。したがって路上走行車では、NMCのような出力密度の高いバッテリーケミストリーが好まれるのです。一方、ボルボ L25 エレクトリック(電動小型ホイールローダー)はバッテリー容量が40kWh、モーターの最大出力が36kWであるため、バッテリーの放電は最大0.9Cで済み、路上走行車に求められる水準を大きく下回っています。
 
これは大型建設車両にも同じことが当てはまります。XCMG XE270Eは、525kWhのバッテリー容量を備える27トンの大型掘削機ですが、そのモーター容量はわずか140kW(約0.27C)です。実際のところ、IDTechExの調査レポート『建設機械の電気自動車 2023-2043年』で示している通り、電動建設車両の大半は最大放電レートの要件が1C未満であり、さらに車両の4分の1では、必要な最大放電レートが0.25C未満となっています。
 
Distribution of discharge requirements in electric construction vehicles. Source: IDTechEx
 
要求される最大放電レートが低ければ鉛蓄電池でも対応可能です。建機電動化の動きが始まった直後に鉛蓄電池がつかの間でも注目を集めたのはおそらくこのためでしょう。鉛蓄電池を使用した欧州の事例は主に2010年代半ばのものです。その当時、リチウムイオン技術はまだ規模拡大を図っている段階で、鉛蓄電池よりもはるかに高価でした。しかし、このような車両は、耐久性の低さや充電所要時間の長さなどの大きな制約を抱え、決して使い勝手のよいものではなかったのです。鉛蓄電池はリチウムイオン電池の採算性向上とともに取って代わられてました。
 
NMCとLFPはどちらも建設作業に必要な性能を満たしているうえ、最大放電レートの要件にも対応しています。また、いずれの場合も建設機械搭載用として必要な高体積密度と重量密度を備えています。大まかに言えば、NMCはLFPと比べ、エネルギー密度と出力密度が優れているなど、バッテリー性能が向上する傾向ですが、同時に価格も上昇する傾向があります。以上の理由から、建設業界がLFPを選択するのは理にかなったことと言えます。LFPを採用することで、必要なすべての性能を実現しつつ、電動建設車両にとっての最優先事項であるEV製造時のコストを最小限に抑えることができるのです。では、なぜ欧州市場ではNMCが主流なのでしょうか?
 
なぜ欧州ではNMCが、中国ではLFPが優勢なのか?
 
最も適切な説明は、入手可能性の問題です。これまでの電気自動車開発のほとんどは、Northvolt、Forsee、Voltaなどのバッテリーパックサプライヤーを使用しており、彼らの製品のほとんどはNMCを使用しています。メーカー各社は、バスやトラックといった大型路上走行車を含む、さまざまな業界向けに供給を行ってきました。これらの車両は、加速時や登坂時に対応するために最大出力が非常に高くなり、NMCの方が適していると考えられます。欧州で主にNMCが選択されてきたのはこれが理由であるとIDTechExは推測しています。しかしながら、電動建設車両の成功においてはバッテリー価格が重要な要素となるため、将来的にはLFPの普及が拡大することになりそうです。
 
一方中国では、すでにLFPがバッテリーケミストリー選択肢の主稜となり、LFP用電解液の供給力が十分に備わっています。これは、車両が急速に電動化され、許容可能なエネルギー密度(車両航続距離)を提供し、車両を手頃な価格に維持できる安価なソリューションが必要とされたためです。一方、欧州と北米のEV市場は、車両の航続距離を最大限に伸ばすことに注力しているため、高価なNMCを選択し、価格が割高になるとしても、消費者は満足するのではないかと考えています。これは中国の電動建機業界にとっては朗報です。というのも、超大型バッテリーを短期間で製造し、先に述べたXCMGのような大型機械を導入できているからです。
 
残念ながら、北米やアジア太平洋を拠点とするメーカーがどのバッテリーケミストリーを好むかに関するデータは十分ではありません。その主な理由は、この地域ではメーカー各社が電動化の旅を始めたばかりだからです。北米はその典型例で、業界大手のCATとジョンディアは、bauma 2022、CES 2023、CONEXPO 2023において電動建設車両を紹介するなど、最近になって力を入れ始めています。ただし、実際に生産されるのはまだ数年先のことであり、バッテリーケミストリーについてもまだ不明です。とはいえ、経験に基づけば、CATも欧州と同様の理由でNMCを使用することになると推測できます。
 
ナトリウムイオン、将来の候補?
 
建設業界でのもうひとつの候補はナトリウムイオンです。これは新たなバッテリーケミストリーであり、市場もいまだ確立されてはいません。知っておくべきことは、ナトリウムイオンバッテリーの電解液はリチウムバッテリーの電解液よりも安価に製造できるが、性能は同等ではないということです。この点で、LFPと共通しています。問題は、これらのソリューションはそれほど普及が進んでいないため、LFPとNMCよりも高価で、性能も劣るという点です。よってナトリウムイオンバッテリーの導入は、建設業界においては今のところ意味をなしません。しかし、普及が進んで価格が下がれば、この微妙な意味合いを持つ市場のニーズに最も合うものになる可能性もあります。
 
建設EV車両市場はまだ始まったばかりで、量産されている車両はほとんどありません。しかし、最近の動きや発表を信じるならば、今後数年で利用可能な機械の数は爆発的に増えるでしょう。IDTechExの調査レポート『建設機械の電気自動車 2023-2043年』では、10年間のCAGRが37%と予測し、電気建設機械産業は2043年に1,500億米ドルの規模に成長するとみています。NMC、LFP、あるいはNaイオンであろうと、この業界の進化は電撃的なものになるでしょう。
 
IDTechExの調査レポートは、
・アイディーテックエックス株式会社 (IDTechEx日本法人) が販売しています。
・IDTechExからの直接販売により、お客様へ各種メリットを提供しています。
・ご希望の方に、サンプルページ 送付します。
・オンラインでの試読については、ご相談ください。
・その他、調査レポートに関する、質問、購入に関する問い合わせは、
 下記担当まで。見積書、請求書も発行します。
 
問合せ先
アイディーテックエックス株式会社
東京都千代田区丸の内1-6-2 新丸の内センタービル21階
担当:村越美和子  m.murakoshi@idtechex.com
電話 : 03-3216-7209
 
IDTechExは、調査、コンサルタント、サブスクリプションを通して、戦略的なビジネス上の意思決定をサポートし、先進技術からの収益を支援しています。IDTechExの調査およびコンサルティングの詳細については、IDTechExの日本法人、アイディーテックエックス株式会社まで、お問い合わせください。