2035年までに29億ドルの市場機会が予測される『イオン交換膜』

Established and emerging applications of ion exchange membrane materials
イオン交換膜材料は、輸送セクターの脱炭素化やエネルギー生成・貯蔵など数多くの技術に不可欠な要素として急成長を遂げており、注目されています。イオン交換膜材料は、イオン選択透過性に優れた特殊導電性ポリマーフィルムであることから、一般的に電気化学セルの固体電解質や積層セパレータとして使用されています。IDTechExは、調査レポート「イオン交換膜 2025-2035年:技術、市場、予測」の中で、グリーン水素製造、水素燃料電池、レドックスフロー電池技術の成熟された用途により、イオン交換膜市場は2035年までに年間29億ドルの売上を超える規模に成長すると予測しています。
 
これまでイオン交換膜技術は、化学製品製造や水処理を目的に電解槽や電気透析装置に応用されてきました。2025年現在、イオン交換膜はグリーン水素や定置型エネルギー貯蔵、二酸化炭素回収・有効利用を目的とした多くの電気化学技術の主要材料となっています。材料設計や製造革新、今後10年の市場を形成する新用途での需要拡大により、イオン交換膜市場は大きな変化を迎えようとしています。
 
IDTechExは、イオン交換膜市場が2035年までに29億ドルを超える規模になると予測。出典 IDTechEx
 
イオン交換膜材料の選択肢:多様だが集約的
 
優れた化学・機械的安定性を誇り、高温や腐食性の用途でも性能を発揮できることから、市場ではペルフルオロアルキルスルホン酸塩(PFSA)系カチオン交換膜(CEM)が優位性を保っており、2025年時点ではPFSA系イオン交換膜が世界のイオン交換膜需要の85%以上を占めています。
 
ナフィオンなどのプロトン交換膜(PEM)は現在も水素燃料電池技術に使われている材料ですが、輸送用途において出力密度や効率の最大化のためには、さらなる薄膜化が必要です。これを実現すべく、多層構造(PTFEなど)や複合材料(織物支持体)を用いた次世代強化膜が登場してきています。強化膜は膜厚を5~10µmまで薄くする上で必要な機械的安定性を備えています。燃料電池用途では、超薄型イオン交換膜によって燃料電池スタック内に組み込めるセルの数が増え、性能の向上が実現しつつあります。
 
PFAS(ペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物)系膜に対する懸念が高まり、規制が厳しくなる中、代替の炭化水素系イオン交換膜が市場に革新をもたらす機会が広がっており、PFASフリーのイオン交換膜材料として、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの多環式化合物が新材料として浮上してきています。炭化水素系イオン交換膜については、スタートアップ企業による開発の動きがここ10年で目立ってきており、その多くは水素燃料電池、水電解、レドックスフロー電池の用途に焦点を当てています。IDTechExの調査レポート「イオン交換膜 2025-2035年:技術、市場、予測」では、組成、複合材設計、製造、主要ターゲット市場におけるイノベーションを含む、新たなイオン交換膜材料を評価しています。
 
成熟したイオン交換膜市場での成長の焦点は持続可能性によって変化
 
化学製品製造・加工や水処理の用途はイオン交換膜にとって一大市場であり、電気透析、電気分解、脱イオン化に非常に多く用いられています。こうした成熟市場では、持続可能性がイオン交換膜技術やそれを組み込んだシステム開発を後押しするキートレンドとなっています。
 
薄膜化されたイオン交換膜により、クロールアルカリ(NaOH/Cl2)の製造で広く使用されている水電解装置スタックやその他の酸塩基抽出回路においてエネルギー効率の向上が図られつつあります。IDTechExでは、塩分解によるバッテリーグレードの水酸化リチウムの生産も、pH安定性の高いイオン交換膜材料が望ましいとされる電解槽技術にとっての成長市場であると位置付けています。また、水処理分野においては、半導体製造での水消費量が2035年までに倍増する見込みであることから、電気脱イオン化・電気脱塩技術に使用される膜の需要が着実に伸びていくと予測しています。
イオン交換膜材料の確立された用途と新たな用途。出典:IDTechEx
 
イオン交換膜はグリーン水素技術に不可欠な高価値材料
 
水素燃料電池とグリーン水素製造用水電解装置では、水素イオン(H+)や水酸イオン(OH-)の選択透過にイオン交換膜が利用されており、最適な材料として台頭してきていることから、グリーン水素製造用途と輸送用途が2035年までに最も急成長するイオン交換膜材料市場であるとIDTechExは見ています。
 
グリーン水素製造においては、アニオン交換膜(AEM)とプロトン交換膜(PEM)の双方に多くの機会をもたらすのが水電解です。PEM型水電解装置(PEMEL)は商業的に最も成熟した技術であり、この分野では、イオン伝導性に優れていて化学・機械的に安定していることから、PFSA系のPEM(ナフィオンなど)が大きな市場シェアを持っています。
 
低コストの触媒材料を使用するAEM型水電解装置(AEMEL)は進化した電解槽技術として有望視されており、この装置に付随してPFASフリーの炭化水素系膜にも大きな成長の可能性が生まれています。新興の膜サプライヤー各社は、AEMELへの組み込み用としてPBI系膜やアンモニウム官能基などの高分子膜を供給することで、想定されるPFAS規制に乗じようとしています。IDTechExの調査レポート「イオン交換膜 2025-2035年:技術、市場、予測」では、水電解装置における膜の要件、イノベーション領域、設計トレンドを広範囲にわたって分析しています。
 
バリューチェーンのもう一端では、化学的安定性、機械的強度、イオン伝導性が高いことから、水素燃料電池への採用はパーフルオロ系プロトン交換膜が圧倒的多数を占めています。主な技術革新領域では薄膜化(10um以下)が挙げられますが、これは輸送セクターでの用途で求められる燃料電池の出力密度の向上を実現する上での鍵となるでしょう。水素エネルギー社会の本格化が進むとともに、プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)も燃料電池電気自動車(FCEV)市場の拡大に合わせて成長すると見込まれています。
 
レドックスフロー電池、二酸化炭素回収・有効利用におけるイオン交換膜の可能性
 
脱炭素化は、レドックスフロー電池や二酸化炭素回収・有効利用技術におけるイオン交換材料の需要を喚起しています。レドックスフロー電池(RFB)は、遠隔地、オフグリッド、マイクログリッドの各用途向けに定置型エネルギー貯蔵ソリューションを提供する充電式装置です。市販のバナジウムレドックスフロー電池では、電解質溶液を隔てるために一般的にPFSA系カチオン交換膜が使用されています。RFB内のイオン交換膜の開発領域では、スタック全体のコストに大きく占めるイオン交換膜の割合(バッテリーケミストリーによっては30~50%)を減らすことに焦点を当てています。IDTechExでは、亜鉛系RFB(亜鉛臭素など)がイオン交換膜の成長市場であると見ています。亜鉛RFBを用いた場合、そのセル電圧の高さからセルスタックの小型化が可能となり、消費材料の削減だけでなく、最終的にはスタックコストの削減も図れるようになります。
 
膜技術は二酸化炭素回収・有効利用分野での採用が進んでいますが、この市場は未だ初期段階にあります。 CO2電解装置を使用した直接空気回収と双極電気透析を利用した直接海洋回収は、イオン交換膜の新たな成長市場となっています。二酸化炭素の有効利用に目を向けると、PFSA系膜も炭化水素系膜も、C1原料(メタノールやギ酸など)の生産を目的としたプロトタイプの二酸化炭素電解装置での利用が増加傾向にあります。
 
市場展望
 
IDTechExは、脱炭素エネルギーと輸送用途の成長に牽引され、イオン交換膜は2035年までに29億ドルを超える規模になると予測しています。グリーン水素製造用水電解装置、水素燃料電池、レドックスフロー電池がイオン交換膜の代表的な成長市場です。IDTechExレポート「イオン交換膜 2025-2035年:技術、市場、予測」では、化学製品製造・加工、水処理、グリーン水素経済、レドックスフロー電池(RFB)、二酸化炭素回収・有効利用、持続可能な金属加工など、新旧各種のイオン交換膜材料とそれらの市場について包括的に分析しています。また、パーフルオロ系・炭化水素系イオン交換膜材料を対象としたイオン交換膜の10年間の市場詳細予測も提供しており、面積(m2)や重量(トン)、年間収益(単位:百万ドル)など項目別需要もご覧いただけます。

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