フロー電池の新たな戦略

フロー電池の新たな戦略
系統用エネルギー貯蔵(ES)市場では、揚水発電(PHS)とリチウムイオンBESS(バッテリーエネルギー貯蔵システム)が主流となっています。リチウムイオン技術のコスト低下が続いているため、レドックスフロー電池(RFB)など他のエネルギー貯蔵技術やバッテリー貯蔵技術が、放電時間の短い系統用市場に普及するのは難しい状況です。しかし、データセンターや長期エネルギー貯蔵などの新用途では、異なる特性需要があり、RFB開発企業にとって重要なターゲットとなる可能性があります。本記事では、フロー電池開発企業と新用途の今後の戦略と考慮事項について解説します。
 

エネルギー貯蔵技術の導入は、揚水発電(PHS)とリチウムイオンBESS(バッテリーエネルギー貯蔵システム)が主流です。再生可能エネルギー源の普及を支えるためのBESS需要は高まっているものの、リチウムイオンセルの供給過剰は、最終製品としてのBESS技術の価格低下の一因となっており、その結果、他の非リチウムイオン系バッテリー貯蔵技術が系統用エネルギー貯蔵(ES)市場に普及することを困難にしています。とはいえ、リチウムイオン技術は、可燃性の有機電解液を使用する中で安全上のリスクがあり、時間とともに劣化します。また、エネルギーと電力を切り離して設計することもできません。これらの特性は、データセンターや長期エネルギー貯蔵(LDES)など特定の新用途では、実用性を低下させる要因となります。
 
レドックスフロー電池(RFB)などの他のバッテリー貯蔵技術の方がより適している可能性があります。IDTechExの市場調査レポート「レドックスフロー電池市場 2026-2036年:予測、市場、技術、有力企業」 では、RFB開発企業が自社技術の利点を活かしてこれらの用途に展開できれば、2036年までにRFB市場は92億ドル規模に達すると予測しています。
 
データセンター向けフロー電池
 
中期的には、RFB開発企業が自社技術の主要顧客基盤としてデータセンターをターゲットにしていくとIDTechExは予測しています。データセンターでは、MW規模の負荷変動を1分間に複数回管理する必要があり、このような高頻度の充放電をリチウムイオン電池(LIB)で行うと、セルが急速に劣化する可能性があります。フロー電池開発企業によると、深刻な劣化が理由で、導入後わずか6か月でLIBがデータセンターから撤去された事例もあります。データセンター内のLIBの安全性リスクを補償するため、データセンター事業者は保険料を増額される可能性もあります。
 
LIB火災により数百もの行政サービスが停止した韓国の蓄電設備付きデータセンター火災のような事例は、このリスクを浮き彫りにしています。フロー電池は不燃性電解液を使用しており、サイクルが2万回を超えても劣化を最小限に抑えられるため、データセンターへの導入に特に有力な選択肢となっています。
 
実際、スイスのFlexBaseが進めているプロジェクトでは、2GWhを超える規模のRFB技術をAIデータセンターの下部に設置し、系統にも接続する計画です。この構成により、フロー電池は、電力使用量とコストを最適化してデータセンターを支えると同時に、系統柔軟性のある資産としても機能することになります。建設と系統接続は2028年を予定しています。アメリカを拠点とする有機レドックスフロー電池(ORFB)開発企業のエクセル・バッテリーズも、アメリカのプロメテウス・ハイパースケールとともにプロジェクトを進めています。これらは、各種用途向けにフロー電池企業が世界各地で開発を進めている将来のプロジェクトの一部に過ぎません。
 
将来のレドックスフロー電池プロジェクトと有力企業の活動状況。出典:IDTechEx
 
長期エネルギー貯蔵(LDES)向けフロー電池
 
太陽光や風力などの変動性再生可能エネルギー(VRE)源の普及が進むにつれ、これらのエネルギー源からの電力供給が途絶える時間帯をより長く補う必要性が高まります。そのため、6時間以上の貯蔵時間と放電能力を実現するLDES技術への需要は増加すると見込まれます。RFBでは、電解液タンクとスタック部材を別々に拡張することで、エネルギー容量と出力を切り離すことができるため、理論上、貯蔵期間が長くなるほど、ドル/kWhベースでより低コストなシステムを実現できる可能性があります。
 
フロー電池開発企業各社は、長期戦略としてLDES用途をターゲットにしていますが、技術の融資適格性は、依然としてLDES技術の開発と導入に対する主な障壁として残っています。LDES資産の保有者が、その技術を提供するさまざまな電力網サービスや便益に対する報酬を受け取るためには、制度や政策が必要になるでしょう。
 
LDESへの初期需要や支援は、カリフォルニア州とイギリスに集中するとIDTechExは予測しており、この地域では、LDES技術の比較的広範な導入が最初に見られるかもしれません。イギリスのLDES向けキャップ・アンド・フロア制度は、LDES技術事業者の収益が保証される仕組みが導入されており、この制度のプロジェクト第一弾として数百MWh規模のフロー電池プロジェクトが検討されています。
 
フロー電池戦略の見通し
 
短中期的には、安全性やバッテリー劣化の最小化が強く求められるデータセンターなどのC&I(商業と産業)用途が、フロー電池開発企業のターゲットになるとIDTechExは予測しています。放電時間の短い系統用ES市場では、広く実証済みで入手しやすく、安価なリチウムイオンBESS技術が主流であることから、フロー電池開発企業はこうした用途を戦略的にターゲットにする必要があるでしょう。
 
長期的には、LDES技術に対する需要は拡大する見込みです。フロー電池開発企業がそれまで事業運営を維持できれば、エネルギーと電力を切り離してドル/kWhベースでのコストダウンを実現するという大きな強みをフロー電池が真に発揮できる時代が到来する可能性があります。ただし、そのためにはLDES市場で収益性の高いビジネスモデルが確立されることが不可欠となります。それが、技術の融資適格性を高め、商用化を後押しすることになるからです。
 
レドックスフロー電池の用途、プロジェクト、政策・制度、技術、バッテリーケミストリー、ベンチマーク評価、開発企業の市場シェア、材料・部材のイノベーション、フロー電池開発企業への電解液供給契約、10年間の詳細市場予測など、各項目の詳細については、IDTechExの新しい調査レポート「レドックスフロー電池市場 2026-2036年:予測、市場、技術、有力企業」でご確認ください。該当ページからサンプルページがダウンロードできます。
 
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