気候変動に打ち勝つためのキーテクノロジー
2021年4月22日
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毎年4月22日はアースデイとされ、環境保護運動の多様化、教育、活性化を目的とした世界的イベントとなっています。1970年の第1回目のアースデイ以来、世界中の活動家がこの機会を利用し、環境問題に対する意識向上を推進したり、政策の変更を求めて働き掛けしてきました。
今年のアースデイは「地球を修復する」をテーマに、世界の生態系の修復に寄与する自然作用、先進的なグリーンテクノロジー、革新的な発想に焦点を当てたイベントを開催しています。本イベントのクライマックスとなるデジタル イベントのアースデイライブは、アメリカのバイデン大統領主催の気候変動サミットと同時期に開催されます。同サミットには、今年11月にグラスゴーで開催される国連気候変動会議に先駆けて、世界の指導者が一堂に会し、気候変動対策強化の必要性について話し合われます。
テクノロジーは、気候変動との戦いにおいて重要な役割を果たすことができます。電気自動車と再生可能エネルギーが成長し続けていることで、世界の化石燃料からの脱却が進んでいますが、二酸化炭素の回収・有効利用・貯留や、ネガティブエミッション技術などの新興分野は、過去数十年にわたり排出された二酸化炭素を回収してしまえる可能性さえあります。2021年のアースデイを記念して、IDTechExが気候変動との戦いに勝利するために重要だと考えている技術をご紹介します。
電気自動車
電気自動車市場は2020年に急上昇し、前年比40%以上の成長を遂げました。IDTechExは、今後20年間は成長が続くと予想しています。しかし、ここで疑問が生じます。なぜ電気自動車はCOVID-19の影響を受けないのでしょうか?一言で言えば、産業政策です。

Plug-in car includes battery electric and plug in hybrid cars. 出展: IDTechEx調査レポート (「EV: 電気自動車、船舶、航空機 2021-2041年」)
世界の自動車市場における莫大な販売台数(2020年の世界販売台数は約7,800万台:LMC Automotive調査)を見れば、運輸部門におけるCO2排出量のうち、乗用車が最も大きな割合(2018年は45%:IEA調査)を占めていることがわかります。結果として乗用車は、新たな気候目標に取り組むために実施されるグリーン物流政策の重要な部分となっています。産業政策は往々にしてテクノロジーを理解しないまま策定されます。例えば、自動車メーカーは、内燃機関の高効率化から代替液体燃料まで、あらゆる手段の中から排出目標達成のための方法を選択することができます。しかし実際には、バッテリー式電気自動車が、ほとんどのモビリティのセクターにおいて最少のコストで最少の排出量を実現できるソリューションとなるため、行き詰まり状態です。
産業政策は、新型コロナウイルスがもたらす課題に対する電気自動車の成功を説明するものとなっています。2020年の成長の多くがヨーロッパによって推進されたもので、新しい排出目標(1km当たり95gのCO2)に向けて順調に移行する年となりました。プラグイン電気自動車の販売台数は、自動車メーカーがこれらの目標を達成しようと奮闘したことからほぼ2倍になり、中国に肩を並べています。重要なのは、従来の自動車メーカーが電動化計画を強化しているため、ヨーロッパのテスラへの依存度が下がっているということです。フォード、現代傘下の起亜、ジャガー・ランドローバー、 フォルクスワーゲンは皆、2021年の最初の数か月で既に目標を上方修正しています。実際彼らの努力は実を結びつつあり、航続距離が161マイルの街乗り車種であるにもかかわらずe-Upは成功し、最近になり販売台数においてテスラからヨーロッパでのトップの座を奪っています。
同様の政策が世界各地で形になって現れています。中国では、購入補助金から「ダブルクレジット」制度へと移行しつつあります。この制度は、同制度で「新エネルギー車」と定義される車(バッテリー式電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車など)の販売台数が数値目標に満たない場合に、その自動車メーカーに対して罰金を科すというものです。米国では、バイデン政権も排出目標の修正を計画しています。こうした世界中の産業政策によって、今後10年間でバッテリー式電気自動車が主流に押し上げられると思われます。さらに詳しくは、IDTechExの電気自動車関連調査レポート でご確認ください。
持続可能な燃料
各種再生可能エネルギー源の統合も相まって、電化の促進が脱炭素化への最も効率的なルートになります。しかしながら、すべての産業が完全に電化できるわけではありません。その端的な例が航空業界です。航空業界にとって、電化やバッテリー技術が実行可能なソリューションになり得る可能性はほとんどありません。この業界ではまだ当面の間は燃料が必要である可能性が高く、新型コロナウイルスの影響を大きく受けている中でも、持続可能な航空燃料(SAF)が引き続き関心を集めていました。つい最近ユナイテッド航空は、2021年に340万ガロンを法人顧客と共同で購入するプログラムを発表しました。一方トタルは、フランス政府のSAF消費目標に呼応して、フランス国内のバイオリファイナリーでのSAF生産を開始しました。
これらのSAF燃料は持続可能な原料を使用しており、従来のジェット燃料と比較して最大80%のCO2排出量削減を実現できます。現時点では生物由来の原料が使用されています、つまりSAFはバイオ燃料であるということです。SAFの生産には複数のルートがありますが、生産能力の大部分は水素化処理エステル・脂肪酸(HEFA-SPK)の生産に充てられています。IDTechEx では、2025年までにSAF生産能力の85%以上がHEFA-SPK向けになると予測しています。このプロセスでは、植物油や使用済み食用油などの廃油が原料として使用されます。一般的に、廃油の利用は従来の燃料と比較して大幅なCO2削減につながると考えられていますが、土地利用の変化の影響を受けるため、未使用の植物油を使用することで生じる影響はより限定的です。特にパームなどの原料の場合は、炭素ストック量が多く生物多様性の高い地域で栽培されているからです。

出展: IDTechEx調査レポート (持続可能な代替燃料 2021-2031年)
合成燃料「e-fuel」は、バイオ燃料原料の持続可能性に関する懸念を和らげ、バイオ燃料に代わるものとなります。e-fuelは、水電解から生成したH2と、直接空気回収などから得た炭素源を合成したもので、メタノールや合成ガス(CO + H2)などの中間生成物を経て、最終的にドロップイン燃料が生成されます。電解槽メーカーのSunfireと直接空気回収技術を専門とするClimeworksの合弁事業であるNorsk e-Fuelは、再生可能なe-fuelの1,000万リットルの生産能力を擁するパイロットプラントを2023年までに稼働開始させることを目指しています。
e-fuelの主な問題はコストです。電解槽も炭素回収技術も相当なコストがかかります。さらに経済的な生産活動を可能にするには低コストの電力を利用できるかどうかにかかっています。つまり、余剰電力や低コスト電力を利用するために電解槽を動的に稼働させる必要があるのです。一般的に電解槽は動的な稼働には適しておらず、設備コストの高さを考慮すると、理想としては動的ではなくほぼ継続的に稼働させる必要があります。結局のところ、e-fuelの市場はまだまだ黎明期にあり、商業的に採算の合うe-fuelの生産には、電解槽と炭素回収技術の改良が必要になりそうです。
エナジーストレージ(バッテリー)
この10年間で、電力網への太陽光発電と風力発電の接続が大幅に増加しました。しかしながら、変動性再生可能エネルギー源の普及率が高まるにつれて、さまざまな時間枠において需要と供給を継続的に一致させることも一層難しくなります。そこで、エネルギー貯蔵が送電網の安定性を維持し、再生可能エネルギー源を移送可能にするうえにおいて重要な役割を果たすことになるのです。
揚水発電は別として、今日主流となっている定置型エネルギー貯蔵技術はリチウムイオン電池であり、その開発・展開は自動車産業の規模の大きさから恩恵を受けています。IDTechExは、本トピックに関するレポート「リチウムイオン・バッテリー 2020年-2030年」の中で、定置型貯蔵用リチウムイオン電池の市場が、2031年までに500億ドルを超えると予測していますが、リチウムイオンが市場の主流となりそうな状況の中でも、代替技術を求める声が依然として挙がっています。 レドックスフロー電池(RFB) はそのような代替技術の1つであり、一定の関心を継続して集めています。RedFlowは3月に、2MWhの亜鉛・臭素電池の設置契約の締結を発表しました。一方、オーストラリアのバナジウム鉱山開発企業のTNGは、RFB企業V-FlowTechとの間で、バナジウムフロー電池の販売・展開を目的とした合弁事業を開始しました。しかしながら、長期貯蔵となると、リチウムイオンもRFBもコストがかかりすぎる可能性があるため、圧縮空気貯蔵や液化空気貯蔵、重力エネルギー貯蔵などの代替手段すべてに対して検討が行われています。つまり、定置型貯蔵用途としてはさまざまな特性が要求されるということ、そしてバッテリー技術は長期貯蔵においては経済的に採算が取れそうもないため、増え続ける再生可能エネルギーを取り込めるように、多様なエネルギー貯蔵技術が今後10年の間に展開されていくことが予測されるということです。
さらに詳しくはIDTechExのエナジーストレージ(バッテリー)関連調査レポートでご確認ください。
二酸化炭素回収・有効利用・貯留 (CCUS)
二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)または二酸化炭素回収・貯留(CCS)とは、産業排ガスから、あるいは直接大気から二酸化炭素を取り除くのに使用される一連の技術のことです。二酸化炭素は回収後、恒久的に地下に貯留(二酸化炭素貯留)されるか、CO2由来の燃料や建築材料など、さまざまな産業用途に利用(二酸化炭素有効利用)されます。CCUS技術は、気候変動との戦いにおいて重要な役割を果たす可能性が高く、国連ではCCUSが2050年までにCO2換算で年間15~63億トンを削減できると予測しています。

出展: IDTechEx調査レポート 「二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)2021-2040年」
CO2 は、石炭火力発電所などの点排出源から回収するか、直接空気回収(DAC)と呼ばれるプロセスで大気から直接回収することができます。通常、点排出源からCO2を回収する方がはるかに高い濃度で存在するためずっと容易であり、今日のほぼすべてのCCUSインフラでは点源からの二酸化炭素回収が利用されています。点源での二酸化炭素回収により、一か所の排出源からの排出量を大幅に削減することができます。CCUS技術を備えた石炭火力発電所では、エネルギー効率を多少犠牲にしながら、CO2排出量を90%以上削減可能です。点源での二酸化炭素回収は、再生可能エネルギーがまだ発展途上にある間は、脱炭素化が困難な産業にとって、今後数十年間の排出量を減らす上で重要な役割を果たす可能性があります。
点源での二酸化炭素回収とは異なり、DAC技術は直接大気からCO2を取り除くものであり、気候変動への対処に役立ちます。この技術は、点源での二酸化炭素回収と比べると成熟度が低く、加えて現時点でははるかに高コストですが、最近は多くの反響を呼んでいます。DAC企業のClimeworksとCarbon Engineeringは、両社とも投資家から1億ドル以上の資金を調達しており、Carbon Engineeringは最近、年間100万トン以上のCO2を回収可能なDACプラントをパーミアン盆地に建設すると発表しました。
DACは、ネガティブエミッション技術(NET)、すなわち大気からCO2を能動的に除去できる技術の一例に過ぎません。NETは、植林から岩石風化促進法に至るまでのさまざまな技術を幅広い開発レベルで網羅しています。各NETには、それぞれ利点と課題があります。植林は概念上、簡単かつ安価に開発できますが、CO2の回収速度は遅く、吸収されたCO2が大気中に再放出されやすい傾向があります。対照的に、風化促進は恒久的にCO2を隔離できる可能性がありますが、長期的な生態系への影響はほとんど解明されていません。また、実施に極めて大きなコストがかかる可能性もあります。結局のところ、どのNETも単独では気候変動への解決策になり得ないため、NETが将来発達するだろうという希望は、今行動を起こさない理由にはなり得ません。

Technical and environmental characteristics of NETs. 出展: IDTechEx調査レポート 「二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)2021-2040年」
点源からあるいは大気から直接回収したCO2は、気候変動に寄与することがないように地下に埋めるか、産業利用が可能な製品に加工することができます。現在は、回収されたCO2のほぼすべてが地中に貯留されており、その大部分は加圧したCO2を古い油井に注入して石油の回収量を増やす石油増進回収(EOR)に利用されています。ただしこれには多少問題があります。EOR以外では、地中貯留を直接収益化することは困難であるということと、一般的にEORでは回収したCO2を使用してより多くの化石燃料を生産するため、持続可能性上の適性が疑わしいことは言うまでもなく、商業的に採算が取れるように石油価格を高くする必要があります。世界各国の政府は、企業のCCUSへの投資を促すために、炭素税やその他のカーボンプライシング制度を導入し始めています。これらはCCUSにとって重要な産業上のドライバとなる可能性があります。
CO2は埋めるのではなく産業利用が可能な製品に変換することも可能です。CO2はいくつかの化学反応の出発原料として利用できるため、燃料やプロセス薬品、建築材料などを製造することが可能です。これにより、回収した炭素から収益を生み出せるようになり、CCUS技術に投資する商業的動機がもたらされる可能性があります。しかしながら、CO2は非常に安定した分子であり、有用な製品に変換するには往々にして多くのエネルギーが必要になります。このため変換はコストがかかるプロセスとなっています。また、化石エネルギー源が使用されている場合、より多くのCO2が放出されることになる可能性があります。研究では、太陽放射などの代替エネルギー源を利用しながらCO2の有効利用プロセスにおけるエネルギー効率を改善することに焦点が当てられています。
本来なら排出物として放出されていたはずのCO2を有効利用することで、気候変動を和らげることが可能です。しかしながら、製品やサービスでCO2を使用したとしても、長期的に見た全体的な排出量が必ずしも削減される訳ではありません。CO2有効利用の路線に関連する潜在的な気候への恩恵を数値化することは複雑かつ困難であり、ライフサイクルでのアプローチが必要となるかもしれません。CO2の利用に関連する気候への恩恵は主に、化石系燃料や化学物質、従来の建築材料など、ライフサイクルでのCO2排出量が多い製品やサービスを置き換えることからもたらされます。

Utilization pathways of captured carbon. 出展: IDTechEx調査レポート {「二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)2021-2040年」
さらに詳しくは、IDTechEx調査レポート二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)2021-2040年で、ご確認ください。
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