IDTechEx技術ハイライト2020: 熱管理

IDTechEx技術ハイライト2020: 熱管理

IDTechEx技術ハイライト2020: 熱管理
熱管理は、電気自動車用バッテリーパックからデータセンター、5G機器に至るまで、多くの技術や市場にとって重大な考慮事項となっています。2020年のいくつかのニュース記事、発表、トレンド、買収案件は、これら先進技術分野において効果的な熱管理が必要であることを浮き彫りにしています。熱管理分野の部品と材料のサプライヤーに巨大な市場が開かれています。2020年も、複数の業界と材料サプライヤーは引き続き、製品の設計と材料の選択に関して、熱関連を重視した取り組みを行っています。
電気自動車(EV)
電気自動車(EV)は自動車産業の未来ですが、残念ながら2020年は、バッテリーからの出火によりEVリコールの年となったようです。中国では、7社の自動車メーカーで10,579台のバッテリー式電動輸送機器(BEV)とプラグインハイブリッド(PHEV)が火災の危険のためにリコールされました(1月~10月)。GMは68,667台のシボレー・ボルトをリコールし、火災の危険性があるため、車を家屋の近くやガレージの中に駐車しないよう所有者に通達しました。これは、一部の自動車メーカーに限られたことではありません。業界の関係筋がIDTechExに対して明かしたところによりますと、EVは従来の車よりも安全なものになるが、EVを手がけるほぼすべてのメーカーが、これまでに少なくとも1件の重大な火災関連の事故を起こしているとのことです。これらの火災の原因はさまざまであり、セル内への混入物が原因のケースもあれば、うまく熱設計がされていないことでバッテリーが過熱するケースもあります。根本原因にかかわらず、セルの過熱を防ぎ、熱暴走の検知・封じ込めを行うことの重要性は、ますます高まっています。
 
EVには効果的な熱管理が必要な箇所がいくつかあり、高電圧バッテリー、走行用モーター、パワーエレクトロニクスはすべて、最適に動作するために特定の温度範囲を必要とします。これを車両のキャビン内空調に組み込む方法も重要な領域となっています。近年では、EVメーカーがバッテリーの受動的冷却または強制空冷から、水-グリコール系に移行する動きが見られました。2019年には液冷式バッテリーが電気自動車において最もポピュラーなバッテリー冷却の形式となっており、このトレンドが2020年も続いています。これまで日産は、EV(リーフ)に空冷式を採用していましたが、新しく発表されたアリアでは水冷式を採用しています。ホンダ初のEVであるHonda eは、水冷式バッテリーパックを搭載し、2020年に最初の出荷が行われました。2020年は、高度な水冷システムを搭載する800Vのバッテリーパックを使用した、ポルシェのタイカンが初めて正式に出荷された年でもありました。
 
The trend towards liquid cooling has progressed into 2020 and we expect this to continue in the future.  出展: IDTechEx 「電気自動車(EV)の熱管理 2020-2030年」
 
キャビンの暖房は、内燃機関を搭載する自動車がEVよりも優性な領域の1つです。燃焼機関の余熱はキャビンを暖めるのに利用できますが、EVでは、バッテリーを消耗する簡素な抵抗ヒーターを利用するものが多くなっています。バッテリーの効率的な冷却と加温が可能なヒートポンプには、ますます多くの信頼が寄せられています。バッテリーを冷却する際、余熱はキャビンヒーターに送られますが、外気の熱をキャビンヒーターに向け直すことも可能です。日産は2013年に最初にヒートポンプを導入しました。2020年には、発売したEV車種の大半にヒートポンプを搭載しており、このヒートポンプの中にはVW、ヒュンダイ、ミニ、ボクスホールなどから提供を受けたものも含まれています。2020年には、テスラ・モデルYの最初の出荷が行われました。モデルYは、ヒートポンプを使用したテスラ初のモデルです。その後、モデル3にも2021年のモデルチェンジでヒートポンプを導入するとテスラは発表しています。
 
EV市場が急速に成長するにつれて、火災事故がより頻繁に発生する可能性があります。このことは、規制と材料ソリューションの観点から、火災予防により一層重点を置く必要があることを意味しています。液冷システムとヒートポンプ技術の利用の増加は、メーカーがいかに熱管理と実装ソリューションの重要性を考慮しているかを示しています。
IDTechExは、電気自動車の熱管理についての調査レポート 「電気自動車(EV)の熱管理 2020-2030年」を発行しています。
5G
5Gは、超高速のダウンロードと超低遅延の通信を約束するものです。最初の5Gスマートフォンは2019年に市場に登場しましたが、市場が急速に拡大し始めたのは2020年です。初期の5G携帯では、特にミリ波使用時に気温が暖かいと急激に過熱し、温度を下げるために4Gに切り替わることがよく報告されていました。ミリ波アンテナ関連の材料の利用により、信号伝搬上の課題も明らかになっています。これは、材料サプライヤーがこれらの課題に取り組む機会となっています。主な市場は、サーマルインターフェースマテリアル(TIM)、ヒートスプレッダ、断熱材向けのものとなります。近年では、熱拡散を改善するスマートフォン内のベイパーチャンバーの用途が増えています。しかしながら、いくつかのハイエンドモデルでは、複雑さを抑え、コスト、重量を削減するためにグラファイトヒートスプレッダが依然として使用されているため、その将来は決して安泰とは言えません。例えば2020年には、これまでベイパーチャンバーを推進していたサムスンが、それに代えて、グラファイトヒートスプレッダや銅製ベイパーチャンバーをNote2に使用しました。さらに、Apple初の5G対応スマートフォンのiPhone 12の全ラインナップには、ベイパーチャンバーではなく、グラファイトヒートスプレッダが採用されました。
 
2020年には、5G用途向けにいくつかの新しい熱材料がリリースされました。TIMについては、6.5W/m・Kの熱伝導率、150ミクロンのボンドライン厚を実現したDOWSIL TC-3065サーマルゲルをダウが発表し、その用途として光トランシーバ、SSD、その他のネットワーク機器を挙げています。ヘンケルも、6.0W/m・Kの熱伝導率を持つゲルタイプのTIM、BERGQUIST LIQUI FORM TLF 6000HGや、熱伝導率10W/m・KのBERGQUIST GAP PAD TGP 10000ULMなど、5Gインフラ向けのTIMのラインナップを発表しており、12W/m・Kの製品も計画しています。材料に関する2020年のもう1つの大きなニュースは、W.L.ゴアがスマートフォン向け材料、Thermal Insulationを発表したことです。この材料は、空気よりも熱伝導率が低く、機器表面のホットスポットを減らすのに役立ちますが、信号の伝播に苦労する可能性のある新しいミリ波5Gアンテナにも対応します。IDTechEx関連調査記事
 
5Gの展開に伴い、ダウンロード速度の向上と低遅延化を目的にミリ波周波数の利用が増えています。 出展: IDTechEx 「5Gにおける熱管理」
 
5Gの展開が急速に進み、特にミリ波の利用が増えたことで、熱管理の市場では、スマートフォンと通信インフラ向けの各種材料・部品に関してさらなる課題と機会が生まれています。
IDTechExは、5Gの熱管理についての調査レポート「5Gにおける熱管理」および、熱伝導材料に関する調査レポート「サーマルインターフェイスマテリアル(熱伝導材料) 2020-2030年:見通し、技術、市場機会」を発行しています。
注目すべき買収・提携
2020年10月、ハネウェルは、ネバダ州を拠点とする、熱・エネルギー・電力の管理ソリューションのリーダー企業であるRocky Researchを買収しました。この買収により、ハネウェルは航空宇宙市場における熱材料のラインナップを大幅に拡充することになります。Rocky Researchは、米国国防総省と国土安全保障省をサポートするいくつかの大型契約をこれまでに取り付けています。
 
Rex Materials Group(RMG)は、2020年6月にユニフラックスによって買収されました。ユニフラックスは、熱管理、排出制御、バッテリー、特殊フィルター、防火用の高性能特殊材料を提供しており、Clearlake Capital Group, L.P.の支援を受けています。RMGをグループに加えることで、ユニフラックスの高温仕様熱部品のラインナップが広がります。
 
2020年10月には、CAVU GroupがLatent Heat Solutions, LLC(LHS)を買収しました。CAVUは、熱管理・温度監視ソリューションのリーディングカンパニーです。LHSは、市販のバッテリーのエネルギー貯蔵と熱の影響を受けやすい部品の温度安定化のための熱管理システムを提供しています。LHSの技術には、相変化材料(PCM)が使用されており、バッテリーセルの熱暴走を防ぐのに役立ちます。この合併により、CAVUの革新的な材料、技術力、生産能力が向上すると言われています。
 
KULR Technology Group, Inc. は、航空宇宙用途のリチウムイオン電池向けに受動伝播耐性バッテリー設計ソリューションを提供するべく、エアバスとの提携を発表しました。KULRの技術には、熱暴走や内部短絡の防止が含まれています。KULRの設計には、個々のセル、カーボンファイバーコア、冷却液を分離するスリーブ状のシールドが用いられています。
まとめ
2020年は、メーカーがより効果的な熱管理を求めるトレンドが続いただけではなく、スマートフォンの過熱、電気自動車の火災やリコールなど、さまざまな側面が世間の注目を浴びました。成長し続ける熱材料の市場では、いくつかの用途において多様な機会が生まれ、今後数年間にわたり急成長を続けていくと思われます。2021年以降も熱管理に対する圧力は高まり続けると思われますが、この課題は、ますます多様化する用途においても工学・材料ソリューションによって解決されていくでしょう。
 
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